巨人のドラフト指名を拒否した男
この時期、週刊ベースボール2月25日増刊号(ベースボール・マガジン社刊)をはじめ、今年のプロ野球の選手名鑑が発売され始めましたね。敗戦処理。は選手名鑑と毎年3月頃に発売される小関順二氏の「プロ野球 問題だらけの12球団」シリーズ(草思社刊)を観て新人選手の顔と背番号、プロフィールをインプットするのをこの時期の恒例行事にしているのですが。
今年の新人選手は高校生ドラフトで指名された選手と大学・社会人ドラフトで指名された選手と両方いるので、週刊ベースボールでは高校生ドラフトでの指名順位を○で、大学・社会人ドラフトでの指名順位を□で囲って区別していますが、それ以外にも希望枠入団は「希」、昨年までの自由獲得枠は「自」と表記したり、年度によって呼び方が「ドラフト○位」だったり「○巡目」だったりと、混迷するドラフト制度の実態が名鑑からもうかがわれますね。
昨年のドラフトでは高校生、大学・社会人ドラフトを通じてひとりだけ入団に至らなかった選手がいました。ジャイアンツが高校生ドラフトの4巡目で指名した済美高の福井優也投手です。ジャイアンツがドラフトで交渉権を得た選手に入団を拒否されたのは1980年の中京高・瀬戸山捕手以来25年ぶりだそうです。
福井投手がジャイアンツへの入団を拒否した理由は当初、4巡目の指名という評価が低くて不満だったからだと報じられましたが、その後済美高の関係者が「大学生や社会人と分離したドラフトでの4巡目ということは、例年の一括のドラフトなら7~8巡目に当たる。高校からそのくらいの下位で指名されてもプロで活躍できる確率は低いので、それならば大学なり社会人でステップアップして再びドラフトにかかるような選手を目指した方がよい」と話していました。後から付けた理由という感じもありますが、もしそうならばドラフトでの指名順位に「不満」なだけでなく「不安」なのでしょうね。
実際ジャイアンツは近年、逆指名制度や自由獲得枠でその年度の大学生あるいは社会人のドラフト候補のトップクラスを引っ張ってきてレギュラーに据えるという形がほとんどでしたから、高校生でジャイアンツから下位指名されて活躍できる確率は低いのかもしれません。
過去十年間のドラフトを調べてみました。
ドラフト4位、あるいは4巡目以降にジャイアンツから指名された高校生をピックアップしてみました。
1995年
上宮高・大場投手(後に外野手)、水戸農高・小林投手
1996年
相馬高・鈴木尚内野手(後に外野手)、花園高・宇野投手
1997年
松商学園高・田中投手(後に内野手)、東海大四高・吉村将内野手
1998年
中央学院高・安原投手、矢上高・酒井投手
1999年
阿南工高・條辺投手
2000年
光星学院高・根市投手、広陵高・川本投手、八幡西高・山下内野手、敦賀気比高・李捕手
2001年
池田高・十川雄投手(後に外野手)、市立船橋高・林投手
2002年
東海大望洋高・長田内野手、熊本工高・山本外野手、都立日野高・横川捕手
2003年
徳島商高・平岡投手、東北高・佐藤弘捕手
2004年
一関一高・木村投手、鉾田一高・東野投手
十年間で21人が4位、あるいは4巡目以降の指名で入団していますが、この中で戦力になったのは昨シーズンストッパーとして活躍した2001年指名の林と、1996年指名の鈴木が足のスペシャリストとして2002年の優勝に貢献したのと、残念ながら戦力外通告を受けましたが1999年指名の條辺くらいでしょう。逆に一度も一軍で出場せずに戦力外通告を受けた選手が育成選手になる横川と平岡を含めると11人もいます。
2000年以降のドラフトで指名された選手達は年齢的にはこれから一本立ちする可能性に期待したいところですが、2000年以降の13人の中で、6選手が既にジャイアンツから戦力外通告を受けています。5年間で過半数がクビになっている訳です。
福井投手サイドがこういうデータを調べたかは定かではありませんが、大学なり社会人に進んでさらなるステップアップをして再度プロにチャレンジするというのもわかるような気がします。
もっともこの傾向はジャイアンツに限ったことではありません。同じ期間、他球団の4位、あるいは4巡目以降に指名された高校生を調べてみますと、活躍したと言える選手は極めて少ないのです。オールスターゲームに出場した選手は1995年スワローズ4位の石井弘寿投手、1996年ベイスターズ4位の石井義人内野手、同年マリーンズ4位の小林宏之投手、同年ファイターズ7位の高橋信二捕手、1999年旧バファローズ5位の岩隈投手、同年ホークス4位の川崎内野手、2000年ライオンズ5位の中島内野手と全球団合わせても7人しかいません(該当対象選手数172人)。この7人に次ぐ活躍度というと、1998年ファイターズ4位の森本稀哲外野手、同年ベイスターズ6位の小池正晃外野手になります。全体的に高校生の下位指名組は一本立ちする確率が低いようですね。各球団のファームに育成する能力が欠けているのか、そもそもプロの第一線で活躍できるレベルの選手がそんなに存在しないのか、どちらにせよ根深い問題かもしれませんね。
ドラフト制度の改革は球界再編の中でも大きな課題の一つで、ジャイアンツなど特定球団に有利に働く制度にメスが入るのは必至でしょう。ジャイアンツも希望枠などで大物選手を一本釣りするだけでなく、幅広いスカウト網と、育成システムの構築にもっと力を入れて下位指名選手を戦力にしていかないと、さらなる先細りは防げないでしょう。もちろんこれはジャイアンツに限らず、どの球団にも共通する課題なのでしょうが。
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コメント
ハマー様、コメントをありがとうございました。
> 逆に一度も一軍で出場せずに戦力外通告を受けた選手が育成選手になる横川と平岡を含めると11人もいます。
この件ですね。
たしかにご指摘の通りです。平岡は高校から入って一年目に一軍で公式戦に投げています。失礼しました。
というか、実際に神宮でジャイアンツが大量リードした試合に登板したのを観ました。
平岡が一軍で投げた時には、堀内前監督の現役時代以来の、高校卒ルーキー投手の4月の一軍デビューと話題になりましたね。
平岡は結局故障が回復せず、ジャイアンツが主宰するちびっ子達への野球教室の講師になったのでしたね。
大変失礼いたしました。またご指摘ありがとうございました。
これからも、敗戦処理。blogにお気軽に遊びにいらして下さい。
投稿: 敗戦処理。 | 2008年11月 1日 (土) 22時08分
始めまして。
平岡投手って、1年目(育成枠に降格する以前)に一軍で投げていませんでしたっけ?
「巨人で高卒1年目ながらに一軍マウンドに上がっているのは稀だ」
ということで、当時話題になったと思ったんですけど。
投稿: ハマー | 2008年10月31日 (金) 18時49分