昨シーズンは古田敦也と野村謙二郎が2000本安打の偉業を達成しましたが、今シーズン、2000本安打に最も近いのがベイスターズの石井琢朗。昨シーズンまでに1961安打を放ち、残り39安打。本数的には残り33安打の田中幸雄の方が近いですが、レギュラーポジションをつかんでいませんので実質的には石井が最も近いと言って差し支えないでしょう。2000本安打の達成者は昨年の古田と野村を含めてプロ野球史上33人。紛れもなく金字塔だ。
石井琢朗は昨シーズンまで主に遊撃をポジションとしているが、過去に遊撃を主たるポジションにして2000本安打を達成した選手には藤田平と前出の野村がいるくらい。しかし二人とも2000本安打達成時には他のポジションにコンバートされており、遊撃を守りながら2000本安打に到達すれば、石井が初めてのケースになります。
遊撃手というポジションは寿命が短いポジションなのです。
日本プロ野球における、ポジション別通算最多出場選手を列記する。
投手 米田哲也 949試合
捕手 野村克也 2,921試合
一塁手 王貞治 2,799試合
二塁手 高木守道 2,179試合
三塁手 長嶋茂雄 2,172試合
遊撃手 吉田義男 1,730試合
外野手 張本勲 2,429試合
福本豊 2,293試合
山本浩二 2,273試合
投手を別にすれば、遊撃手の最多出場選手の試合数が明らかに他のポジションより少ない。2000試合出場した選手がいない唯一のポジションであることがわかります。
これは第一に、このポジションが他に比べて負荷が多いことが理由として考えられますが、それゆえに遊撃を守る選手であっても、攻撃面に秀でた選手は他のポジションにコンバートされるケースが多いこともこのポジションを守りながら2000本安打を達成する選手が出ない理由だと敗戦処理。は考えます。特に1976年度に後楽園球場が日本で初めて人工芝の球場になったのを皮切りに、本拠地球場が次々と人工芝になっていった80年代以降、遊撃手の短命化と、他ポジションへのコンバートの傾向が強まったように思えます。
ここで遊撃手としての通算出場数ベスト10を記しておく。
1位 吉田義男 1,730試合
2位 豊田泰光 1,579試合
3位 白石勝巳 1,561試合
4位 高橋慶彦 1,543試合
5位 小池兼司 1,494試合
6位 石井琢朗 1,378試合
7位 河埜和正 1,370試合
8位 田中幸雄 1,356試合
9位 水上善雄 1,307試合
10位 川相昌弘 1,293試合
石井琢朗はレギュラーになって四年目の1996年、それまでの三塁から遊撃にコンバートされ、以後定着しています。昨年35歳になった石井が遊撃のままで2000本安打を達成したら、ひときわ高い価値のある2000本安打であるということを賞賛したいと思います。
いろいろと調べてみたのですが、人工芝球場の増加が始まった80年代以降、遊撃を守り続ける選手にとって33歳という年齢が節目になるケースが多いようです。
遊撃手としての出場数歴代4位の高橋慶彦は33歳になる1990年のシーズンを前にカープからオリオンズにトレードされましたが、同じポジションの水上とのトレードであったにもかかわらず遊撃手としての出場が前年の124試合から29試合と激減。前年まで12年連続して規定打席に達していましたがこの年から規定打席に到達できなくなりました。翌年には外野にコンバートされました。
7位の河埜和正はジャイアンツのV9終了後、前任者の黒江透修に代わってジャイアンツの遊撃を任されるようになりましたが、33歳になった1984年までがレギュラーでしたが、翌1985年から出場数が激減。甲子園球場でフライを落球し、タイガースの序盤戦の好ダッシュを助けてしまったあの有名なプレイも33歳の時でした。
8位の田中幸雄は一軍デビューから遊撃を守っていましたが、右肘の痛みが持病となり、33歳で迎えた2001年に外野にコンバートされ、その後三塁や一塁を守るようになりましたが、遊撃に復帰という話はありません。
10位の川相は33歳になった1997年まではジャイアンツの「二番・遊撃」が指定席でしたが、翌年6年ぶりに遊撃としての出場数が二桁になってしまい、その翌年に二岡智宏が入団すると完全にポジションを奪われました。
ベストテン圏外でも11位の山下大輔(1,281試合出場)は33歳になって最初のシーズンになる1985年から二塁にコンバートされました。先日亡くなられた近藤貞雄さんが当時のホエールズの監督で、内野の右半分と左半分をそっくり入れ替えるコンバートを断行したことを覚えている方も少なくないのでは。
さらに12位の野村謙二郎(1,234試合出場)は33歳のシーズンを最後に三塁にコンバートされました。
もちろんすべての遊撃手が33歳前後で節目を迎えている訳ではありません。現役では石井の他に宮本慎也も33歳を超えてなお遊撃を守り続けています。また前述のように攻撃優先で他のポジションにコンバートされるケースも少なくなく、井口資仁、池山隆寛、宇野勝らがそれに当たります。
石井は昨年、公式戦全試合、全イニングにフル出場しました。2000本安打が近くなり、一打席でも多く機会を与えようというチームサイドの配慮もあったのかもしれません。しかし35歳という年齢でのフル出場はきつかったのか、打率.255、8本塁打、40打点、18盗塁という平凡な成績に終わりました。ベイスターズは昨年、四年ぶりにAクラスに返り咲きましたが、シーズンの終盤に4位から3位に浮上した勝率5割未満の3位で、今シーズンはさらなる浮上が望まれます。チームの斬り込み隊長を今年も石井に託すのであれば、石井は早めに金字塔を達成し、それ以降は無理せずに休む試合をつくるとか、試合終盤に退くケースを増やすなどの配慮が欲しいところですね。2003年と2004年に石井に次いで遊撃としての出場実績がある内川聖一との併用になるかもしれませんね。
そして、石井が無事2000本安打の金字塔を達成した時にマスコミがその特異性をどれだけきちんと報道してくれるかも興味深いところです。
* 本稿の趣旨からは外れますが、石井は投手として入団し、公式戦で1勝という記録が残っています。公式戦で勝利投手になった選手の2000本安打達成は川上哲治(11勝)に次いで二人目です。このことの方が取り上げられそうですね。
最近のコメント