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2006年6月15日 (木)

日本のプロ野球から「誤審問題」が減らない理由

11日のマリーンズ対ジャイアンツ戦の李承燁(イ・スンヨプ)の「幻の本塁打」に関してジャイアンツの清武英利球団代表は13日、セ・リーグに対し、あのシーンで走者の小関竜也が三塁ベースを踏んでいることが証明できる証拠映像を持参して抗議書を提出した。証拠映像とはフジテレビ系列の「すぽると」で放送された映像とのこと。当初、原辰徳監督は再試合の開催まで求める強硬なコメントを発していたが、球団代表は現実的な落としどころとして誤審であることを認めること、記録の訂正、ビデオ判定の導入などを申し入れたようだ。応対したセ・リーグの大越英雄事務局長は「検討してお答えします」と返答を保留した。

まず始めに敗戦処理。の立場を鮮明にしておこう。仮にビデオ映像によって小関が三塁ベースを間違いなく踏んでいたことが判明したとしても、グラウンドでリアルタイムに観た審判員が「小関は三塁ベースを空過した」と判断してマリーンズの今江敏晃によるアピールを認めてアウトと判定した以上、その時の原監督の抗議で覆らない限り、あれは「アウト」であるというのが敗戦処理。の意見。理由は、当該審判員の眼によってその場で下された判定は、それ以外に客観的な証拠が存在したとしても、それによって後から覆されるべきではないという考えに基づく。

もしも「すぽると」のVTRが、小関が間違いなく三塁ベースを踏んでいたということを証明し得るものであるならば、西本欣司審判員(当日の三塁塁審)の誤審となるが、だからといって判定を覆すものではなく、再発防止のための教材、当該審判員の瑕疵の程度によってはペナルティを課す材料にすればよい。清武代表が主張するビデオ判定導入が本当に有効な手段なのか検討する叩き台にするもよし。

  • ちなみに敗戦処理。も後からフジテレビの番組でその映像を見たが、残念ながら、踏んでいるとも空過しているとも、どちらともとれる映像だと感じた。少なくとも原監督や清武代表が語っていたように、誤審と確信するほどのものとは思えなかった。

敗戦処理。は日本のプロ野球のファンになって約30年を過ぎ、様々な試合、様々なシーンを、球場やテレビで観てきた。はっきり言って、審判のミスジャッジなんて日常茶飯事である。今回のようにVTRで検証するまでもなく誤審とわかるものも少なくない。誤解を恐れずに言、「誤審も野球のうち」とすら思っている。そしてそのことは日本のプロ野球のファンの大半は(肯定するか否定するかはともかく)覚悟していることである。

それなのに、(今回の小関の件のみを指すのではなく一般論として)なぜ日本のプロ野球から誤審騒動や判定にまつわるトラブル、即ち「誤審問題」がいっこうに減らないのだろうか?

これまた誤解を恐れずに言わせてもらおう。日本のプロ野球において「誤審問題」などそもそも存在しないのである。

そこにあるのは「自分のチームに対して不利な誤審問題」のみであり、審判員によるミスジャッジを亡くそう、あるいは減らそうなどとはどのチームも考えていない。

敗戦処理。が参加しているベースボールフォーラムには建設的議論のための掲示板があり、過去に目立った疑惑の判定がある度に敗戦処理。を含め、多くの面々がいろいろな改善案を出したりして議論を重ねていたが、そのほとんどは(敗戦処理。を含め)贔屓チームが不利なミスジャッジをされた者が中心となっての議論の域を越えていない。ファンなんてその程度のものだという声が聞こえてきそうだが、ファンだけでなく、各球団、現場レベルもほとんど同じなのではないか。

良い例が審判四人制に起因する判定トラブル。本塁打かファウルか、スタンドインかフェンスに当たってインプレイかという微妙な判定で激しい抗議の度に審判六人制の復活を求める声が上がる。それは正論だと思うが、四人でやっているものを六人でやれば、単純計算で1.5倍の人件費がかかる。もちろん年間を通してだ。それは誰が負担するのか。十二球団から拠出するのか?その分の負担増が具体的にいくらになるのか想像もつかないが、多額の赤字に悩んでいる球団が多い中で、もろ手を挙げて賛成する球団は少ないだろう。そういう根本的な問題には触れず、単に腹いせで抗議しているとしか見受けられないのである。

本当に誤審問題を論ずるのであれば、不利な判定をされた方が(今回のジャイアンツのように)証拠を集めて問題提議をするだけではダメで、有利に誤審してもらった方も「実は…」と切り出して、何故誤審が起きるのか、どうすれば防げるのかという議論をしなければ、本当は意味がないのである。誰がそんなばか正直なことをするものか!などと言っていては先に進まないのである。そこまでやって初めて、誤審の原因追及に近づくのである。それは審判員の技術の未熟さだけによるものなのか、それ以外にあるのか。そしてその議論の先には、選手は審判に(自分または自軍に)有利な判定を誘発するようなプレイをすべきなのか、審判が最も正確に判定しやすいように最善の協力をすべきなのかという議論にたどり着くはずなのである。そしてそれこそが実は、判定を巡るトラブルの度に持ち出される「審判の権威」とは何かという、根本の問題に立ち返るのだ。

かなり古い例えになるが、かつてのカープの達川光男のように(打席で投手の投球に対して)当たってもいないのに「当たっている。死球だ」というポーズの抗議をすることは審判に対する侮蔑行為に当たるのではないかという問題も本来は議論されなければならなかったのだ。ファンのレベルで達川の行為を、いわゆる「珍プレー・好プレー」的な楽しみ方をするのはともかく、球界内部で放置してしまったことがこの問題が何年たっても何の進展もなく繰り返されている象徴のように敗戦処理。は考えている。

多少横道にそれてしまった。要するに、個々のプレイ、ジャッジに対する損得勘定に左右される問題提議のレベルのままでは、仮に審判の人数を四人から六人に戻そうとも、球場に何十台もの高性能ビデオカメラを設置しようとも、その後も誤審問題は発生し続けるだろう。本当に誤審問題を改善するためには、プレイの当事者がすべて立ち会って、本音で議論しない限り、抜本的な改善はありえない。これは断言しても良いと思う。

誤審は審判が公平である限り、どの球団をも等しく不利にし、等しく有利にするはずである。要するに球団間においては「お互い様」なのだ。しかし人はおうおうにして自分が得をしたことよりも、損をしたと思っていることの方が印象に残るものであり、それゆえに「誤審問題」というと、どの球団も自分たちは被害者だと言い出すだろう。しかし実際には誤審によって得をした回数も損をした回数もそんなには差がないはずなのである。被害妄想といおうか…。

それが証拠にWBCを思い出して欲しい。対アメリカ戦で西岡剛のタッチアップが早いとしてアピールアウトを認めた審判員の名前を今でも覚えている人は多いだろうが、決勝の対キューバ戦、九回表の川崎宗則の好走塁-厳しいブロックをくぐり抜けて右手が一瞬だけホームベースにタッチ-を正確にジャッジしてくれた球審、トム・ハリオンの名をどれだけの人が把握し、今も記憶しているだろうか<苦笑>

もちろん川崎生還を誤審と言っているのではありませんよ、念のため。

ひょっとしたら球界内部、特に各球団(あるいは選手会)がこの問題に本気で取り組む姿勢を見せないのは「お互い様」だと思っているからかもしれない。今回のジャイアンツの球団代表による抗議も、小関や李の名誉を回復するための行為に過ぎないのかもしれない。

しかし誤審がお互い様で良いわけはないのである。そのたびにどこかのファンが激しい憤りや、やり場のないストレスをため込むのである。もちろん現場のプレイヤー達も、実際にはそのはずである。そしてそのたびに試合が中断したりしているのでは、試合時間が長くなるなど、結局そのツケはファンに向けられてしまう。それならば球界全体で、審判の誤審、疑惑の判定を減らす方向で努力しなければならないのは当然のことだと思うが、残念ながらそこまで考えて広い視野に基づいてこの問題に取り組んでいる人物は日本のプロ野球界にはいないのだろう。これも断言しても良いと思う。

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コメント

西清治様、コメントをありがとうございます。

> 誤審は「お互い様」というご意見はまさに卓見だと思います。特定の球団に贔屓している審判がいるという意見もよく耳にしますが、きちんとしたデータに基づいて言っているとは思えないですね。

ファン心理としては、「もうけた!」と思う回数と「やられた…」と思う回数が実際には同じでも、「やられた…」という意識が強くなるのは仕方ないと思います。

いわゆる“ジャンパイア”はちょっと説得力にうすいような…

> 結局誤審問題を解決するには、審判を育てるシステムをきちんとするのが一番大事だし、費用も安いと思います。具体的には、高校、大学、社会人野球の審判も対象にした審判学校を作るべきでしょう。ただ、NPBとアマ側の主導権争いが起こりそうですが…

とある選手名鑑によると、NPBの現役の審判員は全員アメリカの審判学校を経ていますね。元NPB選手とて例外でないようです。

以前にアマチュアの審判員資格を持っている人が話していたのを聞いた事がありますが、NPBでもファームではよく見られる審判三人制のフォーメーションがNPBとアマチュアで部分的に異なるそうです。若手審判員が実戦経験で腕を磨くためには三人制で試合を裁くのはよい訓練になるらしいのですが、それがアマとNPBで異なるのでは問題があるような気がします。

しかしこのエントリーを書いてから六年が経ちましたが、ビデオ判定導入、パとセの境界を無くした事以外、何ら前進していないように思えますが、気のせいでしょうか…

投稿: 敗戦処理。 | 2012年11月 3日 (土) 00時44分

敗戦処理。様

いつもブログ更新並びにツイートお疲れさまです。わたしは最近すっかりブログ更新をサボってしまっています(^^;;

誤審は「お互い様」というご意見はまさに卓見だと思います。特定の球団に贔屓している審判がいるという意見もよく耳にしますが、きちんとしたデータに基づいて言っているとは思えないですね。

結局誤審問題を解決するには、審判を育てるシステムをきちんとするのが一番大事だし、費用も安いと思います。具体的には、高校、大学、社会人野球の審判も対象にした審判学校を作るべきでしょう。ただ、NPBとアマ側の主導権争いが起こりそうですが…

投稿: 西清治 | 2012年11月 2日 (金) 13時11分

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