意味のない比較?-小笠原歴代通算打率2位に!
ファイターズの小笠原道大が、7月18日の対バファローズ戦での3打数(0安打)で入団以来の通算打数が4000打数となった。日本のプロ野球では通算打率の比較を4000打数以上の選手を対象としており、小笠原は通算打率の規定打席、いや規定打数に達したことになる。小笠原の通算打率は4000打数1277安打で.31925。歴代1位のレロン・リー(.320=元オリオンズ)に次ぎ、これまで2位だった若松勉(.31918=元スワローズ)を上回る2位になった。
翌日の各スポーツ紙にはけっこう紙面を割いて報じられていたが、晩年の下降期を加えたOB選手と、いまだ現役最前線の選手を同じ次元で順位を付けて評価することにどれほどの意義があるのだろうか?
ちなみに4000打数以上の通算打率ベスト10は以下の通りである。
(7月18日現在)
順位 選手名 通算打率 打数-安打 主な所属
1位 レロン・リー .320 4934-1579 オリオンズ
2位 小笠原道大 .31925 4000-1277 ファイターズ
3位 若松勉 .31918 6808-2173 スワローズ
4位 張本勲 .31915 9666-3085 フライヤーズ
5位 ブーマー・ウェルズ .317 4451-1413 ブレーブス
6位 川上哲治 .313 7500-2351 ジャイアンツ
7位 与那嶺要 .3111 4298-1337 ジャイアンツ
8位 落合博満 .3109 7627-2371 オリオンズ
9位 松井稼頭央 .309 4638-1433 ライオンズ
10位 レオン・リー .308 4667-1436 オリオンズ
敬称略。青文字は左打ち。緑文字はスイッチヒッター。
小笠原自身「まだ途中経過だし比べようがないけど、励みにはなる」と語っていた(7月19日付スポーツニッポン)。小笠原自身がピント来ないコメントを残すのもうなずける。前述した通り、通算打率は基本的には引退後のOB同士、あるいは逆に現役同士で比較してこそ意味があるからだ。規定の打数に到達したからといって、現役を引退したOBの中に並べて歴代2位という報道は、間違いではないが意味がないと思う。より厳密に言えば、時代ごとの条件の差も考慮すべきではあるが、このナンセンスさはそれ以前の問題だ。
そこで小笠原の現時点での通算打率.31925がどのくらいすごいのか、この選手達が4000打数に達した時点での通算打率を調べてみた。ただし小笠原と同様に4000打数ぴったりの時点を特定出来なかったので、他の9選手は4000打数に到達したシーズン末までの成績を出してみた。
あらためて順位を示すと以下のようになる。
入団から通算打数が4000に到達した年次までの通算打率ベスト10
順位 選手名 通算打率 打数-安打 主な所属
1位 落合博満 .3264 4234-1382 オリオンズ
2位 若松勉 .3257 4258-1387 スワローズ
3位 レロン・リー .3232 4072-1316 オリオンズ
4位※長嶋茂雄 .3226 4290-1384 ジャイアンツ
5位 小笠原道大 .319 4000-1277 ファイターズ
6位 ブーマー・ウェルズ .317 4451-1413 ブレーブス
7位※加藤英司 .3143 4416-1388 ブレーブス
8位 川上哲治 .3142 4220-1326 ジャイアンツ
9位 張本勲 .313 4049-1264 フライヤーズ
10位 与那嶺要 .3111 4298-1337 ジャイアンツ
敬称略。青文字は左打ち。緑文字はスイッチヒッター。
※印は上記歴代比較ベスト10圏外の選手。
下積み生活のない外国人選手が上位に来るかと思ったらさにあらず。26歳になるシーズンに入団して四年目には早くも三冠王に輝いた落合が一気に1位に躍り出た。
そして驚いた、いや実績を考えたら驚いたなどといっては失礼に当たる長嶋茂雄が堂々の4位ランクイン。長嶋の通算打率は.3052(8094-2471)。まだ小笠原が達していない昨シーズン終了時点での通算打率順位では、昨年まで10位だった鈴木尚典(.3071=4434-1362)、11位の中西太(.3066=4116-1262)に次ぐ12位。すぐ下に前田智徳が.3048(5767-1758)で迫っている。長嶋は31歳になる年度で4000打数に到達し、その後8年間プレーしているがその8年で二分近く通算打率を落としたことになる。
選手は力の衰えを理由に現役を引退するのが大半であるから、上記の選手達が4000打数到達年までの打率に比べ、生涯打率を落としているのは当然といえば当然。張本勲が珍しく打率を上げているが、4000打数に到達した後に何か打撃の奥儀を極めたのだろうか。
ちなみに長嶋の名前が出れば気になるのは王貞治。生涯成績.301(9250-2786)の王が4000打数到達したシーズンまでの打率は.294。張本と並ぶ追い上げ型だった。
これによって、歴代2位と各スポーツ紙に取り上げられた小笠原がほぼ同条件で他の選手と比較すると歴代5位だったことがわかる。いずれにしても偉業であることに変わりないが、各メディアにはどうせならここまで踏み込んで調べて欲しい。
ところで今回は小笠原が通算打率の規定打席である4000打数に到達したのでいろいろと調べてみたのだが、もうちょっとでこのランクに段違いの成績でランクインしていた選手がいたことに気づいた。
イチローである。
イチローは日本では通算4000打数に到達しておらず、3619打数。安打数が1278で、通算打率は何と.353。4000打数までの不足数は381打数だから、日本でもう一年プレーしていたら、堂々のトップでのランクインを果たしたことになる。イチローの大リーグ・マリナーズへの移籍はFAではなくポスティングシステム。あと一年ブルーウェーブでプレーしてFA権を取得しての移籍だったなら…。
イチローは旧ブルーウェーブに推定14億円という移籍金をもたらして日本での通算打率1位の座を放棄したのか<笑>?
そしてもう一人惜しかったのがロベルト・ローズ。
1993年から2000年までベイスターズでプレーしたローズの通算成績は3929打数。安打数が1275で、通算打率は.3245。打数の不足数はイチローより少ない71。開幕から一ヶ月試合に出ていれば到達出来る数字だ。契約でもめての退団であったが、契約でもめるのがもう一年遅かったら…<苦笑>。ちなみにローズは2003年に突然日本球界復帰を果たす。当時マリーンズの監督だった山本功児が現地でローズのプレーを確認して「日本でまだまだ活躍出来る!」と確信しての契約であったが、春季キャンプ中に退団が決定。突如芽生えた通算規定打数到達のチャンスを逃してしまった。当時、入団が報じられた頃からローズを不安視する声は上がっていたが、仮に開幕まで在籍し、出場してから不足数の71打数0安打で自信をなくして引退しても歴代打率で4位になるところだった。71打数6安打でリーを超えるトップになるから、さすがにこの数少ない打数で歴代1位になって途中帰国でもしようものなら、歴代打率の比較に一石を投じていただろう。
ローズが波紋を呼ぶ事態を起こしていたら、今回の小笠原の報じられ方も変わっていただろうか?
実はこの書き込みは、7月22日に発表する予定で作成していたのだが、操作ミスにより発表されなかった<苦笑>。これまでに書いたようにこの比較はナンセンスであるが、小笠原は仮にこの次の試合で5打数5安打すればリーを抜いて通算打率が歴代トップになるのであったが、まだリーを抜いてはいないようだ。
※ 4000打数以上の通算打率ベスト10(7月18日現在)は7月19日付スポーツニッポンの紙面から引用。それ以外の選手の通算打率ならびに4000打数到達年次までの通算打率は敗戦処理。が調べました。謝り、漏れなどにお気付きの方はご指摘いただければ幸いです。
【参考資料】
OFFICIAL BASEBALL GUIDE 2006 共同通信社発行
THE OFFICIAL BASEBALL ENCYCLOPEDIA 2004 社団法人日本野球機構発行
※2013年2月13日追記。
本エントリー掲出時には4000打数到達年次時点の打率ランキングで第7位に与那嶺要を入れていましたが、打率の計算ミスにより、第8位の加藤英司以下を繰り上げました。与那嶺は10位になります。つつしんで訂正いたします。
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