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2006年8月 5日 (土)

マンガ版「江夏の21球」を読んだ方へ

3日に発売された「週刊ヤングサンデー36・37合併号」(小学館刊)で、かわぐちかいじ氏による、山際淳司さんの「江夏の21球」の漫画版を読みました。

敗戦処理。はこのシーンを当時リアルタイムでテレビで観ていました。山際淳司さんの文章も読みました。本作品はあくまで山際さんの原案を漫画という別媒体で再現する趣旨のようで、かわぐち氏の独自の視点などは入っていないようです。

昭和54年(1979年)、カープと旧バファローズの日本シリーズは3勝3敗ともつれて第7戦へ。勝った方が球団創立史上初の日本一になるという天下分け目の一戦。カープが4対3と1点リードで迎えた九回裏。カープのリリーフエース江夏豊は無死満塁の絶体絶命のピンチを招くが、石渡茂のスクイズ失敗などで辛うじて無失点で切り抜け、カープを日本一に導く。途中延長戦に備えてリリーフ要員を準備させた古葉竹識監督との軋轢、相手の西本幸雄監督が過去にも日本シリーズの大舞台でスクイズ失敗で明暗を分けたことがある、等の要素も絡まって様々な側面から語られてストーリーになっていく名シーンである。江夏がこのイニングで投じた投球数が21球だったことから「江夏の21球」と呼ばれる。

当時を知るものとしては、特に漫画で読んだからといって新たな感慨はないが、この漫画で初めて、この伝説のシーンの具体的な流れを知った野球ファンの方に一つ頭に入れておいていただきたいことがある。

それは江夏が、この九回裏から抑えとしてマウンドに上がったのではないと言うことだ。

実はこの試合、江夏はカープの三番手として七回裏二死一塁の場面でマウンドに上がっているのである。得点はこの時点で4対3とカープが1点リード。日本シリーズの最終戦。勝った方が日本一で、どっちにせよ最後の試合だから「最後の切り札」の出番が繰り上がったといってしまえばそれまでだが、抑えの切り札を七回途中から古葉監督は投入。今の野球とは考え方が違う点があると言うことを、初めて読んだ方には認識しておいて欲しいということです。

実際江夏がこの試合で投げたのは「21球」ではなく、2回1/3で41球なのだ。問題の場面が江夏投入から3イニング目ということを踏まえているか否かで、あの場面で古葉監督がブルペンに投手を用意させたことの是非その他への感じ方が変わるであろうからだ。

* さらに言えば、同点の場合の延長戦の規定がわかれば望ましいが、残念ながら敗戦処理。も当時の規定を把握していない。たしか17時30分を越えて新しいイニングに入らない、だったような。ちなみに現在は延長15回までだが、第7戦以降は無制限。ちなみに日本シリーズがナイトゲームになってから引き分けは一度もない。

最近はグラウンドからブルペンが見える球場の方が少なく、この時のような心境に投手がなるのも少ないだろう。スタジアムで観戦する身としては、今ブルペンで誰が準備しているかわかるスタジアムの方がありがたいが。

話が横道にそれてしまった。

江夏が抑えの切り札として活躍していた頃は、リリーフエースと呼ばれる投手達は試合終盤にチームがピンチになった場合にマウンドに向かう。この試合の江夏のように七回の途中からリリーフエースが登板するというのは極めてレアなケースだが、八回の途中とか、八回の頭から出てくることもあった。逆に九回の頭からの登板でなく、九回に同点の走者が出てからの登板も珍しいことではなかった。

つまり、チームの一大事に出ていくのがリリーフエースで、リリーフエースを抱える監督の仕事は、いつ、どの場面でリリーフエースを投入するかがポイントであった。最近は逆で、リリーフエース(という呼び方自体が死語になってしまったが)は最終回1イニングをきちんと抑えるのが仕事であり、監督の仕事はその最終回まで、どうやってリードを保って迎えるか、そのための継投をすることに変わっている。

以前は「チームの一大事」があってそこに出ていくのがリリーフエースであったが、最近ではストッパーがいて、いかにしてその登板までたどりつくかが試合のポイントになっている。主役が代わったのである。

もちろんこれは、どちらが良いとか悪いとかいう問題ではなく、時代背景の違いなのだ。ではその分岐点はと考えると、敗戦処理。流の分析ではベイスターズで権藤博監督が大魔神こと佐々木主浩を1イニング限定ストッパーとして固定し、そこから逆算してその前の数イニングをどのように継投するか中継ぎ投手のローテーション化を確立した当たりからだろう。

この作品を読んで「江夏って、凄いピッチャーだったんだな」と漠然と感想を持たれるだけではなく、最近と当時の違いなども踏まえていただいた方が、より野球のドラマを堪能出来るのではないかと思い、余計なことを書かせていただいた。この試合は当時、TBS系列の毎日放送が生中継したが、後年、TBSの「ギミアぶれいく」で九回裏1イニングの中継ビデオをノーカットで流したのが印象に残っている。こういうの、他のシーンでもどんどんやって欲しいですね。

ところで江夏がこの試合で投げたのは「21球」ではなく、2回1/3で41球なのだと書いたように、「江夏の21球」として語り継がれながらこの試合の江夏の投球数が21球ではないのと同様に、江夏のもう一つの伝説である「オールスターでの9人連続奪三振」も、実はその前後の試合を含めると15人連続奪三振なのである。9人連続奪三振の前の登板(前年)は5人連続奪三振継続でマウンドを降りており、9人連続奪三振の次の登板でも最初の打者から三振を奪っているからだ。

やっぱり「江夏って、凄いピッチャーだったんだな」

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