凡打王は誰だ?
最近は単に打率や本塁打数だけでなく、打者の価値判断をするデータが増えてきた。大リーグのアスレチックスのビリー・ビーンGMが重視する、出塁率と長打率を足したOPS(On-base plus slugging)という指標の存在がマイケル・ルイス著の「マネー・ボール」などで脚光を浴びてきている。そこでひねくれ者の敗戦処理。としては、逆に打者として、最もチームに貢献していない野手が誰なのかを調べる指標は無いものかと考えた。そして全くの独断ではあるが、現役選手の通算成績から凡打率というものを割り出し、ランク付けしてみた。
単純に打率の数字を1から引いて凡退率を出す(例えば打率.250の打者であれば1-.250で凡退率.750)というのも考えたがそれではあまりにも単純なので安打以外に四死球による出塁、犠打飛による貢献を取り除き、役に立たなかった打席数の割合を算出することにした。
計算式はこのように設定した。
凡打率=(打席数-(安打+犠打+犠飛+四球+死球+打撃妨害出塁))÷打席数
これが凡打率である。厳密に言えば、犠打や犠飛にカウントされない進塁打が凡打に含まれてしまう(バント以外の、例えば無死二塁で意図的に二塁、一塁方向にゴロを打って走者を進めるのは「犠打」にカウントされないし、「犠飛」は塁上の走者をホームインさせた飛球のみで、二塁からタッチアップして三塁に進んだ場合はカウントされない)ので、この式の分子に当たる凡打がすべてチームの役に立たなかった打席とは言えないが、一般的に表に出ている打撃成績で算出するにはこれが限界だろうということで考えた。
対象は現役選手で、2006年シーズン限りで現役引退を表明した選手、外国球界に移籍した選手、戦力外通告を受けて来季の在籍球団が決まっていない選手は除外した。そして投手は除いた。規定打席数(対象選手)は通算60打席以上。これは新人王の資格で、新人選手以外の獲得資格が野手では通算60打席以下と定められていることに基づく。この打席数を超えている選手はもはや新人とは言えないということで一人前とは言い切れないにしても、新人扱いはされない選手ということで基準とした。
まず最初に全野手対象ということで、全試合指名打者制の2004年のパ・リーグのチーム凡打率を調べてみた。
2004年パ・リーグ球団別凡打率
カッコ内はチーム打率
マリーンズ .643 (.264)
旧バファローズ .633 (.269)
ファイターズ .6324 (.281)
旧ブルーウェーブ .6323 (.283)
ライオンズ .6322 (.276)
ホークス .616 (.292)
リーグ全体 .6316 (.278)
おおよそチーム打率の逆順になっており、「打てない」、「打撃面で役に立たない」指標として使えそうだ。
次に個人の凡打率を調べるに当たって、一般的な選手の凡打率がどのくらいなのかを調べてみた。2006年の公式戦で規定打席に達した両リーグ各29選手の合計の打席数、安打数などで凡打率を算出してみた。規定打席に達しているということはレギュラーポジションを獲っている選手とみなした。
パ・リーグ29人合計 .625
セ・リーグ29人合計 .636
両リーグ58人合計 .631
これらのデータから推測すると、凡打率が.630を超える選手は平均より凡打が多い選手と思われ、当然ながら凡打率が高ければ高いほど凡打が多い、チームに貢献する打席が少ないという見方が出来そうだ。
そもそも敗戦処理。が凡打率に着目したのが、ある酒の席での「實松(一成)ほど打てない野手はいない」、「實松はせっかく巨人に移籍したのだから桑田(真澄)から打撃を教わるべき」などの話から、本当に實松ほど打てない野手はいないのか?という疑問が沸いたからである。ちなみに實松と桑田の通算打撃成績を比べてみると、
實松 561打数84安打13本塁打39打点 打率.150
桑田 890打数192安打7本塁打79打点 打率.216
どちらに、より打撃センスがあるかは…。
閑話休題、それでは現役選手凡打率ランキングを発表する。まずは上位トップ10から
順位 選手名 所属 凡打率
1位 西村弥 楽 .821
2位 田原晃司 西 .789
3位 炭谷銀仁朗 西 .774
4位 長坂健治 楽 .765
5位 仲沢忠厚 ソ .760
6位 亀井義行 巨 .755
7位 的場直樹 ソ .753
8位 鈴木郁洋 オ .751
9位 井手正太郎 ソ .750
10位 實松一成 巨 .749
1位の西村弥は、ゴールデンイーグルスの2006年の新人選手。プロの水に慣れていない新人選手を1位にしてしまうのはさすがに気の毒な気もするが、67打席に立ったためエントリーしてしまった。3位の炭谷銀仁朗(=今年から登録名を「銀仁朗」に変更)も同様。銀仁朗は契約更改の際に、松坂大輔が抜けて投手力が弱くなる分を攻撃でカバーしなければならないチーム事情を説かれ、打撃向上を課されたという。因みにライオンズで捕手登録されている選手で対象者は上記の田原晃司、銀仁朗の他に野田浩輔と細川亨。これに昨シーズン限りで現役を引退した通算298打席の椎木匠の5人の合計の凡打率は.707。今年から細川が伊東勤監督の現役時代の背番号27を受け継ぐらしいが、捕手が揃って貧打というのも伊東監督にとっては頭が痛いところだろう。チャンスで代打を送りたいが投手との相性を考えると変えたくない、そんなジレンマに何度となく悩まされたことだろう。しかし銀仁朗は打撃センスもなかなかのものがあるように思えるし、リードを勉強し、打撃に比重を置く余裕が出来れば、代打不要の存在にくらいはなれるのではないだろうか。
ちなみに上位10人中6人が捕手である。 守備重視のポジションゆえ、どうしても打撃成績が悪くても出場機会が増えるから、こういう結果も致し方ないのか。
意外だったのは、 實松より上位に来る選手が9人もいたことだ。正直、實松と細川の1位争いかと思っていた<苦笑>。ただ上位10人の中で實松は打席数が最も多い637。2位が的場直樹の328で、他の8人は實松の半分も打席に立っていないのである。打席数の多さを考えると、今後實松に打撃開眼の望みは薄く、なおかつこの10人の中で実質的に最もチームの攻撃時に足を引っ張ってきた選手と言えよう。
あとは6位のジャイアンツ亀井義行。外野手で唯一のトップ10入りはいかがなものか。左打ちの外野手で、今年三年目。昨年は開幕スタメン入りを果たした期待の星だった。既に外野守備では一定の評価を得ているようだが、外野手で凡打率がこんなに高いのは問題外である。チームメートのイ・スンヨプに二年間付けた背番号25をとられ、新たに背負う番号は35。ジャイアンツでは淡口憲治、清水隆行と左の好打者を輩出した番号で首脳陣もまだまだ期待している。ジャイアンツの外野は依然として狭き門だが、凡打率を下げてポジションを狙って欲しい。
次に11位以下を紹介する。凡打率7割を超える選手を一気に列記しよう。
順位 選手名 所属 凡打率
11位 中村公治 中 .744
12位 飯山裕志 日 .743
13位 黒田哲史 西 .741
14位 小谷野栄一 日 .7399
15位 小田幸平 中 .7395
16位 森谷昭仁 楽 .7344
17位 小野公誠 ヤ .7342
18位 松田宣浩 ソ .732
19位 藤田一也 横 .731
20位 大松尚逸 ロ .728
21位 塀内久雄 ロ .727
22位 根元俊一 ロ .726
23位 浅井良 阪 .7246
24位 小田島正邦 横 .7244
25位 代田建紀 ロ .7241
26位 辻武史 ソ .721
27位 平石洋介 楽 .717
28位 城所龍磨 ソ .716
29位 三木肇 ヤ .7129
30位 村田善則 巨 .7128
31位 鶴岡慎也 日 .712
32位 倉義和 広 .7098
33位 牧田勝吾 オ .7097
34位 吉本亮 ソ .709
35位 G・G・佐藤 西 .7077
36位 福川将和 ヤ .7075
37位 清水将海 中 .706
38位 稲嶺誉 ソ .7059
39位 草野大輔 楽 .7054
40位 米野智人 ヤ .7034
41位 志田宗大 ヤ .7029
42位 塩川達也 楽 .70283
43位 柳沢裕一 中 .70278
44位 高山久 西 .702
やっぱり捕手と主に守備要員として起用される選手が多いですね。算出し、順位を付けていて気付いたのですが、凡打率が高くなる選手というのは、単に打率が低いだけでなく、四死球や犠打、犠飛が少ない選手がより上位に来るということですね。そして別掲の一覧を参照していただければわかると思いますが、一発狙いでホームラン・バッターながら打率が低いタイプの打者でも、相手に警戒されて四死球が多い選手は凡打率は高くならないのである。
なお、ここまで外国人選手が出てきませんが、凡打率が7割を超える外国人選手がいないのではなくて、凡打率が7割を超えている外国人選手は昨シーズン限りでクビになっているのです。エリック・バレント.732、ジェイソン・グラボースキー.704、ホセ・マシーアス.703の3選手が凡打率7割を超えていました。
ちなみに2007年も引き続き日本プロ野球でプレーする外国人選手で最も凡打率が高いのがライオンズのジェフ・リーファー.677で、スワローズ勢のアレックス・ラミレス.664、アダム・リグス.655が続いています。
凡打率が7割を超えている選手の中でほぼレギュラーをつかみかけているのがファイターズの鶴岡慎也とスワローズの米野智人。守備重視の捕手というポジションですが、せめて四死球、犠打、犠飛を増やして凡打率を下げたいところですね。
また前述の亀井の他にファイターズ飯山裕志、ライオンズG.G.佐藤と銀次朗、ホークスの松田宣浩と的場、カープの倉義和は昨年の開幕スタメンに名を連ねた顔ぶれ。今年レギュラーポジションを狙うならば打撃面を大幅に鍛えなければならないだろう。
なお敗戦処理。が勝手に實松のライバルと設定したライオンズの細川の凡打率は.683で第70位。實松にはかなり水をあけた。意外にも二割を超えている通算打率(.202)が實松(同.150)との差になった。
ところで、ここまでお付き合いいただいた方の中には既にお気付きの方もいらっしゃると思いますが、この計算で逆に凡打率が低い選手は、チームに貢献できない打席の確率が低い、つまり高い確率でチームに貢献する結果の打席をしている選手ということになる。
同じ基準で凡打率ワースト10を選ぶとこうなる。
順位 選手名 所属 凡打率
1位 松中信彦 ソ .583
2位 カブレラ 西 .584
3位 小笠原道大 巨 .590
4位 和田一浩 西 .5975
5位 青木宣親 ヤ .5985
6位 福留孝介 中 .5986
7位 金本知憲 阪 .5988
8位 関本健太郎 阪 .6016
9位 石井義人 西 .6021
10位 ラロッカ オ .6024
打席数に違いがあるとはいえ、さすがにワースト10には錚々たる顔ぶれが並んだ。特筆すべきは8位の関本健太郎。昨年までの通算打率.294という安定感に加えて四死球の多さがポイントだ。タイガースの査定担当者、契約更改担当者はあくびしている暇があったら関本のデータをもっと細かく見るべきだろう<笑>。9位の石井義人と10位のグレッグ・ラロッカは通算打率が3割を超えている。ラロッカが新天地で活躍するか否かはスワローズのフロントが再契約の際に悩んだ故障次第だろう。

あらためてこの調査結果を振り返ると、實松の貧打ぶりが際立っている。60打席以上としたため10位になったが、500打席以上なら断トツの1位だ。実質的には實松が最も打てない現役選手といっても過言ではないかもしれない。
鎌ヶ谷を始め、イースタンの各球場では「打てないキャラ」でいじられるのが定着となっている。しかし昨年の3月にジャイアンツに移籍してから、残念ながらそのキャラがジャイアンツファン、特にジャイアンツの二軍戦を観戦するファンに浸透しているとは言い難い。これが打撃開眼で浸透しないというのならまだしも、単に存在感が薄いというだけなのが淋しいところだ。阿部慎之助に次ぐ第2捕手の座をつかめそうでつかめないのももどかしいが、實松には實松らしくあって欲しいという思いも、サネ・マニアを自認する敗戦処理。にはある。今年はいずれにせよ存在感を示して欲しい。
凡打率全調査はこちらから「2006BONDARITU.xls」をダウンロード
【参考資料】
「2007ベースボール・レコード・ブック」ベースボール・マガジン社刊
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