フルキャストが命名権返上へ-で考えさせられる球界のスポンサーシップの今後
9月1日付各スポーツ紙によると、ゴールデンイーグルスの本拠地球場の命名権を持つフルキャストが、宮城県に対して命名権の返上を申し出ていることが判明した。同社が労働者派遣法で禁止されている建設業務、警備業務への労働者派遣など立て続けに不祥事を行って事業停止命令を受けており、県営の球場の名前にふさわしくないという声が挙がっていた。球場の命名権といえばライオンズの本拠地球場の命名権(および二軍の名称使用権)を持っているグッドウィルも相次ぐ不祥事に揺れている企業でこちらも予断を許さない状況。球団や球場にとって貴重な安定収入源となる命名権ビジネスだが、組む相手を間違えると大きな打撃を受けることになるという教訓だ。契約解除に至った場合、他に名乗りを挙げる企業が出てくるのか?出てきた場合にその企業が同じような事態にならないかどうか、どう見極めるのか?今後の動向が注目される。
敗戦処理。は8月最後の週末となった25、26日の両日、グッドウィルドーム~フルキャストスタジアムでの野球観戦、「今年で名前が変わるかもしれないツアー」を実施した。25日はパ・リーグ公式戦、ライオンズ対ファイターズ戦。26日はイースタン・リーグ公式戦、ゴールデンイーグルス対ファイターズ戦。行く前に冗談でそうネーミングしたのだが、笑っていられない状況になってきたようだ。
ゴールデンイーグルスの本拠地である県営宮城球場とフルキャストとの契約は来年三月までの三年契約。一年あたりゴールデンイーグルス球団に1億5000万円、宮城県に5000万円が支払われる契約だったそうだ。不祥事発生の際に県の側から契約を解除できることになっており、またその際に道路標識やJR構内の看板表示なども変更しなければならなくなるがその費用(推定4000万円)をフルキャストは負担する覚悟だという。
一方のグッドウィルは球場の命名権と二軍の名称使用をセットに今年から五年契約。五年間合計で推定25億円とも言われている。
両社に共通していることは新興企業であるということ。事業が軌道に乗り、さらに一般的な知名度を上げるため、また日本を代表する人気プロスポーツであるプロ野球のスポンサーになることで企業としてのステータスを上げようという狙いもあって、命名権を獲得したのだろう。おそらくは今後もこの両球場に限らず、命名権獲得に名乗りを上げるのは業種を問わず新興勢力企業と言うことになるだろう。
しかし新興企業の中には企業としての業績向上を焦るばかりに倫理観やコンプライアンス意識が蔑ろにされるケースがままある。旧バファローズの球団買収に名乗りを挙げたライブドアが好例と言えよう。また企業倫理やコンプライアンス面で問題が無くても、知名度アップ、企業イメージ向上のために身の丈に合わない広告費、宣伝費をかけて財務体質が危なくなるケースもある。球団や球場、球界サイドとしてもスポンサー料という形で大金を投じてくれるからと言って、すぐさまもろ手を挙げて大歓迎とはいかない。問題のある企業とばかりスポンサーシップを結んでいるようでは野球界の信用にも関わってくる。
プロ野球界にとって安定した収入源となるスポンサーシップだが、今後はより慎重なパートナー選びを考えなければなるまい。
新興企業ばかりが問題なのではない。長年オールスターゲームのスポンサーをしていた三洋電機が経営不振のため昨年限りでスポンサーを降りた。スポンサーではないが、旧バファローズ球団の親会社だった近畿日本鉄道も事業拡大が失敗し、巨額の有利子負債をかかえるはめになり、球団の赤字をまかなえなくなって経営撤退を余儀なくされた。
旧バファローズといえば、消費者金融のアコムとスポンサー契約を結んだ際にジャイアンツの渡邉恒雄オーナー(当時)にボロクソに言われていたことがあった。かつてはサラ金と呼ばれていた業界が消費者金融と呼ばれるようになったのはこの業界の上位企業が軒並みテレビ、新聞などのマスメディアに大量の広告を露出。各メディアにとっての大口得意先となったため、いわば蔑称とも言える「サラ金」という呼び名が姿を消して消費者金融と括られるようになった。
* 蛇足ながら敗戦処理。のパソコンで「サラ金」と入力すると「不快用語等」にあたるとの警告表示が出る。
ナベツネさん(これも蔑称か<苦笑>?)はよほどこの業界がお嫌いらしく、この前後、東京ドームの球場内広告からこの業種が消えてしまった。そして歩調を合わせるかのように、十二球団の本拠地球場にいくつか見受けられた、バックネット下のテレビ中継で最も目立つ位置の広告にあった消費者金融の名前が順次消えていった。最盛期にはパ・リーグ六球団のうち四球団の本拠地でバックネット下の最も目立つ位置に消費者金融の企業の広告が掲出されていたが、今もなお掲出されているのはライオンズの本拠地の武富士だけである。
武富士も不祥事を起こした企業であるが、この球場を所有している西武鉄道も似たり寄ったりで、武富士としては仮に契約解除を求められたとしても「オタクに言われたくない」と一蹴するだろう<苦笑>。
西武鉄道のケースではライオンズ球団の前オーナーが逮捕された。また今シーズン前にはライオンズ球団自体のドラフトでの裏金問題が発覚した。これではスポンサー企業の基準云々以前に球団経営に関わる企業に目を光らせるのが先となろう。ライオンズだけではない。今でこそ北海道のファンに愛されているファイターズだが、移転直前に親会社の日本ハムが食肉偽装問題を起こし、北海道側が受け入れてくれるか心配な時期もあった。
そのライオンズ球団は今後県営大宮球場での公式戦開催を検討していると先日発表した。新幹線も止まり、交通の便が格段によい大宮にある同球場を利用することでの集客アップを意図しているのは明らかだが、西武ライオンズ=西武鉄道グループ(現在の親会社は同グループのプリンスホテル)という図式を考えると、大宮方面に沿線がある訳ではなく、公共性が強いとはいえ競合相手でもあるJRグループの利用者増加につながる主催試合の開催を検討しているというのは企業の論理を考えれば並大抵のことではない。この発想の転換は他球団も参考にする必要があるのではないか。
2004年の球界再編騒動の折に、「プロ野球は文化だ」という声が盛んに挙がったが、プロ野球という文化を支えてきたのは企業だ。球団単体で利益が出なくても、スケールメリットを重視して球団を経営してきた企業だ。そして球団を持つ企業が経営面での安定した収入源を求めた結果が命名権ビジネス-という形で外部の企業から資金を集めることである。窮余の一策と思えた命名権ビジネスに暗雲が漂うとしたら…。
そういえばJリーグが進出した頃からだろうか、一部ジャーナリストやファンの間から「プロ野球チームもチーム名から企業名を外し、地域名+ニックネームにすべし」という声が結構挙がり、それが正論であるかのように広まっていた時期があったが、最近あまりそういう声を聞かない。おそらくは2004年の球界再編騒動の際の各種報道で球団経営での巨額の赤字の存在などが周知の事実となり、とても「市民球団」などという夢を追っていられないと言うことに気付いたからだろう。Jリーグの横浜フリューゲルスの存続問題の際に盛んに聞かれた「身の丈経営」を球界に求めても、今さら選手達から年俸の一部を返上させる訳にもいかないし、支出を減らすことより収入を増やすことを考えなければならないのが実態だった。
その一環として企画されたのがセ・パ交流戦であるが、そのスポンサーである日本生命保険相互会社も契約料不払いの問題を抱えている。何ともはや…。
企業が運営し、ファンが支えるプロ野球-この図式はおそらく今後も変わるまい。企業は景気その他の要素で浮き沈みの波にさらされるリスクがあり、その企業に支えられているプロ野球界も運命共同体と言えよう。各球団はもちろんのこと、球団を経営する企業やそのグループがコンプライアンスの精神を遵守するのはもちろんのこと、スポンサー企業と組むことのリスク管理としては契約期間をあまり長期化しないこと、審査基準を厳しくすることなどが考えられるだろうが、プロ野球自体の魅力をアップしてより多くの企業からスポンサーシップのオファーが来るように努力することが不可欠だろう。
そのためにも球界再編騒動で勃発した様々な問題をいつまでも先送りにしていてはならないのである。仮にフルキャストやグッドウィルと契約解除になり、その後釜が見つからなかったり、あるいは足元を見られて契約料を下げられたとしても、それはゴールデンイーグルスやライオンズの自業自得であり、他球団にとっても他人事ではないのだ。ライオンズとNPBがドラフト裏金問題を今一つスッキリしない結末で終わらせてしまったことを後悔する時が来ないことを今は祈るだけだ。
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