今年の日本シリーズのテレビ視聴率が悪かったそうですが…
アジアシリーズが終わったばかりの時期に書くのもナンですが、ドラゴンズがファイターズを下してチームとして53年ぶりの日本一に輝いた今年の日本シリーズ第五戦は関東地区を対象としたビデオリサーチによる視聴率調査では日本シリーズが全試合ナイトゲームになってから過去最低だったそうだ。
山井大介のあわや完全試合という、両チームのファン以外でも目を奪われそうな試合展開であったが関東地区での視聴率は12.7%。NHK衛星第一での視聴者数も別途相当数だと思われるが、地上波での視聴率としては日本シリーズが全試合ナイトゲームとなった1995年以降の日本シリーズ最終戦の視聴率としては最低だった。ちなみにこの間の最高は2000年のいわゆるON対決の年の第六戦の36.4%。逆に最低は2004年にライオンズがドラゴンズを下した年の第七戦の16.9%。同じ出場チームによる対戦だった昨年の優勝決定試合でも25.5%あった。
もちろん出場した両チームが関東地区のチームでなかったことも原因の一つであろう。この試合の名古屋での視聴率は27.2%、胴上げ場面では瞬間最高44.4%をマークしたというし、敗れたファイターズの地元札幌でも25.3%はあったという。
出場したチームの地元では異様に盛り上がっても、人口の多い関東地区では盛り上がらない。因みに関西地区では系列のテレビ大阪の視聴率がもっと低い5.9%だった。UHF局のサンテレビでの2.9%を合わせても8.8%相当。
プロ野球ファンにとって最大のイベントと思える日本シリーズも、出場チームの地元のみが盛り上がるローカルイベントに過ぎないのか?敗戦処理。なりに日本シリーズ視聴率低迷の原因を探っていくと…、
ドラゴンズもファイターズも地域密着型の球団としての企業努力に目覚ましい成果が出ているチームと言える。移転して四年間で完全に道民の心をつかんだファイターズと日本プロ野球創世記から東京、大阪の二大都市に次ぐ大都市に本拠を構える老舗球団ドラゴンズ。冒頭でも記したように、今年の日本シリーズのテレビ視聴率は両チームの地元と、二大都市で好対照となった。
2007年日本シリーズ地上波中継視聴率
札幌 関東 名古屋 関西
第1戦 40.1% 17.6% 30.3% 18.9%
第2戦 21.6% 9.2% 20.4% 4.5%
第3戦 22.7% 9.7% 30.2% 10.2%
第4戦 33.8% 12.1% 33.0% 13.6%
第5戦 25.3% 12.7% 27.2% 5.9%
(ビデオリサーチ調べ、11月3日付日刊スポーツより)
日本シリーズ優勝決定試合として関東地区で最低の視聴率だった第五戦はテレビ東京系列で放送。北海道ではTVHが、愛知ではテレビ愛知がネットされている。実はテレビ東京系列はまだまだ全国津々浦々にネットされているとはいえないため、同局が日本シリーズの試合を放送する際にはNHK衛星第一放送でも放送される慣例となっているため、実際の視聴者数はこの数値を上回っている。また、CSでは日本シリーズは中継されていない。
また、通常の公式戦と今年から導入されたクライマックスシリーズでは主催する球団がテレビ局と交渉して放送する局を決めるが日本野球機構が主催する日本シリーズにおいては日本野球機構が放送する局を決めることになっている。ただしその実態は出場チーム(その試合のホームチーム)の推薦する局に放映権を与えるのが通例となっている。この場合原則的には試合開始から試合終了までの完全中継を前提としてテレビ局を選定する。それゆえに18:15試合開始などという設定になるのだ。
日本野球機構としては日本プロ野球最大のイベントに当たる日本シリーズくらいは全国のファンに最初から最後まで楽しんでもらえるテレビ放送枠を確保しようと思うのは当然だが、テレビ局の都合としては、いくら地元で盛り上がろうとテレビ各局のキー局のある関東圏で視聴率が稼げないとなると、一試合1億円超といわれる放送権料を払ってまで買う価値があるのかという問題が生じる。
それだったらいっそのこと、日本シリーズ出場球団の地域だけを対象に放送すればよいかというと、簡単にはそうはいかない。
日本シリーズを放送している地域のみ、日本シリーズのために放送時間を延長するというような融通性を持たせることが現実には不可能らしいからだ。
例えば通常の公式戦。関東地区ではジャイアンツの試合が中継されている時にそのキー局の地方の系列局で地元球団の試合が放送されるケースがあるが、その地方局の試合の放送時間が延長されるか否かはキー局のジャイアンツ戦次第なのである。
そのような思惑を考えると、日本シリーズがローカルイベントになってしまうというのは各球団のファンにとっても見過ごせない問題なのである。
それでは、日本シリーズというイベントは出場する二球団のファン以外にはどうでも良い試合なのだろうか?
先に挙げた関東地区、関西地区の視聴率データを見るとそのような推定も成り立つように思える。敗戦処理。にとってはジャイアンツやファイターズが出ない年でも日本シリーズは注目のイベントだが、そういう考えのファンは多数派ではないということか?
同じ対戦カードだった昨年の日本一決定試合と同じ第五戦、同じ木曜日という条件で差が出ているというのは同じ対戦が二年続いたから新鮮味がないということを意味しているとは考えられない。昨年と今年の違いがあるとすれば、クライマックスシリーズの導入により、公式戦の優勝チーム以外による日本シリーズの対戦という今までにないケースが考えられ、日本シリーズの価値そのものに疑問を持ち始めたファンがいるということも考えられる。しかし両リーグのクライマックスシリーズの各対戦の観客動員がそれぞれのカードの公式戦平均を上回っていたというから、必ずしもファンがそっぽを向いたとは考えにくい。やはり当該球団以外のファンが観なかったということなのだろう。
敗戦処理。はそうした傾向を各球団が地域密着化を推し進めていく上でのもろ刃の剣と観ている。
地元に根付く球団、地元ファンに愛される球団を目指す方向性はもちろん誤りではない。しかしあまりにも地元のみを対象とし過ぎると、地元以外にファンが少ない球団になってしまうという懸念と、数としては少数派になってしまう相手チームのファンを蔑ろにしてしまう懸念が生じる。
パ・リーグの集客がかつてに比べれば相当増えていると思えるが、ホークスやファイターズなど、地域密着型のチームがホームグラウンドに圧倒的な地元ファンを動員していることが寄与しているのだが、その一方でビジター側の内野席はがらがらという試合が案外多い。(写真:ビジター側にあたる一塁側内野席に空席が目立つ札幌ドーム。もちろん日本シリーズではありませんが、昨年のゴールデンウイークの試合です<苦笑>。)
これがセ・リーグだと、ジャイアンツとタイガースは全国区といわれ、他球団の本拠地にも潜在的なファンが多いので、内野のビジター席もそこそこ埋まっているように感じる。パ・リーグには全国区といえるチームはない。
もちろん野球協約で各球団の本拠地は保護地域となっていてその球団以外は試合やイベントを勝手に組めないという制約もあり、相手チームの本拠地でファンを増やす活動が出来ないという面がある。
中にはマリーンズのように千葉マリンスタジアムでなかなか埋まらない三塁側の内野席の一角を、マリーンズのベンチの様子をうかがえるブロックだということで「ボビー・シート」と称してマリーンズファンを空いているビジター側にも取り込もうという努力をしている球団もあるが、ビジター側にまでホームのファンに来られたら、ますますビジターのファンにとって足を運びづらいということになりかねない。
さらにいえば、最近普及したCS放送による中継も、聞くところによるとホームチームべったりの放送が多いという。ホームチームのファンには楽しめても、ビジターチームのファンは音声を絞って観るというほどのホームチーム一辺倒な演出方法が採られているものが少なくないそうだ。敗戦処理。はCSとは契約していないのだが、携帯電話のプロ野球24TVでファイターズの試合を中心にパ・リーグの試合を観る限り、さもありなんと思う。
テレビという影響力の大きい公共メディアの中でも、契約者相手のCS放送という立場を考えれば、敢えて公平性を無視した番組作りもありかなとも思えるが、元をただせば日本テレビ系列のジャイアンツ戦が諸悪の根源であろう。最近では地上波で日本テレビが放送するジャイアンツの主催試合をNHK衛星放送が同時中継するケースが少なくないが、ジャイアンツファンの敗戦処理。ですら、その場合はNHK衛星にチャンネルを合わせる。もちろんその理由は衛星放送なら試合終了まで放送するからという理由ばかりではない。恥ずかしくて聞くに堪えないことがあるからである。もちろんテレビばかりではない。スポーツ新聞もその意味では一辺倒の例は枚挙にいとまがない。
当方のブログにトラックバックやコメントを頻繁に下さっている Eagles fly free さんのブログ、()とむプロ野球研究所~球界の危機はいまだ続いている~の10月27日付エントリー-ドラゴンズ×ファイターズ、’07日本シリーズ展望。みたいなもの。を参照していただきたい。ドラゴンズの親会社、中日新聞社が発行している東京中日スポーツのこの日の一面、そして記事の一部はおよそ社会の木鐸と自称するレベルのものではない。(筆者注.トレイ・ヒルマン前監督の一時帰国を擁護しているのではないので念のため<苦笑>。)もちろんこれは中日スポーツに限ったことではない。スポーツ報知も似たり寄ったりであるし、資本関係にこそ無いがデイリースポーツのタイガースよりの記事もまた然り。例外はスワローズの投手陣が、ジャイアンツがFAその他で寄せ集めた大砲集団による一発攻勢に沈む様な試合展開にも「巨人○発圧勝!!」などと大きな見出しが踊るサンケイスポーツくらいか<笑>?
自分の応援するチーム以外の試合にはさほどの興味を示さないファン。テレビ受像器さえあれば誰でも見ることの出来る地上波で中継されていても観ないファン。自分が応援しているチームを破ってリーグの代表として日本シリーズに臨むチームに対する敬意を持たないファン
ファンとしての興味の深さの度合いは十人十色だろう。もちろん個人の自由だ。だが各チーム、各球場の演出、メディアのあおり方がそのチームのことだけにしか興味を抱かないファンを増幅させている可能性は無いか?
敗戦処理。はドラゴンズやファイターズといった特定のチームの地域密着型スタイルを責めるつもりはない。基本的に地元のファンを大切にするのは当然のことだ。そして問題視するにしても日本プロ野球界全体の問題として苦言を呈したい。
ただファイターズに関していえば、北海道に本拠地を移してから四年になるが、この間、地元北海道とかつての本拠地である東京ドーム以外で主催試合を行っていない。十二球団の本拠地がない地域での主催試合を一度も行っていないのだ。敗戦処理。個人の事情を話すと東京ドームでの主催試合を減らされるのは本音では歓迎しないが<苦笑>、十二球団の本拠地のない地域での主催試合の開催を検討して欲しい。
地域密着はもちろん大切だが、そこからもう一歩進んだファンの開拓を考えなければ日本プロ野球は本当に特定のファンしか観ない、CS放送か、「皆さまのNHK」でしか放送されないスポーツになってしまう。そんな恐怖の近未来を日本シリーズの視聴率低迷から考えるのはうがちすぎだろうか。
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コメント
Eagles fly free 様、コメントをありがとうございました。
> この点は、私も危惧しています(例えばビジターのヒーローインタビューは球場に流さない千葉マリン、札幌ドーム(も、ですよね?)、等)。
この辺りのさじ加減、もう少し何とかならないものかと感じています。
そう、そうです。まさにそれを言いたかったのです。
東京ドームのジャイアンツ戦もそうじゃなかったですかね。敗戦処理。が行くとこのところいつもジャイアンツが負けますが<苦笑>、相手のヒーローインタビューを聴いた記憶が無いような…。
さすがに昨年のドラゴンズのセ・リーグ優勝決定の試合では涙声の落合監督のインタビューを流していましたが。
一人一人のファンがどういうスタンスで接するかにまで自己の主張を押し付けるつもりはないですが、本文で書いたような様々な演出というか、要因でそのようなファンが増えているとしたら残念ですね。
マスコミはともかく、各球場の演出に起因するとしたら自業自得ですね。
いつも本当にありがとうございます。
また遊びにいらして下さい。
投稿: 敗戦処理。 | 2007年11月14日 (水) 01時13分
こんばんは。
拙ブログ記事のご紹介、ありがとうございました。
なんといいますか、実感として己の応援しているチームが出ているわけではないプロ野球の試合や、プロですらない高校、大学、社会人等の試合を喜んで球場まで観に行く自分が特殊な存在であることは十分に自覚しているつもりなのですが、それにしても、
> 各チーム、各球場の演出、メディアのあおり方がそのチームのことだけにしか興味を抱かないファンを増幅させている可能性は無いか?
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この点は、私も危惧しています(例えばビジターのヒーローインタビューは球場に流さない千葉マリン、札幌ドーム(も、ですよね?)、等)。
この辺りのさじ加減、もう少し何とかならないものかと感じています。
投稿: Eagles fly free | 2007年11月13日 (火) 03時43分