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2007年11月 4日 (日)

ダルビッシュ有の沢村栄治賞受賞と日本シリーズ第五戦での山井大介途中降板

ドラゴンズが53年ぶりの日本シリーズ優勝を決めた第五戦での落合博満監督の継投が物議を醸しているようだ。ファイターズ打線を八回まで完璧に抑え、一人の走者も出さない「完全試合」状態だった先発の山井大介を落合監督が九回表のイニング頭からクローザーの岩瀬仁紀に代えたことに賛否両論のようだ。

このエントリーは落合監督の投手交代に関しての是非ではなく、この試合で投げ合ったファイターズのダルビッシュ有が先週沢村栄治賞を受章したことに関連させて敗戦処理。なりに感じたことを書きつづってみたい。

ダルビッシュが受章した沢村栄治賞(以下「沢村賞」-一般には「沢村賞」の名で浸透しているが正式名称は「沢村栄治賞」)には7項目の基準がある。

1.15勝以上

2.150以上の奪三振

3.10試合以上の完投

4.2.50以下の防御率

5.200イニング以上の投球回数

6.25試合以上の登板数

7.6割以上の勝率

今回のダルビッシュはこの7項目をすべてクリアしているが、7項目すべてクリアしての受章は1993年の今中慎二以来だという。

因みに今シーズンの両リーグの投手でダルビッシュ以外に各項目をクリアした投手を挙げてみよう。

1.15勝以上

セス・グライシンガー、成瀬善久、杉内俊哉、涌井秀章

2.150以上の奪三振

セス・グライシンガー、内海哲也、三浦大輔、寺原隼人、中田賢一、石井一久、杉内俊哉、小林宏之、和田毅、田中将大

3.10試合以上の完投

涌井秀章

4.2.50以下の防御率

成瀬善久、ライアン・グリン、渡辺俊介、杉内俊哉

※ 規定投球回数到達者に限定

5.200イニング以上の投球回数

セス・グライシンガー、涌井秀章

6.25試合以上の登板数

高橋尚成、セス・グライシンガー、内海哲也、三浦大輔、木佐貫洋、朝倉健太、寺原隼人、川上憲伸、黒田博樹、中田賢一、大竹寛、石井一久、渡辺俊介、杉内俊哉、武田勝、小林宏之、涌井秀章、和田毅、朝井秀樹、トム・デイビー、平野佳寿、田中将大、西口文也、清水直行

※ 規定投球回数到達者に限定

7.6割以上の勝率

高橋尚成、セス・グライシンガー、内海哲也、朝倉健太、川上憲伸、黒田博樹、中田賢一、成瀬善久、渡辺俊介、杉内俊哉、武田勝、小林宏之、涌井秀章、岸孝之、田中将大

※ 規定投球回数到達者に限定

登板数を別にすれば、それぞれ困難な高い壁であることが解る。全項目制覇をしたダルビッシュは素晴らしいの一言に尽きるが、ダルビッシュ以外で基準に達ししている項目数の多い選手を挙げていくと、

6項目 涌井秀章

5項目 セス・グライシンガー、杉内俊哉

4項目 なし

3項目 内海哲也、中田賢一、成瀬善久、渡辺俊介、小林宏之、田中将大

今回の選考に関して報じている1030日付日刊スポーツによると勝ち星、勝率、防御率でダルビッシュを上回る成瀬善久をダルビッシュとダブル受章させてはとの声もあったようだが、上記の基準到達数という点ではダルビッシュに肉薄しているのは成瀬よりも涌井秀章の方だ。

今季の結果で涌井が特筆されるべき点はダルビッシュと涌井のみが基準に達した完投数の多さだろう。今シーズン10以上の完投数を記録したのは12のダルビッシュと11の涌井だけで、次に多いのは8完投の渡辺俊介で、セ・リーグに至っては黒田博樹の7が最多である。DH制を採用しているパと採用していないセという条件の違いがあるが、ある意味この項目が最も高い壁なのかもしれない。

同じく日刊スポーツの記事によれば、

◆ただ、各委員からは「完投できても継投する野球に変わってきている」との問題提議もあった。

とある。今の時代、完投数の多さが一流投手の証とは言えても、完投数が少ないという点でその先発投手を必ずしも否定できないだろう。

そこで山井である。

日本シリーズ第五戦はまさに「完投できても継投する野球に変わってきている」時代の象徴のような出来事だった。もちろん公式戦と日本シリーズという違いはあるにせよ。山井が投げ合った相手が沢村賞受賞のダルビッシュだったというのも意味深だ。

落合監督によると継投を決意した理由は「マメが潰れた」からだそうだが、その後「言いたい人には言わせておけばいい」と言っていることからマメ云々が後付けの理由である可能性は高い。それ以外の理由で山井をスパッと替えられるのは抑え役の岩瀬仁紀への信頼感以外の何物でもない。

この交代に関してゴールデンイーグルスの野村克也監督はテレビ朝日のインタビューに対し、「監督が10人いたら、10人とも代えないだろう」と答えたそうだが、タイガースの岡田彰布監督は落合監督に同調している。11月3日付日刊スポーツによると、

◆岡田彰布監督が中日落合監督に同調した。日本シリーズでパーフェクトの山井から岩瀬にスイッチした非情采配に言及。「そんなん、代えるやろ。うちでいうたら(藤川)球児になるけどな。まあうちの場合、あそこまで完全試合でいくことがないんやけど、それでも球児やろ。あれで終わりという試合やから」。シーズンを通して頑張ってきた抑えの切り札を最後のマウンドに送り出すとは当然の策と擁護した。

だそうだ。張本人落合監督緒別にすれば現役の監督は11人いる。10人までが代えないとしても11人目の岡田監督なら抑え役の投入ということなのだろうか<苦笑>

こうして考えると、投手の完投数の多さは、もちろんその先発投手の資質にもよるが、そのチームの抑え役の投手との信頼度の高さの差や、それ以上にどういう考え方の監督の下で投げるかにもよるということになる。

ダルビッシュの場合、MICHEALに信頼を置けないからダルビッシュを完投させているとは思えない。ファイターズの先発投手陣で完投能力がある投手が他に見つからないから、MICHEAL(および武田久)の登板過多を防ぐにはせめてダルビッシュくらいは一人で投げきって欲しいというチーム事情があるのだろう。

抑え役投入が当然と語った岡田監督のタイガースは藤川球児だけでなくいわゆるJFKの強固な必勝パターンが存在するが、あまりにも依存度が高すぎて最後に力尽きたという印象が強い。

このように書いていくと、「完投数」という基準を設置していることに疑問が生じてきそうだが、「沢村栄治」の名を冠した賞である以上、時代に即して基準を変える必要はないというのが敗戦処理。の考え方である。時代の価値観が変わろうと、「最も優れた先発完投型の投手に贈られる賞」である以上、その希少性にこだわって人選して欲しいからだ。

最後に蛇足を承知の上で、日本シリーズ第五戦の落合監督の継投に関する敗戦処理。の意見を載せておく。

敗戦処理。としてはまだあの時点でファイターズの逆転に一縷の望みを託していたので、山井に続投して欲しかった。

続投されたら山井に「完全試合」を達成されていたことはほぼ間違いないかもしれないが<苦笑>、もしも阻止することができたらそれは直ちに同点の走者である訳で、落合監督はそこから岩瀬を投入することになるだろう。さすがの岩瀬だろうと、最終回の頭から登板して1イニングを抑えるよりも、(取るべきアウトの数が少なくても)走者を背負って登板の方が隙があるだろうという魂胆だからだ。

山井を続投させて、完全試合を逃してなおかつファイターズに逆転負けを喫することがあってもまだ3勝2敗。相手はダルビッシュを使い切り、ドラゴンズは川上憲伸、中田賢一を残しているのだから圧倒的アウェイの札幌ドームに行ってもまだまだドラゴンズ有利に変わりはないから、山井に賭けても支障がないという意見にのみ耳を傾けるが、ちょっとしたことから流れが変わりかねない短期決戦の日本シリーズであることを考えれば、過去に監督として二度、現役選手として二度日本シリーズ敗退の実績を持つ落合監督がスパッと岩瀬を投入したのは妥当な策だと考えている。

「だから落合の野球はつまらないんだよ」という反論がかえってきそうだが、「それが落合の野球なんだよ」と返すしかない。

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コメント

長緯さん、毎度どうも。

山井→岩瀬の件に関しては本文でも書いたように「蛇足」ですし、一ファンの感想に過ぎませんので悪しからず。

それにしても今年のダルビッシュは凄かった。

本文では触れていませんが、長緯さんにわかりやすそうな喩えで言えば二十勝した年の江川卓と個人的にはイメージをダブらせていました。

> オフシーズンも各方面での敗戦処理。さんならではの適切な分析を楽しみにしています。

もうすぐアジアシリーズが始まりますし、月が変われば北京五輪の予選もあるのですが、まだファイターズのドタバタに振り回されている自分がいます。

これからもよろしくお願いします。

投稿: 敗戦処理。 | 2007年11月 7日 (水) 00時28分

日シリ第5戦のDの継投については、そういう野球がつまらないとか、いや面白いんだとか、程度の低い各紙やサイトの論調に正直うんざりしていましたが、先発完投の意味を掘り下げるとともに、相手ファンの立場として、そしてシリーズ全体の流れから見ての率直かつ冷静な分析をされているこの文章を読み、さすがと感服しています。
私のような野球素人のファンがいうのは失礼ですが、オフシーズンも各方面での敗戦処理。さんならではの適切な分析を楽しみにしています。

投稿: 長緯 | 2007年11月 4日 (日) 23時06分

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