「取りあえず二年は続けてみる」から今年も同じクライマックスシリーズはこの先どうなる?
パ・リーグが2004年から始めているプレーオフ制度にセが追従したような形で昨年導入されたクライマックスシリーズ。球界再編問題でいくつかの施策がとられてきたが、「取りあえず二年は続けてみる」という方針とかで、クライマックスシリーズは今年も昨年と同じ方式(公式戦の勝率1位がリーグ優勝。優勝チームにアドバンテージ無し。全試合公式戦上位チームのホームゲーム)で行い、二年間の結果で来年からの変更を考えるという。
たしかに「セ・リーグ優勝のジャイアンツが1勝も出来なかったから1位通過のチームにアドバンテージ復活を…」と言う訳にもいかないだろうし、セの第1ステージにおいては二試合とも初回で大勢が決してしまったようなものだったので三試合制では短いのでは?などと議論しても仕方あるまい。では今年は上記のように方式を変えずにやる中で手を打てるところはあるのか?あるいは手を打たなければならないところはあるのか?あるとしたらそれは…
後述するが例によって地上波のテレビ中継にこだわってみた。
パ・リーグが2004年にプレーオフ制度導入に踏み切った時点では、パ・リーグ側からすればまだ交流戦の開催が実現しておらず、人気の面でセとの差をなかなか埋められないパ・リーグにおいては何らかの打開策が必要で、そこで目を付けたのがMLBで盛り上がるポストシーズンゲームをパ・リーグでやってみようというのがプレーオフ制度。
セ・リーグで優勝チームが決まり、消化試合の時期にパ・リーグで優勝と日本シリーズ進出を賭けたプレーオフをすれば人気と話題を独占できるという、いわば「すき間産業」的発想だ。ただし過去に失敗した二シーズン制ではなく、上位チームによる再トーナメント。ある意味で敗者復活戦とも言える。長丁場の公式戦での順位を覆す可能性があり、公式戦優勝の価値を薄めるのではないか?等の懸念する声はあったが、プレーオフ制度の必要性がいくつかの矛盾を上回った形でスタートした。
敗戦処理。もパ・リーグの当時の状況を鑑みてこの制度に賛成したものだった。ただし早晩、ファンの声などを反映して出来るだけ矛盾を少なくするという前提で。
その甲斐あってか、パ・リーグではプレーオフ導入以降、プレーオフ進出や主催権をめぐって争う9月の試合の平均観客動員数が通年の平均観客動員数を上まわり続けている。
■パ・リーグプレーオフ実施後と実施前の9月の平均観客動員数と通年の平均観客動員数の対比(上段が9月の平均観客動員数。中段が通年の平均観客数、下段は9月の増減率。)
実施後
2004年
29,727
26,777
+11.0%
2005年
21,462
20,226
+6.1%
2006年
23,272
20,905
+11.3%
2007年
22,069
20,941
+5.4%
実施前
2003年
24,594
24,152
+1.8%
2002年
21,457
23,116
-7.2%
2001年
26,576
24,105
+10.3%
2000年
23,580
23,623
-0.2%
【参考】
セ2007年
29,039
28,103
+3.3%
(2007年10月14日付日刊スポーツ「CSってナニ2」より)
パ・リーグで実施以前の年でも9月の平均動員数が通年を上回る年があるが、実施後は逆に下回ったことはない。これはプレーオフ進出に望みのあるチームの試合に以前までの「消化試合」ではない付加価値が付与されたからではないか。
このデータは昨年の10月に日刊スポーツがクライマックスシリーズと同時進行した連載の特集「CSってナニ」で掲載されたものだが、この特集では他にも示唆深いデータを記載している。
同紙のアンケート、ニッカンコムでクライマックスシリーズに関するファンの意見を募ったところ、5日間で6230人の回答があったという。
Q今年から導入されたクライマックスシリーズをどう思いますか?
68.8% やめて欲しい。続ける場合は制度を変えてほしい
31.2% このまま来年以降も続けてほしい
Q「このまま来年以降も続けてほしい」方の一番の理由は?
33.8% 3位争いで盛り上がった
29.2% 以前と違う楽しみができた
24.3% MLBのような盛り上がりが期待できる
8.1% リーグ優勝以外のチームにも日本一のチャンスがある
4.6% その他
Q「やめて欲しい。続ける場合は制度を変えてほしい」方の理由は?
33.3% リーグ優勝チームが戦うべき
32.9% リーグ優勝に重みがなくなった
16.0% リーグ優勝にはアドバンテージを
12.3% リーグ2、3位が日本一は違和感
5.4% その他
いやはや、クライマックスシリーズの善し悪しすべてが反映されているようなアンケート結果だ。
敗戦処理。としても発展的に改訂を続けていけばと思っていたが三年目の2006年にそれまでは1位通過チームのアドバンテージが2位または第2ステージで対戦するチームに公式戦で5ゲーム差以上付けることから無条件で1勝プラスに変わった。そして翌2007年ついにセ・リーグが追従し、クライマックスシリーズと形が変わった。
セ・リーグがパに足並みを揃える形でプレーオフを導入した背景には、一部で揶揄されるような「ジャイアンツを日本シリーズに出場させるための救済措置」という側面<失笑>よりも、パ・リーグでプレーオフを導入した2004年から日本シリーズでセの優勝チームがパの優勝チームに勝てなくなったことがあるのだろう。この三年間、パ・リーグで優勝と日本シリーズを賭けたガチンコ対決が繰り広げられている間にセ・リーグの優勝チームは消化試合か秋季キャンプという有様。必ずしもそれだけが日本シリーズの敗因とは考えにくいが、この三年間の日本シリーズでの連続敗退という結果にセ・リーグも危機感を持ったのだろう。
それはそれで良いのだが、そうなるとパ・リーグとしてはセ・リーグにもプレーオフ制度を導入されると「すき間産業」的メリットが薄れる。だからなのか2007年度はセが先にクライマックスシリーズの日程を発表し、パはセとの競合を避けるような日程を発表した。ちなみに17日現在で今年のクライマックスシリーズの日程は両リーグとも発表されていない。
パがセを避けた理由は地上波によるテレビ中継を意識したのではないか。
昨年の両リーグのクライマックスシリーズのテレビ中継実績を調べてみたので参照していただきたい。
【参考】
2007年度クライマックスシリーズ、テレビ中継実績表「2007CSonTV.xls」をダウンロード
地上波ではテレビ朝日とテレビ東京系列の積極さが目立つ。セでは第1ステージ、第2ステージともドラゴンズがストレート勝ちしたが、テレビ東京は第1ステージ、第2ステージとも最終戦の中継を予定していた。(日本テレビはジャイアンツが第2ステージで最終戦までもつれ込んだ場合の試合の放映権を何故手放したのか?)
さらには両リーグのクライマックスシリーズ全試合を生中継したNHKのBSも特筆に値すると言えよう。パ・リーグ第2ステージ最終戦とセの第2ステージ初戦が重なった10月18日(木)の夜にはファイターズ戦を衛星第1で、ジャイアンツ戦をBSハイビジョンで同時中継したほどだ。
地上波に話を戻そう。
地上波で最も中継の多いジャイアンツ戦の年間の視聴率が昨年は9.8%と歴代最低をマークしたほど、テレビ局にとって野球中継はもはやオイシイものではない。そんななかテレビ朝日は「プロ野球に恩返しをしたかった。球界の今後を占うイベントを盛り上げたかった」(スポーツ担当幹部)との意気込みを見せてくれた。これは両リーグが形の上では足並みを揃えた第一回目のクライマックスシリーズだからこそ、こういう対応をとってくれるテレビ局があったとも言えよう。昨年の「視聴率」という「結果」が今年の、昨年と変わらないクライマックスシリーズが今年どれだけ地上波で中継されるかの鍵になる。
そこでもう一度「2007年度クライマックスシリーズ、テレビ中継実績表」を参照していただきたい。地上波でクライマックスシリーズの試合が中継されている時に他局が放送している番組を。
10月中旬。テレビ局にとっては三ヶ月に一度の番組改編期に当たり、10月からの新ドラマや新番組のプロモーションを兼ねた長時間番組が目白押しの時期だ。番組名に何と「スペシャル」と「!」の多いことか<苦笑>!これが日本シリーズが行われる10月下旬になると、特番も一段落し、テレビ局も番組を差し替えやすくなる様なのだが、クライマックスシリーズの時期はもろ最悪のようだ。
両リーグで互いに相手の顔色をうかがいながらクライマックスシリーズの日程を決めることも必要だろうが、ファンへの露出という点では「スペシャル」と「!」対策もより重要となろう。
かつてはフジテレビが特にセ・リーグに関しては優勝決定の瞬間を予定番組をどんなに中断してでも生中継する執念を見せていたが、近年にはその勢いはない。何しろ昨年はジャイアンツのセ・リーグ優勝のかかった試合が東京ドームで行われていたにもかかわらず日本テレビが優勝決定の瞬間を生中継しなかったほどだから。
上記のアンケート結果から推測できるようにファンはクライマックスシリーズにさらなる変化を望んでいる。ファンの声をより広く受け入れるにはより多くのファンに試合を観てもらうことが重要だろう。今年地上波でどれだけの試合が中継されるかはそのためには重要だ。
引用した日刊スポーツの特集「CSってナニ」ではこの点に関して最終回にあたる第8回の文末で以下のようにまとめている。
■CSは、日本シリーズのように日本野球機構ではなく、上位球団が主催。そのため放送権の交渉から、宣伝、告知もすべて球団が行う。両リーグが足並みをそろえてはいない。MLBが一括管理する大リーグのプレーオフとは、この点が決定的に違う。CSを人気イベントとして定着させるには「テレビの力」は欠かせない。各リーグ、球団の利害ではなく、「球界」としてテレビ局とタッグを組むべきだろう。
「コアなファンが契約するCS放送も重要だが、誰でも観ることの出来る地上波を軽視すると本末転倒になる」というのが敗戦処理。の持論なのだが、取りあえず今年のクライマックスシリーズがどれだけ地上波で中継されるか?
そしてまた、パ・リーグとセ・リーグで微妙に日程をずらすのか、パとしては過去四年間のプレーオフで実際に展開された「名勝負」を売りにしていかに効果的に地上波での中継を増やせるかが重要となろう。
テレビ欄に踊るのは「スペシャル」と「!」のオンパレードか、それとも野球中継か?
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