最も観客動員力があるのはタイガースじゃなくてジャイアンツ?-第3回観客動員力調査
観客動員数が実数発表になった2005年度から敗戦処理。は独自の計算方法で観客動員力を調べてきた。今年は3回目。観客動員数では概数発表だった2004年まではジャイアンツが十二球団でトップだったが実数発表になった2005年からはタイガースが三年連続でトップになっている。そして敗戦処理。が集計した観客動員力でも過去二年はタイガースがトップになった。しかし2007年には初めてジャイアンツがトップに立った。「野球人気が下がっているのではない。ジャイアンツの人気が落ちているだけだ」という意見をよく聞くが、どっこいまだまだ捨てたものじゃない。これが本当の「腐ってもG」!?
まず観客動員力について説明しよう。
通常、年間の観客動員数といわれるものは主催試合の観客動員数の合計を指す。当然ながら、その観客数には対戦相手のファンも含まれている。AというチームがBチーム相手の主催試合で30,000人の観衆を集め、同じ日に別のCというチームがDチーム相手の主催試合で25,000人の観客を集めたとする。この場合、Aというチームの方がCというチームより観客動員力が高いといえるかというと、必ずしもそうとはかぎらない。何故ならAチームの試合の観客の大半は相手の人気チーム、Bチームのファンと言う場合があるからである。
そこで敗戦処理。はこう考える。
Aチームの主催試合を対戦相手ごとに分ける。
A対B戦の観客動員は30,000人。
A対C戦の観客動員は25,000人。
A対D戦の観客動員は20,000人。
A対E戦の観客動員は15,000人。
A対F戦の観客動員は10,000人。
この場合、BチームはVチームより5,000人観客動員力が高いということになる。そして観客動員力が高いのはB、C、D、E、Fの順になる。
ただこれだけだと、Aチームの観客動員力がわからない。
Aチームの観客動員力を調べるには例えばBチームを基準としてB対A、B対C、B対D、B対E、B対Fを調べれば良い。これを全チームを基準として一通り集計してチームごとに合計すれば6チームの観客動員力がわかる。
まどろっこしいので固有名詞を出すと、神宮球場のスワローズ対タイガース戦で32,491人の観客動員があると、それはスワローズ球団の観客動員数にカウントされるが、実際にはホームチームのスワローズよりタイガースのファンの方が多いと思われ、この数字が無条件にホームチームにカウントされる観客動員数の合計をそのまま観客動員力と言い換えることは出来ないのではないかと言うことだ。
敗戦処理。の観客動員力集計は各対戦の中から、球場キャパシティの異なる本拠地球場以外の試合を除いた、本拠地球場の試合のみを集計し、その一試合平均を出して比較した。平均値を出すのは同一リーグ同士の対戦は24試合あって、その約半数がホームゲームになるが交流戦は4試合のみでホームゲームが2試合しかないから、同じ基準で比較するため平均値にした。
スワローズを例に取ると、一試合当たりの平均観客動員数が最も多かった対タイガース戦は一試合平均24,804人。次が対ジャイアンツ戦で一試合平均21,751人、対ホークス戦21,666人と続き、最も少ないのが対バファローズ戦の9,783人。(注.対ファイターズ戦は二試合すべて神宮球場以外だったので対象外)
これにより、スワローズ戦を基準に考えれば、観客動員力が高いのはタイガース、ジャイアンツ、ホークスの順になる。これを十二球団すべてにおいて計算するのだが、球団ごとの本拠地球場のキャパシティの差を考慮しなければならないので、人数を偏差値に換算する。前述のスワローズでは対タイガース戦60.19、対ジャイアンツ戦55.54、対ホークス戦55.41…対バファローズ戦37.32となる。
十二球団全てを基準としてこの計算を繰り返し、偏差値の合計を足したものが各球団の観客動員力である。ただし2007年度は前述のスワローズ対ファイターズ戦のように本拠地球場で開催されなかったカードが3カードあった。他にドラゴンズ対バファローズ戦、ドラゴンズ対ゴールデンイーグルス戦。単純に偏差値の合計だとファイターズ、バファローズ、ゴールデンイーグルスは不利になるのでこの三球団に関しては偏差値の合計を10で割って11を掛けることで他球団と揃えている。
※バファローズの場合、京セラドーム大阪とスカイマークスタジアムを両方とも本拠地球場として集計している。
2007年の観客動員力順位はこうなった。
2007年観客動員力ランキング
676.78ジャイアンツ
667.47タイガース
580.28ホークス
566.16ゴールデンイーグルス
565.33マリーンズ
549.47ドラゴンズ
514.89カープ
514.73ベイスターズ
506.31ファイターズ
506.23スワローズ
491.84ライオンズ
448.80バファローズ
【参考】2007年度球団別主催試合一試合平均観客動員数ランキング(単位=人)
43.669タイガース
43,584ジャイアンツ
33,202ドラゴンズ
32,044ホークス
25,459ファイターズ
21,645マリーンズ
18,517スワローズ
17,111ベイスターズ
15,794バファローズ
15,681カープ
15,519ゴールデンイーグルス
15,187ライオンズ
観客動員数だとタイガースがトップだが、観客動員力だとジャイアンツがトップになる。観客動員数と観客動員力のトップが食い違ったのは三回目の調査で初めてだ。
ただ1位のジャイアンツと2位のタイガースの差は9.31ポイントしかないが、2位のタイガースと3位のホークスの差は87.19ポイントもある。いかにジャイアンツとタイガースの観客動員力が図抜けているかがわかる。特にジャイアンツ戦の場合は観客動員力以外にテレビ放映権収入という魅力も(かつてほどではないにせよ)高い。パ・リーグ球団がセ・リーグとの交流戦実現を長年にわたって切望し、その交流戦が実施されたらセ・リーグ側の要請で二年で試合数を減らしてしまった理由がおのずと推測できるだろう。観客動員力というものはそれだけ他球団に影響を及ぼすものなのだ。
なお偏差値というものは50が標準なので50の11倍にあたる550を超える観客動員力の球団は優れた観客動員力と言える。2007年ではジャイアンツ、タイガース、ホークス、ゴールデンイーグルス、マリーンズだ。
他に観客動員力と観客動員数の順位を見比べてみると、観客動員数で十二球団5位のファイターズが観客動員力では9位と低い位置にいるのが目を引く。
これはファイターズが本拠地球場に観客を集める力は素晴らしいが、ファイターズがビジターになる他球団の主催試合に観客を集める力に乏しいということを意味する。敗戦処理。はひとえにSHINJOの抜けた穴が響いていると分析している。チームはSHINJO(や他に小笠原道大、岡島秀樹)が抜けた穴を必死で全員でカバーして優勝し、本拠地札幌ドームに前年以上の観客動員をしたが、稀代のトリック・スターSHINJO引退でファイターズがビジターになる試合に「今日のファイターズ戦、観に行くか」と球場に足を運ぶファンが減ったと言うことを意味しているのだろう。ちなみに2006年度のデータではファイターズの主催試合一試合平均観客動員数は今年より少ない23,581人で同じく5位だったが、観客動員力は599.89で3位だった。
次に過去2回、2005年と2006年の観客動員力ランキングを記載する。
【参考】2006年観客動員力ランキング
699.60タイガース
672.85ジャイアンツ
599.89ファイターズ
585.12ホークス
580.99マリーンズ
518.51ライオンズ
515.82ドラゴンズ
513.61スワローズ
500.08バファローズ
477.04ベイスターズ
468.59ゴールデンイーグルス
467.90カープ
【参考】2005年観客動員力ランキング
711.36タイガース
698.75ジャイアンツ
580.90ホークス
565.97ファイターズ
544.52マリーンズ
532.81ゴールデンイーグルス
524.80ライオンズ
519.67ドラゴンズ
505.79カープ
492.73ベイスターズ
486.17スワローズ
436.54バファローズ
各年の順位を3つのブロックに分け、仮に1位から4位をAクラス、5位から8位をBクラス、9位から12位をCクラスとした場合、調査した三年間、ずっとAクラス、4位以内に居続けるタイガース、ジャイアンツ、ホークスは立派の一言に尽きる。特に老舗のタイガースとジャイアンツのみならず、ホークスが常に4位以内に入っているのは特筆すべき点と言える。ホークスというと地域密着型球団の典型というイメージがあるが、本調査ではどこの球団の本拠地にも多くの観客を動員していることになる。
特に今回初めて、ジャイアンツの動員力がタイガースを上回った。
ここまでおつきあいいただいた方はお気付きだろうが、動員力とは突き詰めていえば相手チームの本拠地にどれだけ観客を集められるかという指標であり、タイガースで言えばタイガースファンが如何に甲子園球場に多く足を運ぶかではなく、他球団の本拠地に如何に多くタイガースファンが足を運ぶか、あるいは「相手がタイガースだから観に行こうか」という、ホームチームのファンが多いかと言うことを表している。この指標において今回、三回目で初めてジャイアンツがタイガースを上回ったということである。
過去二回、即ち過去二年はジャイアンツはBクラスに低迷し、優勝争いにほとんどかかわらなかった。ジャイアンツは十二球団で最も多く「アンチ」が存在すると推測されるが彼らにしてもジャイアンツがある程度強くないと、モチベーションが高まらないというのもあるだろう。
セ・リーグ各球団は長らく対ジャイアンツ戦を目玉とし、観客動員数はもとより、テレビ中継の放映権料を当てにするビジネスモデルを確立してきたから、ジャイアンツ戦の地上波での中継が減少したり、放送時間の延長が無くなるという事態はジャイアンツ以外の球団にとってもジャイアンツ並みに打撃になっているという側面があるのかもしれない。対戦相手の人気や話題性に依存するビジネスモデルも如何なものかと思うが、ジャイアンツの動員力が高まってきたことをセの他球団がどう考えるか。
「交流戦を減らし、対ジャイアンツ戦、対タイガース戦をセ・リーグ内に取り戻そう」が結論だったら情けない<苦笑>が、逆に交流戦でもない限りこのドル箱球団と対戦できないパ・リーグ各球団の方が成果はともかく企業努力の必要性は高く、それがこれまで試みられてきた予告先発、マンデーパ・リーグ、プレーオフ制度なのだろう。
長くなってしまった。Bクラス(5位~8位)に移ろう。ここではマリーンズが三年連続で5位をキープしているのが目立つ。マリーンズというと千葉マリンスタジアムの熱狂的なマリサポの動員力のイメージが強いが、実は観客動員数においては2005年、2006年においてはどちらかというと不人気球団のイメージがあるバファローズより少なかった。実はマリーンズの観客動員数は概数発表だった2004年まででもバファローズ(当時はブルーウェーブ)より少なく、実数発表になったら逆転するのではないかと予想していたがそうならず、2007年にやっと逆転したのだ。しかし本調査の観客動員力では三年間ずっとバファローズに差をつけている。「マリサポはどこの球場にも行く」という声をよく聞く<笑>が、面目躍如の結果となった。
最後にCクラス(9位~12位)だが、三年間ずっとこの順位にいる唯一の球団、バファローズには苦言を呈したい。2006年だけ12位から脱しているが、この年は清原和博効果か<苦笑>。球界再編騒動の悪役というイメージがいまだに拭い去れないのか?本拠地球場の観客動員数で苦戦するのはタイガースと同じ関西圏というのがハンディになっているのかもしれないが、他地域の球場にバファローズ戦だから観に行こうというファンが少ないのは…。
それでいてこのチームは東京ドームで主催試合を行う。オリックスグループの従業員の福利厚生用に無料招待券をばらまく試合と、取引先に無料招待券をばらまく試合だ。いったい何を考えているのか…?
これで三回目の集計だが、果たして本当に「真の観客動員力調査」といえるのか、正直微妙なところだ。交流戦の試合数が少なく、平均値での比較とはいえ同一リーグ同士の対戦と同じ土俵で比較して良いものか。特に交流戦のカードの場合、年間三試合だろうと、二試合だろうと一カード。これが平日に組まれるか、週末に組まれるかで観客動員数が違うという問題もある。この集計方法に信憑性を高めるには調査回数を増やすしかあるまい。2008年で四回となる。四年分集計すれば、より「真の観客動員力調査」に近くなるのではないか。今シーズン終了後、チャレンジできたらと考えている。
【参考文献、参考エントリー】
2008ベースボール・レコード・ブック(ベースボール・マガジン社刊)
2007ベースボール・レコード・ブック(ベースボール・マガジン社刊)
2006ベースボール・レコード・ブック(ベースボール・マガジン社刊)
2006年、最も観客動員力を持った球団はどこだったか?-2006年度観客動員力調査(あい ウオッチ baseball!!-敗戦処理。ブログ2007年1月1日付)
真の観客動員力がある球団はどこか?(あい ウオッチ baseball!!-敗戦処理。ブログ2006年2月1日付)
【資料】
2007年度観客動員力調査「2007kankyakudouinryoku.xls」をダウンロード
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント