ダルビッシュ有と野間口貴彦
11日のファイターズ対ジャイアンツ戦。先発投手はダルビッシュ有と野間口貴彦。先発投手の格からすればファイターズが有利に思えたがフタを開けてみると野間口がダルビッシュに負けず劣らずの好投。結局ジャイアンツが1対0でファイターズを下した。大相撲に例えればジャイアンツの大金星。逆に言えばファイターズは痛い取りこぼし。
両チームを応援している敗戦処理。にはどちらが負けてもショックなのだが野間口がダルビッシュに勝ったということに感慨深いものがある。
ダルビッシュ有と野間口貴彦。この二人、実は同期入団である。高校三年でドラフトにかかったダルビッシュと大学を中退して社会人野球に進んでドラフトにかかった野間口とでは年齢が違うがともに2004年の秋のドラフト会議にかかった選手だ。
まだこの年は高校生と大学生、社会人の選択を分離しておらず同時に開催し、また自由獲得枠で大学生、社会人の有力選手を二人まで獲得できることになっていた。ジャイアンツは社会人の即戦力ナンバーワン投手といわれた野間口(シダックス)と大学生の即戦力投手といわれた一場靖弘(明治大学)を自由獲得枠で獲得する目論見だったが、一場に対する「栄養費」問題が発覚し、獲得を断念するとともに当時の渡邉恒雄オーナーが辞任することとなった。
普通それほどの大問題を起こしたら、少なくともその年度のドラフト会議での自由獲得枠を返上するくらいの謝意は示すべきなのだろうがジャイアンツはまっぴらそんなことは考えず<苦笑>、一場の代わりに八戸大の三木均を自由獲得枠で獲得する。要はこの年のジャイアンツのドラフトでの最優先事項は即戦力投手の獲得だった。
ちなみにこの年のドラフト会議で自由獲得枠を使用しなかった球団が一巡目で指名した選手は次の通り。
カープ 佐藤剛士(投手・秋田商高)
ファイターズ ダルビッシュ有(投手・東北高)
ホークス 江川智晃(投手・宇治山田高)
ライオンズ 涌井秀章(投手・横浜高)
いずれも高校生の投手を指名。重複がなかったので抽選は行われず各球団は自動的に交渉権を得た。そして全員それぞれの球団に入団した。
なんのことはない。即戦力が欲しいからといって大学生や社会人に限定せず、器の大きさを見越してダルビッシュか涌井を指名していれば抽選によって50%の確率で交渉権を得ることが出来たのである。
敗戦処理。は伸び悩む野間口の姿を観る度に「なぜ、ジャイアンツはあの時ダルビッシュを指名しなかったのか?」と思ったものだ。
もしも、ダルビッシュがジャイアンツに入団していたら…。
それはもちろん押切もえとサエコの差ではない。
ダルビッシュは入団から昨年までの三年間で32勝、涌井は30勝。この二人に匹敵するのはこの年のドラフト入団選手では松下電器から自由獲得枠でマリーンズに入団した久保康友の26勝くらい。
対照的に野間口は三年間で9勝、同じ自由獲得枠で入団した三木に至っては三年間で一勝も出来ず今シーズンは育成選手契約となった。
それでなくても野間口獲得にはその直前のシーズンにジャイアンツは野間口が当時所属していたシダックスの野村克也監督のご子息、野村克則をタイガースからトレードで獲得している。そうまでした以上、野間口を自由獲得枠で取るのは至上命令だったと考えられる。
因みにこの時期のジャイアンツには野村克則の他にも内海哲也を獲得する布石として高校時代にバッテリーを組んでいた李景一を確保していた。また、捕手の佐藤弘佑も東北高でダルビッシュの一年先輩ということでその獲得が憶測を呼んでいた。人呼んで「トリオ・ザ・人身御供」。ダルビッシュこそ獲得できなかったものの李と野村は本丸の獲得が決まるとあっさりとお払い箱になった。佐藤が辛うじて育成選手契約で残っているが。
今となっては高校時代から知名度があったあのダルビッシュがファイターズの単独指名だったのは信じられないが、高校生時代に写真週刊誌に喫煙シーンを掲載され、入団してからも一年目のキャンプ中にパチンコ屋での喫煙が発覚するなど、相当なワルだったからなのだろうか?
もしも、ダルビッシュがジャイアンツに入団していたら…。
前述のような素行に問題のある青年を立ち直らせたのは当時の寮長であった故・菅野光夫さんの指導の影響が大きかったと言われている。だとするとダルビッシュ有が今のダルビッシュ有であるのは周囲の環境に恵まれていたからであって、どの球団に入っても現在のような活躍が出来たかというとそうとは思えないフシがある。
そして野間口にも、鳴り物入りで入団しながらなかなか芽が出ないためかマスコミから叩かれた時期があり、その時には先輩を先輩とも思わぬ態度で他の選手に相手にされないなどとの記事が出ていた。
野間口は昨年やっと兆しを見せた。
昨シーズン終盤に7試合登板。4勝0敗、防御率1.80。シーズン終盤の大事な時に(だけ)大車輪の活躍をしてくれた。自由獲得枠で入団して三年目。ようやく一本立ちかと首脳陣だけでなく、ジャイアンツファンも期待したことだろう。
しかし今シーズンはオープン戦から結果が芳しくなかった。
3/1対ホークス
二番手1・1/3回、自責点8。
打者17人に対して被安打9。オープン戦では珍しいイニングの途中での降板に内容の悪さが垣間見られる。この後、一軍のオープン戦では姿を観なくなる。そして開幕直前のMLBチームとの対戦で再びチャンスを得る。
3/22対アスレチックス
二番手2回、自責点2(被本塁打2)
この結果開幕一軍入りを逃した野間口はイースタン・リーグで4月1日の対ファイターズ戦に先発。7イニングを無失点に抑え、3日の対ドラゴンズ戦でKOされた金刃憲人に代わる先発要員として10日の対ベイスターズ戦の先発に抜擢されることになり、当日に一軍登録された。しかしこの日はあいにくにも雨天中止。そして12日の対スワローズ戦に4対6と2点ビハインドの九回表に登板。青木宣親、アーロン・ガイエルと二人の左打者に打順が回るこの回、サウスポーの藤田宗一の投入も考えられたが調整登板も兼ねて野間口が指名された。
しかし、結果は悲惨なものだった。
対戦打者 結果
青木 四球(ストレートの四球)
リグス (青木二盗成功)
死球(頭部直撃。カーブなので危険球にならず?)
ガイエル 右前安
宮本 左前適時打(2点タイムリー)
※ 栂野に交代。
敗戦処理。はこの試合を生で観戦していたが、期待した若手が期待に応えられないと懲罰的に二軍に落とすのが好きな原辰徳監督の傾向から「これで野間口も二軍落ちだな」と思った。しかし打者の頭に死球をぶつけても退場処分にならない強運の持ち主は二軍にも落とされなかった。そして投手陣の台所事情が苦しくなるゴールデンウイークの9連戦中の5月4日。対スワローズ戦で5イニングを2失点の内容で今季初白星を挙げた。
「これでローテーションの一角に…」と期待したがその後は今ひとつの内容が続き、二勝目を得られない。そしてこの日の登板。
前日、不振で二軍落ちしている高橋尚成がイースタン・リーグ公式戦に登板して5イニングを2失点。復調の兆しを見せた。野間口は内容によっては高橋尚と入れ替わりで再び二軍に落とされかねない事態になってきた。
あるいは真田裕貴のトレードで危機感を持ったのかもしれない。
そんな状況で投げ合った相手が(当人同士で意識しているかどうかは知らないが)ダルビッシュ。ファイターズが有利と思える試合でまさかの大好投!
まだまだ野間口には勝利投手とはいえダルビッシュより先にマウンドを降りたという点に物足りなさは残る。アレックス・ラミレスに痛恨の一発は浴びたものの9イニング123球を投げきったダルビッシュの方が内容が上だったことは明らかだ。
しかし、ジャイアンツにとってはこの試合で再び勝率を五割に戻す大きな一勝となったし、野間口にとっても壁を超えるきっかけの一勝になるかもしれない。
やれば出来るじゃないか、野間口!
今度こそ野間口よ、一回限りの好投なんてことは無いように。
そして敗戦処理。に「もしも、ダルビッシュが…」なんて思わせないように!
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コメント
鎌ヶ谷大仏様、コメントをありがとうございました。
> ただファイターズファンからすれば、なんでそんな野間口を打ち崩せなんだか、くやしさイッパイ残る試合でした。
ダルビッシュもサエ(コ)ていたけど、野間口に押切られたという感じでしょうか。
東京ドームでジャイアンツが二勝したので、札幌ドームではファイターズが二連勝と目論んでいたので個人的にも星勘定が狂ったのですがね<笑>。
投稿: 敗戦処理。 | 2008年6月16日 (月) 22時42分
敗戦処理。さんの野間口への期待の大きさがよくわかります。ただファイターズファンからすれば、なんでそんな野間口を打ち崩せなんだか、くやしさイッパイ残る試合でした。
投稿: 鎌ヶ谷大仏 | 2008年6月13日 (金) 22時17分