« 「九州のカブレラ」成就せず… | トップページ | 敗戦処理。のゆるせない話 »

2008年12月29日 (月)

故きを温ねて新しきを知れるか?

仕事納めの29日、平常より早く終わったのでまっすぐ帰ろうかと思ったが、ある広告が目に止まった。新宿の京王百貨店で古書市を行っているという。古本屋を宛もなく歩き回るのを趣味のひとつとしている敗戦処理。だが、最近はなかなか神保町にも行く機会が無いのでのぞいてみることにした。多くは専門書が並んでいたが、ひとつのコーナーに古雑誌が並んでいるので物色すると、敗戦処理。が子供の頃や、生まれる前の雑誌で目を引くものがあった。

Dsc_0004

 

(写真:京王百貨店新宿店での古書市で発掘した週刊ベースボール。左が金田正一が表紙の昭和34年12月30日号、右が高田繁が表紙の昭和46年7月6日号)

 

blogを読んで下さる野球好きの皆様の中には「週刊ベースボール」(ベースボール・マガジン社刊)を愛読している方も多いのではないか。その週刊ベースボールは今年創刊50周年だが、その創刊2年目のものが見つかった。週刊ベースボールの創刊は長嶋茂雄がジャイアンツに入団した昭和33(1958)だが、その翌年の昭和34年のシーズン終了後の号だ。さすがに敗戦処理。もまだ生まれる前の号で、懐かしいとか言うレベルをはるかに超越しているが、王貞治がジャイアンツに入団した年、天覧試合が行われた年、日本シリーズで杉浦忠が四連投四連勝でジャイアンツを四タテに下した年というくらいは情報として知っている。

1230日号ということで、この年の10大ニュースを振り返っている。10大ニュースの出来事について当事者や評論家などがコメントしている。

1話 極秘の三原監督会見記

2話 だれも知らない水原の腹

3話 山本()殴打事件の前後

4話 杉浦投手快調の秘密

5話 当ぜんだった別所の三百勝

6話 優勝前後の眠れぬ鶴岡

7話 山内の死球と舌禍事件

8話 千葉はなぜ倒れたか

9話 ホームラン王大下の引退

10話 金田を残留させた男

当時ライオンズの監督だった三原脩がホークスに優勝をさらわれたからなのか、辞任してセ・リーグのホエールズの監督になる経緯が書かれている。三原監督率いるホエールズが「三原魔術」で初優勝するのはこの翌年。

三原のライバルといわれたジャイアンツの水原茂監督の進退も注目を浴びていたようだ。こちらは三原監督と違ってリーグ優勝しているのだが、日本シリーズで四連敗してしまったため周辺が騒がしくなったようだ。水原監督の去就について書いているのは野球評論家の小西得郎氏。今も昔もジャイアンツはちょっと負けると監督の進退問題が浮上するところは同じようだ。ちなみに水原監督は留任し、川上哲治監督が就任するのはこの二年後。

山本()殴打事件について書いているのは、この年ルーキーだった同僚の張本勲。バファローズの加藤捕手との間の乱闘事件を目撃者として語っているのだが(編集者の補助もあるのだろうが)高校卒一年目の選手としては冷静で整った文章だ。同僚の山本八郎に対しても、相手の選手に対しても「喝!」とは言っていないが、身内を庇うだけでなく、客観性を感じさせる冷静な着眼点はルーキーとは思えない。張本の現役時代を知るものはおそらく皆、暴れん坊というイメージを持っているだろうが実は張本は生涯一度も退場処分になっていない。その要領の良さがにじみ出る文章だ。余談だが続く杉浦投手の件はバッテリーを組んでいた野村克也が書いている。杉浦のコントロールの良さと精神力の強さをたたえつつも、さりげなく自分のリードのお陰だと思わせる文章は、後に評論家時代に講演活動で荒稼ぎする基盤を思わせる文章だ。

ちなみに現在の週刊ベースボールのように各球団の一週間のトピックを1頁でまとめるコーナーがあるのだが、球団名を順に書いていくと、さすがに時代を感じさせる。

南海、大毎、東映、西鉄、阪急、近鉄

巨人、大阪、中日、国鉄、広島、大洋

パ・リーグでは親会社が変わっていない球団はひとつもない。セ・リーグは国鉄と大洋が変わっただけだ。タイガースが大阪と名乗っていたが阪神電鉄が親会社であることに変わりはない。

本文の中にはフライヤーズの筒井コーチが合宿所に隣接する離れ屋でガス中毒死していたというショッキングなニュースもあり、つい最近の飯島愛と同じく事故死か自殺なのかという疑惑が持ち上がっている。

もう一冊はもうちょっと新しい。昭和46(1971)7月26日号だ。オールスターの監督推薦が決まったタイミングで両リーグを率いる川上哲治監督と濃人渉監督の人選の裏を読んでいる。この年のオールスターゲームでは江夏豊が伝説の9連続奪三振を達成しているがもちろんこの号ではそのことをまだ知るよしもない。上の画像でもわかるかもしれないが、門限破りの罰金が5万円でそれが高すぎるのでは?と書かれている。今から37年前の5万円って…?

フライヤーズの「東映修練道場」(この球団では「合宿所」とは呼んでいない)で十二時の門限を破っていた選手がいたことを重くみて当時の二軍監督が罰金5万円を課したことが物議を醸したようだ。

5万円の「価値」については一軍の主力選手だった大杉勝男のこの証言から想像して頂くしかないだろう。引用する。

 

「オレの名前を新聞に出しても構わん。こういったと書いてくれ。サラリーが五万や六万の選手が合宿にはいっているんだ。そんな選手から五万円もの罰金を取り立てるということは、選手に“メシを食うな”ということと同じだ。監督に選手の生活権を奪う権利があっていいのか。無茶苦茶だ。反対に月給何十万も取っている一軍の選手の罰金が二千円や三千円。まったくあべこべだ」

フライヤーズは今のファイターズの前身。中田翔が門限破りをして高額の罰金を科せられ、ダルビッシュ有が異議を申し立てたと考えればわかりやすいか<苦笑>

読み続けていると他球団の実態も書かれているが、五万円というのは当時としては破格らしい。大杉の怒りは正論なのかもしれない。

そしてここでも張本勲の名が出てくる!

張本は当時、フライヤーズの選手会長だったようで練習休みを利用して合宿所、じゃなかった修練道場に顔を出し、選手達に説教している。こちらは「喝!」が飛び出したかもしれない。

表紙の写真は現スワローズ監督の高田繁。表紙の裏にはスポーツ用品のSSKの広告が入っており、ミスタータイガース村山実、田淵幸一、「赤い手袋」柴田勲が同社の商品を勧めている。続くグラビア写真は7頁にわたり王貞治。後半のグラビアはドラゴンズのトップバッター大島康徳らだ。大島というと、長嶋茂雄が「わが巨人軍は永久に不滅です」とスピーチしたあの最終試合で、優勝セレモニーのため不参加だった主力選手達に代わってドラゴンズを代表して長嶋に花束を渡したシーンが印象に残っているが、その三年前にもう週刊ベースボールのグラビアに一人で登場していたのだ。さすがは先物買いの週刊ベースボール!そして笑ってしまう<失礼>のは本文中に連載されている漫画、堀内恒夫物語「吠えろ速球」 実に13頁を割いている。当時堀内は既にジャイアンツのエース。この号の漫画では一年目のプロ初勝利から9連勝するくだりが描かれている。

自分が野球に興味を持つ前の時代のことでも、読んでいくと結構興味をそそられるものだということに気づいた。

そして帰宅してテレビをつけると、北京五輪で金メダルを獲得したソフトボールの上野由岐子投手に芸能人の腕自慢や現役プロ野球選手らが挑戦してもしもヒットを打てたら賞金百万円!!という企画をしていて画面に釘付けになった。

「世界記録工場第5弾」(日本テレビ系)

野球の腕に自信のあるお笑い芸人や、先日武田久の代理人を務めて話題になった北村晴男弁護士、茨城ゴールデンゴールズの片岡安祐美、この種の企画で次々と元プロ投手を粉砕してきたKAT-TUNの亀梨和也、二年連続セ・リーグ本塁打王の村田修一、その村田ともども北京五輪日本代表に選ばれた西岡剛、メジャーリーガー岩村明憲らが上野由岐子にチャレンジした。

テレビを観ていて、「見覚えのあるグラウンドだな…」と思っていたらやはりファイターズスタジアムだ<>何で鎌ヶ谷なんだ?という疑問はともかくとして鎌ヶ谷に現役メジャーリーガーが来るのはケン・グリフィーJr以来じゃないか?スタンドは開放していないようでレフトスタンド後方にファンらしき姿が球に映っていたが正直「生で観たかった…」

結局そろいもそろって上野の前に玉砕。北村弁護士が辛うじて三塁前にゴロでボテボテの内野安打を放って百万円を獲得しただけ。現役プロ勢は上野の速球だけでなくソフトボール特有のライズボールやチェンジアップを混ぜられて三振の山を築くだけだった…。恐るべし上野…。金メダル獲得とメダルを取れなかった差がこんなところにも…<苦笑>北村弁護士が鎌ヶ谷で上野から安打を放てたのはファイターズの武田久の代理人を務めた縁が勝負の神様を味方につけたから?

上野といえば今年の日本シリーズ第一戦の始球式で快速球を披露したのが記憶に新しいが、あのまま始球式の後も上野に続投させていたらジャイアンツが四勝三敗で日本一になっていたのではないか?

話は飛びますが、その鎌ヶ谷で今年は一軍のオープン戦が二試合も組まれていますね。18日のバファローズ戦と22日のゴールデンイーグルス戦。18日は平日だから無理として22日は日曜日だから行きたいですね。でも3月22日ってひょっとしたらWBCの準決勝と重なる可能性があるのですよね。東京ドームラウンドを勝ち上がったとして、次の四カ国でのリーグを1位通過すると準決勝がその翌日になるのだけれど、2位通過だと日本時間の22日の午前10時からなのですよね、ちょっと複雑。

古書市では他にも「アストロ球団」(原作遠崎史朗、漫画中島徳博)や「炎の巨人」(原作三枝四郎、漫画竜崎遼児)が連載中で、特別読み切りとして「豪腕江川投手」(原作夏木信夫、漫画手無功)が載っている昭和49年の週刊少年ジャンプ(集英社刊)等を購入したのだが長くなるのでこの辺で。

今年もあと二日ちょっと。まだ書きたいことが残っているのでたぶん明日も書きますが、暮れも押し詰まっていますのでどうか皆様、体調維持にお気をつけ下さい。それではまた。

  

  

P.S.

ピッコリさんと7にんの五人ばやし さん、毎度毎度の引用、ご了承下さい。

|

« 「九州のカブレラ」成就せず… | トップページ | 敗戦処理。のゆるせない話 »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 故きを温ねて新しきを知れるか?:

« 「九州のカブレラ」成就せず… | トップページ | 敗戦処理。のゆるせない話 »