「九州のカブレラ」成就せず…
ジャイアンツから戦力外通告を受けた育成選手の山本光将が来年4月にジャイアンツが宮崎県内に開校する少年野球教室のコーチに就任したとの記事が出ていた。名門・熊本工業高校出身の右の大砲候補はわずか四年で支配下選手登録から育成選手に格下げされたが、二年間で結果を残せず戦力外通告を受けていた。まだ若いことと、天性の長打力の可能性にどこかの球団が名乗り出るかと思ったのだが…。
今季のジャイアンツは坂本勇人の大活躍でようやく若手が育つ土壌が出来てきたかのように言われているがその一方で…。個人的にも期待していた山本の現役引退は本当に残念。
(写真:まだ支配下選手だった2006年、ファイターズの立石尚行から本塁打を放つ山本光将。2006年3月撮影)
山本光将が新人だった2003年の秋。高校卒一年目ながらファームで6本塁打放った大砲候補は10月、当時は近場でやっていたロッテ浦和球場での秋季教育リーグ、対マリーンズ戦の一回表にあの黒木知宏からレフトオーバーの特大弾を放った。かつての田淵幸一を彷彿とさせる美しい放物線を描いた打球が曇り空に消えていく様は山本のスケールの大きさに期待感を持たせた。
だが、その直後に曇り空から雨が降り出し、一瞬にして試合は降雨ノーゲームに。もともと非公式戦扱いではあるが、試合そのものも無かったこととなり、山本の一発は本当に幻の一発に終わってしまった。当時既に故障との闘いで迷走を続けていた黒木相手だったが「新人の山本光将がマリーンズのエースだった黒木知宏から本塁打を放った」と言う事実は消えないにしても、記録に残らなかった。そして今にして思えば、この一発が幻に終わったことがその後の山本を暗示しているように感じられる。
山本はジャイアンツの主砲松井秀喜がFA権行使によるメジャーリーグ挑戦を表明した後の2002年秋のドラフト会議でジャイアンツから指名を受けた。この年のジャイアンツの指名選手は以下の通り。
自由獲得枠 木佐貫洋(投手・亜細亜大)
自由獲得枠 久保裕也(投手・東海大)
4巡目 長田昌浩(内野手・東海大望洋高)
5巡目 山本光将(外野手・熊本工業)
6巡目 矢野謙次(外野手・國學院大)
7巡目 入野久彦(捕手・福岡大)
8巡目 横川裕介(捕手・日野高)
二人まで獲得出来る自由獲得枠をフル活用し、大学生の即戦力候補の投手をまずキープし、その後は将来性にかけて高校生の逸材を二人指名している。4巡目では「篠塚二世」とか「松井稼頭央の再来」と呼ばれた右投げ左打ちのセンス抜群の内野手、長田昌浩を指名した。長田は評判が高かったが、「ジャイアンツ以外から指名されたら大学進学」を匂わせていた。そして5巡目が山本。名門熊本工業で61本塁打を放ち「九州のカブレラ」と恐れられ、その本塁打数と、同校からの61人目のプロ野球選手ということで背番号も61に。松井秀喜が抜けるジャイアンツにとっては期待の右の和製大砲候補だ。
しかし「開幕一軍入りも…」といわれた長田は看板倒れで、一年目にして一軍入りを果たすも、力不足は明らかでその後も年に一回程度一軍に上がるがすぐに落ちるという感じで定着出来ず、鴨志田貴司とともにバファローズにトレードされてしまった。山本に至っては一度も一軍に上がれなかった。
山本のファームでの成績を振り返ってみよう。
2003年 51試合 103打数28安打6本塁打15打点 打率.272
2004年 37試合 57打数14安打3本塁打5打点 打率.246
2005年 40試合 86打数20安打3本塁打9打点 打率.233
2006年 77試合 210打数52安打3本塁打22打点 打率.248
2007年 6試合 5打数3安打1本塁打1打点 打率.600
2008年 21試合 20打数3安打0本塁打0打点 打率.150
通算 232試合 481打数120安打16本塁打52打点 打率.249
四年目に自己最多の77試合に出場し、安打数、打点数で自己最多をマークして、いよいよこれからという時、球団から育成選手契約を言い渡された。「何とかならぬものかなぁ」というのが敗戦処理。の印象であった。毎年のように補強、補強の繰り返しでジャイアンツの一軍は狭き門だが、同期の大学卒の矢野謙次や、時期を同じくしてジャイアンツアカデミーのアシスタントコーチ就任が決まった山田真介ら、一軍と二軍を行ったり来たりしている先輩達に割って入る活躍やアピールが出来なかったのが残念だった。たまに出る長距離打者の片鱗だけでは吉村禎章二軍監督ら首脳陣を動かせなかったようだ。皮肉にも山本から背番号61を受け継いだ坂本勇人は一年で二軍を卒業するが…。
山本の本塁打を何本か生で観ているが、結局あの「幻の一発」を超えるインパクトのものはなかった。もともとその程度の選手だったのか、指導者の腕が悪かったのか、あるいは入るチームを誤ったのか…。
坂本の大活躍で急にジャイアンツのファームが見直されたような感じがある。今秋のドラフトで獲得した大田泰示も相当の逸材のようだから、早々とファームを卒業するかもしれない。しかし、そういったもともと素質豊かな若手が育つのは本来ファームの「手柄」ではないのかもしれない。彼らは勝手に育つのだ。今のメンバーであれば、田中大二郎や中井大介、藤村大介といった選手達を一軍の戦力に送り出してこそファームの「手柄」なのだろう。
山本で夢を見ることは出来なかったが、坂本に続く成長株を何とか輩出して欲しいものだ。「野球観が変わった」の名台詞でおなじみの岡崎郁が来季からジャイアンツのファームを引っ張る。現役時代からは想像出来ないメタボ体形が気になるところだが、ジャイアンツのファームを変えて欲しい。
そしてファイターズの鵜久森淳志が同じ轍を踏まない様祈る。
| 固定リンク
« 来季のジャイアンツ打線は相手投手の右左に応じて高橋由伸と谷佳知を併用!?-週刊ベースボールの「どこよりも早い!2009年プロ野球12球団戦力分析」より | トップページ | 故きを温ねて新しきを知れるか? »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント