長野久義「ジャイアンツ愛」貫く先には。
マリーンズからドラフト2位で指名されたホンダの長野久義外野手が二年前にファイターズから指名を受けた時に続き、ジャイアンツ志望を理由に入団しないことを決断し、5日マリーンズに交渉打ち切りを通告した。「本当に悩んだ。巨人のユニホームを着るイメージはまだできないが、小さいころから好きだった。もう1年、新たな気持ちでやりたい」とのこと。今時珍しい「ジャイアンツ愛」の持ち主だ。二年前に拒否した時には「希望枠」制度があったので二年我慢すればというのがあったが、「希望枠」がない現在、来年もジャイアンツが交渉権を得るという保証はない。長野の決断は吉と出るか、凶と出るか?
4日の時点では「ホンダでやり残したことがある」とのことだったが、最終交渉と位置づけたこの日、長野は単刀直入に拒否理由を明示した。ジャイアンツファンである敗戦処理。としては、今時珍しい男がいるものだと頼もしい思いもあるが、ジャイアンツに限らず、こういう発想の持ち主は往々にして希望球団への入団という望みが叶った時点で燃え尽きてしまう様な気がするのだ。長野にしてもこれまでの取材などでは「ジャイアンツでプレーしたい」と再三口にしている様だがその実態は「ジャイアンツのユニフォームを着たい」、「ジャイアンツの一員になりたい」で完結してしまう様な気がしてならない。もちろんこれは根拠のない偏見であるのだが。
2010年のジャイアンツ。主砲アレックス・ラミレスは36歳。打つだけの選手としては円熟味を増しているかもしれないが外野の要の高橋由伸も35歳。右打ちの外野手では谷佳知は37歳でシーズンを迎える。右打ちの外野手、長野は確かに欲しい逸材だ。もちろん元をただせば、ファイターズのユニフォームを着ていたら少なくとも対左投手用オーダーではスタメンに名を連ねていただろうが<苦笑>。
ところで長野の「ジャイアンツ愛」に関してはよくわかったが、ジャイアンツの方はどうなのだろうか?
ジャイアンツから見てどうしても欲しい即戦力の選手と言うことであれば、先般のドラフトでも高倍率が予想される大田泰示を避け、単独指名が可能な長野を1位で指名するという選択もあったはずだ。にもかかわらず1位には大田を指名したということは、ジャイアンツの2位がウェーバー順位で12番目になることを考えると、「今回のドラフトでは長野を獲得できなくてもやむを得ず」という発想だったことを意味する。もちろん二度も他球団の指名を拒否したからと言って、来年のドラフトで長野に対する優先順位が上がるかどうか、現時点では保証の限りではない。
もっとも、ジャイアンツが、ジャイアンツを強く志望している選手に対し、他球団の指名を拒否するであろうと見越した場合には敢えて優先的に指名しないのは今回が初めてではない。
2000年秋に行われたドラフトで、超高校級と言われた敦賀気比高の内海哲也はジャイアンツ以外から指名されたら社会人に進む姿勢を示していた。内海の意志の強さに他球団が指名をためらえば、ジャイアンツの単独指名が可能な状況であった。ところが当時の逆指名ドラフトでジャイアンツは逆指名を受けた阿部慎之助を1位で、上野裕平を2位で指名した。それでも他球団が指名しなければ3位でジャイアンツが指名可能だったのだが旧ブルーウェーブが1位で指名したため、内海は入団拒否、社会人の東京ガスに進んで三年間待つことになった。結果論だがジャイアンツはどうしても内海を「この年に」欲しかったならば上野を諦め、1位に内海、逆指名を得た阿部を2位に指名することにより、抽選があっても内海の交渉権を得ることに賭ける手があったのだが、阿部も欲しい、上野も欲しい、内海も欲しい、の結果、内海に三年間遠回りさせる選択をさせたのである。
かつて強いジャイアンツ志望だった元木大介を1位では指名せず、その結果ホークスの外れ1位に指名されてしまった時、元木は一浪してジャイアンツの指名を待った。この時のジャイアンツは翌年のドラフト会議の前日、即ちホークスの交渉権が途切れた日を待って元木と「空白の一日」を主張して契約、じゃなかった、ホークスの交渉権が切れるのを見届けて当時の正力亨オーナーが「明日のドラフト会議で巨人軍は元木大介君を1位指名します」と明言した。ジャイアンツのために貴重な一年間を犠牲にした青年に報いるため、とりあえず1位指名を確約する男気を見せたのだ。もちろん、ホークス以外の他球団が1位指名することも可能でその場合は抽選になるのだが、ジャイアンツなりに元木に対して誠意を示した形になる。ジャイアンツはかつてはそういうチームだったのだ。
次にジャイアンツ以外の球団の長野に対する姿勢はどうか?
日本大学四年生だった二年前も、社会人野球で二年を経た今回も長野がジャイアンツ一辺倒であることは周知の事実であるが二年前にはファイターズが四巡目で指名し、今回もマリーンズが一位で指名した。もちろん両球団ともジャイアンツや長野に対して嫌がらせをしている訳ではない。入団させる自身があるから指名するのだ。「ドラフト拒否」という点では今回のドラフトでは大リーグ一本を表明していた新日本石油ENEOSの田澤純一がいたが、田澤を指名する球団はなかった。「田澤の意思は硬いが、長野なら落とせる」スカウトにはそう映ったと言うことだろう。この点、長野がどうしてもジャイアンツにしか入りたくないのであれば、長野に隙があると言うことを意味し、反省すべき点と言えよう。
果たして、来秋のドラフト会議でジャイアンツは長野に対し、どういうスタンスを示すだろうか?
蛇足ながら、昨秋のドラフトで指名されて今年一年間、ルーキーとして頑張った選手達の契約更改状況に触れておこう。ドラフト時の期待の高さで決まる一年目の年俸から、一年間の結果で査定される初めての契約更改を終えてどれだけ年俸がアップするのか球団ごとにまとめてみた。
2009年 2008年 昇給率
ベイスターズ 3,110 2,640 17.8%
ファイターズ 10,230 8,730 17.2%
バファローズ 5,310 4,590 15.7%
ゴールデンイーグルス 6,550 5,850 12.0%
カープ 5,610 5,110 9.8%
タイガース 4,840 4,640 4.3%
ライオンズ 4,900 4,900 0.0%
ホークス 3,280 3,300 ▲0.6%
ジャイアンツ 4,460 4,600 ▲3.0%
スワローズ 7,330 7,600 ▲3.6%
マリーンズ 4,510 4,800 ▲6.0%
ドラゴンズ 3,240 3,540 ▲8.5%
(単位は万円。12月4日までに更改した新人選手の比較)
ジャイアンツでは未更改のルーキー選手もいるのだが、二年目で給料が下がってしまうのだ。これは球団が「釣った魚にエサをやらない」体質であるのか、スカウトに見る目がないのか、新人選手が働きにくい職場環境なのか、最初に触れた様にジャイアンツの一員になった時点で満足してしまう輩が多いのか、それらいずれか、あるいは複数だろう。
長野が所属するホンダではこの日、奇しくもF1からの撤退を表明した。社会人野球に賭ける会社の意気込みもいずれ…等と言うことにならないとも限らない。高校。大学を経て超一流企業に就職した長野のこと、それなりの人生設計を描いた上でのドラフト指名拒否であろうが…。
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コメント
にしたく様、コメントをありがとうございました。
二年前のドラフトで、長野がファイターズの指名を拒否し、それだけならまだしも日本大学の野球部の監督が「日本ハムだけには行きたくない」と言わせたとか、いろいろありました。
その後にライオンズの栄養費疑惑のニュースで選手本人だけではなく、周囲のオトナにいろいろと胡散臭いのがいてこじれるケースが多いと言うことが露呈し、「きっと長野も…」とうがった見方をしていましたがホンダに入ってからも「ジャイアンツ愛」を貫くとは、なかなかのタマですね。
今回指名したマリーンズの瀬戸山球団代表兼社長さんはあの根本陸夫さんの薫陶を受けています。それだけに長野も墜ちるかなと思いましたが…。
エントリーで書いたように2010年のジャイアンツに右の強打の外野手は必要になると思いますが、実際どんな選手なのでしょうか?
マリーンズがどうやら長野の獲得が難しそうだと観念しかけた頃にベニーとの来季の契約が成就したり、二年前のファイターズも長野獲得断念後に、その前に解雇した坪井と契約することを決めたりという転を考えると、「即戦力」なのでしょうね。
一年後にそうとは限りませんが…。
投稿: 敗戦処理。 | 2008年12月 7日 (日) 01時28分
夏場までは長野を一位で指名する予定だったようですから、来秋のドラフトもどうなるかわかりません。
本人のコメントを見ている限り、「巨人以外のプロ入りは有り得ない」感じでした。
巨人ファンとしては感動的ですが、期待が膨らむだけに、「いざ試合!」となるまで、、、
心配です。
投稿: にしたく | 2008年12月 6日 (土) 09時01分