育成選手はつらいよ…
先月、スポーツ新聞でこんな記事を見つけた。
◆ 巨人とロッテは2日、2軍の若手選手と育成選手による連合チーム「シリウス」を編成して試合を開催することを発表した。巨人、ロッテともに二桁の育成選手が所属しており、二軍戦にすら出場機会を与えられない選手が増加。二軍選手にとって実戦での鍛錬は不可欠とこの事態を深刻に受け止めている両球団の思惑が一致。深刻( Serious )にちなんで連合チームの名を「シリウス」と名づけた。社会人チーム、クラブチームと24試合を戦う。巨人・金杞泰コーチ、ロッテ・佐藤幸彦コーチが監督を務める。4月5日にはNOMOベースボールクラブと対戦する予定。
で、早速観てきました。
(写真:シリウス対NOMOベースボールクラブ戦。先制打を放つシリウスの一員、ジャイアンツの育成選手、福元淳志)
シリウス( Sirius )は豊富な育成選手を抱えるマリーンズとジャイアンツが彼らの試合出場機会を増やすために結成した両軍の育成選手や二軍若手選手による混成チーム。イースタン7球団の育成選手や二軍若手選手によるフューチャーズが主にイースタン各球団との試合を組むのとは異なり、シリウスは社会人野球のチームなどNPB以外の組織のチームと主に対戦する。ちなみに Sirius は最も明るい恒星だそうで、そこから「輝く星」になれという意味を込めたという。冒頭のはあくまでジョークで、シリウス( Serious )だと深刻という意味になり、ファームの選手達にとっては洒落にならない。
しかしせっかくマリーンズとジャイアンツで混成チームを組むのだから「ロッテジャイアンツ」にして欲しかったような<笑>。なおシリウスは既に先月31日にBCリーグの群馬ダイヤモンドペガサスと第一戦を行っており、7対1で初戦を飾っている。
ユニフォームは上半身だけ Sirius で、ヘルメットとズボンはジャイアンツ、マリーンズそれぞれの所属球団のものを使用している。また背番号は所属チームでのものとは無関係に割り振られている。もちろんここでは三桁ではない。
シリウスのスターティングメンバーが発表された。
(中)大谷龍次(M)
(遊)生山裕人(M)
(二)岩舘学(G)
(左)福元淳志(G)
(右)籾山幸徳(G)
(一)山本和作(G)
(指)佐藤弘祐(G)
(捕)谷内田敦士(G)
(三)吉田真史(M)
(投)村田透(G)
斜文字は育成選手。Mはマリーンズ、Gはジャイアンツ所属。
一方のNOMOベースボールクラブは先発に杉原洋を立ててきた。
杉原は2004年から2006年まで三年間マリーンズに所属していたが、一度も一軍に上がれぬまま戦力外通告を受けた選手だ。もう一度プロを目指したいという強い意志を持ってNOMOベースボールクラブで頑張っている。マリーンズ時代には毎年2月に発売される週刊ベースボール(ベースボール・マガジン社)の選手名鑑号では、好きな女性タレントというアンケートに具体的なタレント名を挙げずに三年連続して「巨乳タレント」と答えた強者だが、プロでは日の目を浴びることはなかった。
シリウスは一回裏から果敢に攻める。
一番の大谷龍次、二番の生山裕人の連打で無死一、二塁。岩舘学の右飛で一死一、三塁となって四番の福元淳志を迎えた。
実はこの福元、昨シーズンまでNOMOベースボールクラブに属していた。一昨年のクラブチーム選手権では首位打者に輝いた選手。古巣の前で良いところを見せたいがここは遊ゴロ併殺打に倒れた。
シリウスは続く二回裏にも連打で無死一、二塁とすると、バントで送って一死二、三塁としたが谷内田敦士、吉田真史が倒れて得点を挙げられない。
「NOMOベースボールクラブ、なかなかやるな」
そんな感じだったが、三回裏に一回にはチャンスを潰したNOMOベースボールクラブ出身の福元が三遊間を破り1点を先制した。(冒頭の写真)
昨秋のドラフト会議ではNOMOベースボールクラブからはこの福元がジャイアンツから育成選手ドラフトで指名された他にNOMOベースボールクラブから社会人の東邦ガスに移籍した投手の藤江均がベイスターズから2位指名を受けた。
シリウス先発の村田透はNOMOベースボールクラブ打線を4回まで投げて無失点だった。1点先制直後の四回表に無死一、二塁のピンチを招くが次打者のバントが捕手への小飛球となって二塁走者が帰塁出来ず併殺となってピンチを切り抜けた。
村田は2007年秋の大学生・社会人ドラフトの1巡目指名(ホークスに入団した大場翔太の外れ1位)でジャイアンツに入団した選手でもちろん支配下登録されている選手だが、ルーキーイヤーの昨年は一度も一軍入り出来なかった。「自由獲得枠やら希望枠が廃止されたらジャイアンツはまともなスカウティングが出来なくなった」と陰口を叩かれたものだが、今ではジャイアンツファンの間でも存在感が薄いのではないか。
杉原も結局5イニングを投げて1失点。こちらも福元同様に古巣との対決という感じになったが、マリーンズから出場している選手はいずれも今年入団した選手で杉原との接点はない。古巣との対決という感慨は薄かったかもしれない。
その後シリウスは六回裏に二番手の右投手、石田淳也を攻め、一死から福元と籾山幸徳の連打でつかんだ一死一、二塁から山本和作のライトオーバーの二塁打で1点を追加。さらに一死二、三塁と攻めたが次打者佐藤弘祐の二塁ライナーで山本が二塁を飛び出して併殺となり、1点止まり。
このようにシリウスは走者を出しながらもNOMOベースボールクラブにとどめを刺せない。二盗が二度も失敗する点などもあったが、これは二塁塁審を務めたアマチュアの審判員のミスジャッジとも思えたがご愛敬。(球審と二塁塁審がアマチュアの審判員で一塁と三塁の塁審がNPBの審判員)
シリウスは村田の後、ジャイアンツの育成選手、西村優希が二番手で1イニングを投げ、六回には初めてマリーンズ所属の育成選手、木本幸広がマウンドに上がり、この回から捕手はDHで出ていた佐藤弘祐に代わった(捕手の谷内田敦士とDHの佐藤が入れ替え。練習試合ならではの特別ルール。)。普段組んでいないバッテリーだからか、どうも合わない。一死後、空振りの三振に仕留めた投球がワンバウンドすると、佐藤はまともに後逸。振り逃げを成立させてしまった。ワンバウンドしているので暴投扱いになるが、「せめて前には止められるだろう」という程度の投球で木本が気の毒だった。しかも悪いことに次打者を三振に仕留めたときにもまた同じ繰り返し。一死一塁なので振り逃げは成立しなかったが一塁走者に易々と二塁進塁を許した。木本が踏ん張って後続を抑えて無失点になったから良かったものの、混成チームとはいえお粗末なプレーの連続だった。
佐藤は東北高校三年時に一年後輩のダルビッシュ有とのバッテリーで準優勝を果たした捕手だが、支配下登録から育成選手に降格して三年目の崖っぷちの存在だ。
育成選手制度では育成選手は三年を経過して支配下登録されないと自動的に自由契約選手となる。これは同一チームで三年育成選手を務めて支配下登録されないならば自由契約にして他球団でプレーする選択肢を与えるという趣旨ではあるが、見方を変えると三年やってダメならクビという制度ともいえる。今年カド番の育成選手三年目は佐藤の他に同じジャイアンツの台湾出身の林羿豪(リン・イーハウ)と大抜亮祐、ホークスの山田大樹、カープの山中達也がいるだけだ。
その佐藤が八回裏に二死満塁から走者一掃のセンターオーバー二塁打を放ってようやく5対0と勝負を決めた。NOMOベースボールクラブ、大善戦という感じだった。
【5日・ジャイアンツ球場】
N 000 000 000 =0
シ 001 001 03× =5
N)●杉原、石田-塚本、河原
シ)村田(G)、○西村優(G)、木本(M)、S西野(M)-谷内田(G)、佐藤(G)
本塁打)両軍ともなし
シリウスの四番を務めた福元は結局決勝打となった先制タイムリーを含む4打数3安打。古巣の前で意地を見せた。
福元は昨秋のドラフトでジャイアンツが指名した選手の中で最高齢の25歳だった。普通の考えれば、25歳の選手がドラフト指名対象となれば即戦力を見込むものだが、福元は育成選手ドラフトでの指名。球団は即戦力とは見なしていないことを意味する。25歳という年齢はジャイアンツに限らず他球団を見渡しても高年齢で昨秋のドラフトで福元より年上はホークスが育成選手ドラフトで指名した香川オリーブガイナーズの堂上隼人だけだ。その堂上は開幕直前に支配下登録された。これは推測だが福元は今年一定の成果を出さなければ、育成選手の契約制限の三年を待たずして今シーズン終了後に解雇されるのではないか。今夏に26歳になって終えたオフにまだ育成選手であるならば、いかにジャイアンツと言えども見切りをつけても不思議ではない。福元とてそのくらいの覚悟で臨んでいることだろう。もちろん「一定の成果」とは最低でも支配下登録されることである。
今日のシリウスの対戦相手、NOMOベースボールクラブ自体、プロ野球選手を目指す夢をあきらめない選手達の受け皿になるようにと、野茂英雄が中心になって立ち上げたクラブチームである。このようなご時世で社会人野球のチームが減少し、野球を続けたくても続けられないプレーヤーが多いのだ。そういう意味ではNOMOベースボールクラブ自体がシリウスと同義なのである。奇しくも今日は同じ目的で作られたチーム同士の対戦と言えなくもない。
今年のNPBのスローガンは「野球とは、」であるが、「プロ野球とは、」と考えてみると、近年発足した独立リーグも「プロ」であることを踏まえればもはや十二球団だけがプロ野球ではない。また、十二球団というパイの中での争いだけでなく、WBCのような国際大会もあれば今日のシリウスGAMEのようなプロアマ交流戦もある。ただ勝てばよいのか、プロ野球とは何だ?ファンも含め、いろいろと考えさせられる一年になるかもしれない。
それにしても、野茂英雄理事長の姿を一目見たかったが、来ていなかったのだろうか。試合前のベンチなどを探したのだが…。
蛇足ながら試合前に紹介されたベンチ入りメンバーの中にコーチの光山英和の名前があったがGAORAの生放送で光山は札幌ドームにいたはずで、現実に背番号44の姿はなかった。
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