あなたはマーク・クルーンと心中出来るか?
それは異様な光景だった。
7対2とリードして迎えた九回裏。ジャイアンツは守護神クルーンを投入するまでもないと考え、三番手に越智大祐を投入。ところが越智がピリッとしない。2本の安打と四球であっという間に無死満塁にすると、一死から安打で1点を返され、本塁打が出れば同点という場面に。何とか二死までこぎ着けたもののスワローズの二番、川島慶三を迎えたところで原辰徳監督はクルーン投入を決意。越智以上に制球に不安のある守護神の投入にジャイアンツファンからも悲鳴が上がり、スワローズファンは土壇場に来ての一縷の望みに熱くなる。
この日の昼間、鎌ヶ谷でファイターズが九回表に逆転負けするのを観たばかりの敗戦処理。は一日に二度、贔屓チームが最終回に逆転されてはたまらんと焦る。今年の敗戦処理。が生観戦した試合は終盤にこじれる試合がやたらに多いのだ。
1対0でジャイアンツがリードの八回裏に越智大祐が暴投で同点に。九回表には永川勝浩が暴投でジャイアンツ勝ち越し。
2対1でリードの九回裏にジャイアンツがマーク・クルーンを投入するも同点に追いつかれ、続投した十回裏にはサヨナラ負け。
3対2でジャイアンツがリードの九回表にクルーンを投入。一死二塁からの挟殺プレーでクルーンが指を負傷。治療後に続投して後続を抑えて逃げ切るもその後、登録抹消。
2対0でジャイアンツがリードの九回表。八回途中から登板の越智がリードを守りきれず同点に。その裏に坂本勇人がサヨナラ本塁打。
7対7の同点の八回裏にファイターズが紺田敏正のタイムリーで1点を勝ち越すも、九回表にシーレックスに北川隼行のタイムリーなどで逆転され黒星。
2対1で迎えた九回表にファイターズが武田久を投入して逃げ切りを図るも、タフィ・ローズに逆転2ランを喰らう。武田久がリードを引っ繰り返されるのは今季初。しかしその裏、ファイターズは二死から小谷野栄一の本塁打で同点に。延長十二回にファイターズがサヨナラ勝ち。
2対1でファイターズがリードした九回表。八回から登板の宮本賢で逃げ切りを図るも、連打と四球で無死満塁とされ、暴投で同点、その後高山久の2点二塁打で逆転される。
そんな不吉なジンクスの中、クルーンがマウンドに上がる。
しかもジャイアンツはなおもブルペンで山口鉄也が投球練習に力を入れている。
現在では珍しくなった、スタンドからブルペンを望める神宮球場ならではの描写だ。
クルーンは投球練習でも荒れていた。投球練習の一球ごとに歓声が沸く。明らかなボール球だとため息が起き、ストライクらしき投球だと歓声が沸く。これまた珍しいシーンだ。
川島慶がつなげば、次はこの日4打数4安打の青木宣親。ジャイアンツベンチは青木に回ったら山口を投入しようと考えたのだろうか?
おそらくそうだろう。川島慶は青木とは対照的にここまで4打数0安打。併殺打を2本放っている。不調の越智でも何とかなりそうな相手だが、ジャイアンツベンチは川島慶を恐れてクルーンを投入したというより、青木に回すことを嫌がってクルーンを投入したのだろうと敗戦処理。は思った。
そしてクルーンVS川島慶の対決のさなかに一塁側のブルペンに目を向けると、延長戦突入に備え、イム・チャンヨンの投球練習に力が入ってきた。
最後は川島慶がワンバウンドするフォークを空振りし、三振。振り逃げが成立する状況だったため、捕手の鶴岡一成はホームベースをミットでタッチして最後のアウトを取った。
やれやれ、昼夜の連続逆転負けは辛くも免れた。
ジャイアンツファンの中にはクルーンの抑えに不安感を持つ人が少なくない。越智や、サウスポーの山口を抑えにした方がよほど安心して最終回を迎えられると彼らは思っているのだ。
リードした最終回に守護神を投入しても安心出来ない野球。
これはあくまで敗戦処理。の野球観なのだが、抑え投手に限っては内容が悪くてもとにかくリードを保って逃げ切ってくれればよいと考えている。走者を出そうが、ホームに還さなければ良し。3点リードなら、2点までは返されても、1点差で勝てば良い。こういうと、「しっかりと最終回を抑えて勝たないと、相手に勢いを与えて翌日に影響する」と反論する人もいるが、リードした試合の最終回を任せられるという、究極のプレッシャーがかかる守護神にそこまで完璧を求めるのが国であると考える敗戦処理。は守護神には内容を求めないのだ。とにかく勝ってくれればよい。
近年のジャイアンツで守護神が完璧に近かったのは2007年の上原浩治と2002年の河原純一くらいだろう。
2007年の上原は故障で出遅れ、開幕から約一ヶ月後の実戦参戦で抑えに回った。55試合に登板し、4勝3敗32S、防御率1.74という見事な成績だったが、3敗もすべて同点の場面で登板して勝ち越されたもので、一年を徹してリードを引っ繰り返される逆転負けはなかった。しかしその上原は一シーズンを終えて「もう抑えは懲り懲り」と首脳陣に先発復帰を直訴した。
2002年の河原は監督一年目の原監督に守護神に抜擢され、49試合で5勝3敗28S、防御率2.70と好結果を残したが翌年には不調に陥り、その後も復調出来ぬまま三年後の2005年開幕直前にライオンズにトレードされる。ライオンズでは先発ローテーションに組み込まれた。先発転向しての移籍初登板で勝利投手になるものの長続きせず勝ち星は伸びなかった。
抑えとはそれほどまでに難しい役回りなのだろう。
ジャイアンツファンの中にはクルーンを外して、極論すればウィルフィン・オビスポを登録して先発ローテーションを固めた方が良いと考える層もいるようだが、現実はそうも単純ではないように思える。実際に今季、クルーンが故障で離脱した際、ジャイアンツの台所事情はかなり切迫した。
6月6日の対ファイターズ戦での挟殺プレーで左手指を痛めたクルーンは6月14日に登録を抹消された。その時点でのクルーンを含めた、越智、山口、豊田清の成績を観てみよう。
クルーン 22試合0勝1敗11S、防御率1.13
越智大祐 29試合4勝1敗5S、防御率1.38
山口鉄也 31試合4勝0敗0S、防御率0.78
豊田清 25試合1勝1敗0S、防御率2.75
(6月13日現在)
この時点でジャイアンツの試合消化数は59試合。既に越智と山口はチーム試合数の過半数に登板しており、登板過多での状況下でクルーンが離脱した。クルーンは7月18日に再登録されるのだが、クルーン抹消中の23試合、主に越智が抑えの代役を務め、4Sを挙げた他、山口もこの期間に3Sを挙げた。しかしこの期間の越智の防御率は5.14、山口の防御率は3.00と役割分担の変化で少なからず影響が出ている。豊田は防御率1.00と頑張ったが、クルーン再登録の前日に腰痛で登録を抹消された。
単純な話、クルーンの不在期間に例えば越智を代役の守護神に指名すると、クルーンの穴はある程度埋まっても越智の代役がいないのである。ジャイアンツはクルーンがいない間、クルーンが担っていた1イニング分を、先発投手にもう1イニング長く投げさせることでカバーするのではなく、それまでクルーンの前を1イニングずつ、計2イニング担っていた越智と山口に二人で3イニングを投げさせることでカバーしようとしたのだ。だから、両投手とも成績がダウンしたのだ。
そして越智と山口の疲労の蓄積はその後も影響を及ぼし、クルーンの復帰後、不在期間と同じ23試合(7月18日~8月18日)の防御率を調べると越智は3.86、山口は2.31と今ひとつ回復していない。
これらの状況から考えると、ジャイアンツは少なくとも今シーズンはたまにどんでん返しがあろうとも、クルーンを守護神として固定し、この日の先発のセス・グライシンガーのように先発投手に出来るだけ長く投げてもらうしか、方法がないのだろう。誰を代わりに持ってきても、そのしわ寄せはどこかに来るのだ。
そもそもジャイアンツは自前で抑え投手を作れないからクルーンを獲得したのだ。前出の上原も、その前年の2006年にシーズン途中から抑えに回った高橋尚成もシーズン後には先発復帰を直訴したのだ。
敗戦処理。は究極のウルトラCとして内海哲也の抑え転向を考えたこともあるが、入団以来先発一本でやってきた内海に適性があるのかそもそもわからない。
たしかにクルーンの投球内容は精神衛生上良くない。投球練習でストライクゾーンに球が行くだけで大拍手が起きる守護神では生きた心地がしない。しかし今はクルーンに託すしか無いのだ。
敗戦処理。が昼夜と生観戦のハシゴをしたのは今月に入って12日に次いで二度目。12日の昼の千葉マリンはこの日の鎌ヶ谷よりも熱かったが、夜は空調の効いた東京ドームだった。この日は昼の部で疲れが倍増する逆転負けを喫し、その足で神宮へ。ジャイアンツが先行する展開に救われ、五回終了時には恒例の花火でも盛り上がった。
フジテレビお抱えのアイドルユニット、アイドリングも花を添えて一服の清涼剤と化してくれた。
が、最後はあわや最悪の事態にという場面までこじれた。試合後のJR総武線、信濃町駅までの帰路は隣の国立競技場で行われていたJ1の柏対横浜M戦のサポーターとごっちゃになり前に進まず、さらに疲れが重なった。信濃町から新宿に出て京王線に乗り換えようとすると、味の素スタジアムで行われた、小室哲哉がサプライズ出演したa-nation’09帰りで京王線沿線の飛田給駅から乗ってきた一群と鉢合わせして改札口が混乱。全くついていなかった<苦笑>。
しかし、それでも生観戦はやめられないのである。
敗戦処理。の事例は極端にしても、いよいよドラゴンズとのマッチレースとの様相を呈してきたジャイアンツ。ジャイアンツファンはクルーンと心中するつもりで腹をくくるしかないと思うのだが、どうだろうか?
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コメント
宇宙狼様、コメントをありがとうございました。
お返事が遅くなってスミマセン。
> 観客は少ないは、試合は逆転負けするは(ヤタロー・・)、ミーハーな群集と鉢合わせするはで、こちらもついてない一日でした。
坂元と宮本は「敗北への方程式」ですね。
昨日(29日)も宮本が出てきた時点でファイターズの負け(ジャイアンツの勝利)を確信しました。
いつの間にか4位に落ちているし、役者が少ないですね。
今日は陽が戻ってきそうなので期待出来るかな?
投稿: 敗戦処理。 | 2009年8月30日 (日) 03時15分
今日、ファイターズタウン鎌ヶ谷での感染、もとい観戦帰り、東武鎌ヶ谷駅ロータリーには大勢の人だかりが! 麻生総理の応援演説を一目見ようとする人達でバスの停留所も埋まってしまう異常事態に。
観客は少ないは、試合は逆転負けするは(ヤタロー・・)、ミーハーな群集と鉢合わせするはで、こちらもついてない一日でした。
投稿: 宇宙狼 | 2009年8月23日 (日) 22時56分
>双子説とか三つ子説とかありますが、いったい何人兄弟なのでしょうか?
登板の数だけ兄弟がいるのかも知れません(笑)。上がってみないとその日の調子が分からないので。1人のクルーンが、5人、10人、なんてサスケみたいですが・・・。
>いやぁ~、ピッチング練習であれだけ盛り上げてくれる選手はなかなかいません。
マウンドに上がっただけで盛り上がりますね。神宮はブルペンが目の前ですからその前の段階から楽しめそうですね。東京ドームはその点さびしいです。旧後楽園球場の内外野の間にあったブルペンを覗き込んで見た記憶が懐かしいです。
投稿: 長緯 | 2009年8月23日 (日) 22時24分
長緯様、コメントをありがとうございました。
> 。「荒れる」というのもピッチャーの魅力のひとつですし、そういったことも含めてファンはクルーンの投球を楽しんでいる感じもします。
そ、そんな。いくら怪談話の季節とはいえ<苦笑>。
> クルーンが打たれて試合を落とすと「なにやってんだよ」ですが、越智や山口が打たれると「大丈夫かなぁ・・・」という印象です。そんなわけでクルーンは突っ込みどころのある面白いキャラとも思います。
いやぁ~、ピッチング練習であれだけ盛り上げてくれる選手はなかなかいません。
ストライクゾーンに行くと「オオォー!」、ボール球だと「あちゃー?」という感じでしたからね。
「川島、振ってくれ」などとお願いしているファンもいましたから<苦笑>。
その点今日(23日)のクルーンは安定していましたね。
双子説とか三つ子説とかありますが、いったい何人兄弟なのでしょうか?
投稿: 敗戦処理。 | 2009年8月23日 (日) 21時39分
ブルペンでの投球練習、そして花火、帰路の雑踏。都心の屋外球場の魅力がたっぷり伝わる内容ですね。観戦おつかれさまです。
Gファンが時々口にする「オビスポとクルーンの入れ替え」は、まぁ冗談の部類と思います。「荒れる」というのもピッチャーの魅力のひとつですし、そういったことも含めてファンはクルーンの投球を楽しんでいる感じもします。
クルーンが打たれて試合を落とすと「なにやってんだよ」ですが、越智や山口が打たれると「大丈夫かなぁ・・・」という印象です。そんなわけでクルーンは突っ込みどころのある面白いキャラとも思います。
投稿: 長緯 | 2009年8月23日 (日) 18時29分