ホームアドバンテージ?-東京ドームでの日本シリーズ
アメリカ合衆国の前の大統領による始球式というど派手な演出から始まった日本シリーズ第三戦はジャイアンツが7対4で制し、対戦成績はジャイアンツの二勝一敗となった。
この試合のヒーローは三回裏には勝ち越しの本塁打を放ち、その後同点とされたあとの五回裏に決勝打となる2点タイムリー二塁打を放った小笠原道大だ。
試合は序盤から両軍ともソロ本塁打合戦。一昨日までの札幌ドームでは考えにくい展開だが、見方によってはこの展開自体、ファイターズはジャイアンツの土俵で闘っていることになり、空中戦では「本家」に勝つのは難しいだろうことはレギュラーシーズンのチーム本塁打数を比較すれば明らかだ。
そして本来であればこの展開から脱却したいはずのファイターズではなく、ジャイアンツが脱却した。合計5本目の本塁打が出た直後の五回裏、ジャイアンツは二死から坂本勇人の四球、松本哲也の安打で一、二塁とすると前の打席で本塁打を放った小笠原が左中間を破る2点タイムリー二塁打を放った。
この打球、東京ドームがどうのというより、セ・リーグのホームゲームと言うことでDH制が使えず、十二球団一の外野陣の一角を切り崩してターメル・スレッジがレフトを守っていてこの打球に追いつけなかった様に思えた。
スレッジの守備は見た目ほどにヘタではないが(たぶんジャイアンツノアレックス・ラミレスより外野守備の能力は上だろう。ただし習慣的にDHが多いスレッジより、常日頃守備についているラミレスの方が適応度は上だろうが)、森本稀哲が守っていればこの2点は防げたであろうことを考えると、ジャイアンツはホームアドバンテージを有効に利用できたと言えなくもない。
空中戦に持ち込み、なおかつDH制不採用による相手の弱点を突く。ジャイアンツがファイターズを凌駕した一戦といえるだろう。
ただこの場面、ファイターズとしては前の打席で小笠原に本塁打を打たれている先発の糸数敬作に代えてサウスポーの林昌範をリリーフに送るという選択肢が考えられたはずなのだが、梨田昌孝監督は動かなかった。普段パ・リーグの取材を頻繁にしているとは思えない日本テレビ解説の江川卓と山本浩二はベンチから吉井理人コーチが出てくるのを見て投手交代と決めつけていたが、吉井コーチが小走りにマウンドに行く時には投手交代ではないというのはファイターズファンなら周知の事実<笑>。
いずれにせよ3対5とされた六回裏には(糸数に打順が回ってきて代打を出したなどでもないのに)林を二番手として投入したのだから、小笠原の場面で「チェンジ」の決断をすべきだったのではないか。
* 始球式が現職大統領だったらスパッと替えていた?
梨田監督の判断ミスとおぼしき点がもう一点。
2点を追う八回表、山口鉄也登板に対して四球、牽制悪送球、失策、四球というジャイアンツ側の自滅で1点を返してなお無死一、二塁の場面で四番の高橋信二。シーズン中であれば、「つなぐ四番」の高橋にバントのサインが出ても不思議でない場面だが、高橋は結局一度もバントのそぶりを見せず普通に強行して二塁ゴロ併殺打に仕留められた。次が左対左になるスレッジであっても走者を進めることを優先に考える采配があって然るべきだと思ったが。山口がシーズン中の山口でないのは明らかだったがそこにつけいることが出来なかった。
ジャイアンツファンの中には(あるいはひょっとしたらジャイアンツベンチも)守護神のマーク・クルーンや越智大祐よりも山口に最大の信頼感、というか安心感を持っている者が少なくないはずで、その山口が攻略されようものなら動揺は大きいはずだ。山口攻略に失敗したのはファイターズには痛い事態と言えよう。
八回裏はビハインドが1点ということで三試合連投になる宮西尚生を一死一、二塁から注ぎ込んだが、亀井義行をセンターフライに打ち取って二死一、三塁としてイ・スンヨプに右の代打、谷佳知が起用されると右の江尻慎太郎を投入。この江尻が谷に四球を与えた時点で勝負あったという感じだった。
ファイターズが東京ドームを本拠地にしていた16年間、何度かリーグ優勝に手が届く位置に途中までいた年があったが、優勝は出来なかった。後楽園球場を本拠地にして1981年に今回と同じジャイアンツとの日本シリーズを経験したが、次の日本シリーズ出場は北海道移転後の2006年まで果たせなかったファイターズ。移転後も東京ドームでの主催試合を10試合弱行い続け、敗戦処理。もありがたく足を運んでいるが、今回ビジターとして「東京ドームでの日本シリーズ」が実現したのは個人的には感慨深い。
そしてその最初の試合で先頭に立ってファイターズに立ちはだかったのが小笠原だというのは複雑な心境だ。
札幌ドームでの日本シリーズ第一戦。さすがに集団で小笠原にブーイングを浴びせる光景は見当たらなかったが、凡退すると他の選手に対しては浴びせられないような罵声を浴びせているファンが散在した。もちろん小笠原がFAでファイターズを飛び出してジャイアンツに移籍したことに対するファイターズファンの思いは十人十色だろう。観客として思いを口にする権利は誰にでもあろう。
しかし敗戦処理。としては移籍先がもう一つの贔屓チームだったからと言うレベルでなく、小笠原に限らずFA=自分の都合で球団を飛び出していった選手にブーイングをしたりバッシングをする気にはならない。特に小笠原に関していえば、ファイターズが2003年を最後に東京から北海道に移転する際、その東京ドーム本拠地最終戦で上記写真のように東京で応援してきたファンへの最大限のメッセージと思える言葉を残してくれたし、言葉だけでなく、実際にその試合で小笠原は試合後の感謝セレモニーがすべて終了したあとに無人のグラウンドに再び姿を現し、別れを惜しむライトスタンドのファイターズファンにサインボールを投げ続けた。
「この男がいる限り、ファイターズはどこに行ってもファイターズだ」
敗戦処理。は思いを強くした。
余談だがジャイアンツ移籍後の小笠原は古巣ファイターズ戦での相性が良くなかった。
◆小笠原道大の対ファイターズ交流戦成績
2007年 4試合16打数4安打0本塁打1打点 打率.250
2008年 4試合10打数2安打0本塁打0打点 打率.200
2009年 4試合13打数5安打0本塁打3打点 打率.385
三年計 12試合39打数11安打0本塁打4打点 打率.282
◆小笠原道大のオールスターゲームでのファイターズ投手との対戦
2007年第一戦
対ダルビッシュ 二ゴロ
対武田久 三振
2009年第一戦
対ダルビッシュ 中前安
対武田久 二ゴロ
移籍三年目にしてようやく過去と訣別できたのか、古巣ファイターズ相手に結果を残すようになってきた。今日の糸数から放った本塁打は対ジャイアンツ戦の初本塁打に当たる。それゆえにヒーローインタビューでの最初の一言、
「やっと打てました!」
は小笠原の本音だろう。「やっと」は日本シリーズで、という意味だけでなく、古巣ファイターズを相手にという意味であろう。
ファイターズとしては日本シリーズを戦う上で最も打たれてはいけない打者に打たれたのかもしれない。まだジャイアンツが星を一つリードしただけだが、ひょっとしたら後で振り返って大きな一戦になる試合かもしれない。
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コメント
長緯様、コメントをありがとうございました。
日本シリーズ第一戦観戦時に記念に購入した日本シリーズ記念の帽子をかぶって家を出たら、近所の人から「また札幌ですか?」と呆れられました。
ま、それはさておき、
> ワールドシリーズを見て思ったのですが、指名打者という制度が松井秀喜を救ったと言えると思います。怪我の多い高橋由伸には、その制度が生かせるリーグに行って、もうひと花咲かせてもらいたいと思ったのですが。
日本シリーズを見て思ったのですが、今年はインフルエンザ渦を考慮して日本シリーズでの出場四十人枠の制約がありません。
ということは、本拠地最終戦に当たる日本シリーズ第五戦にベンチ入りさせ、九回裏に代打で起用するということも可能だったのですが惜しいことをしました<笑>。
このコメントツリーで「ウルフ」という表現を用いているのはもちろんミスターがニックネームをつけてそう呼んでいたからですが、「ウルフ」と言えば普通は大相撲の現・九重親方の元横綱・千代の富士を想起するでしょう。
千代の富士は二十歳代の前半までは肩の脱臼癖に代表されるケガが多く、なかなか番付を上げることが出来ないいわゆる「エレベーター力士」だったのですが、猛稽古と独自の調整法でそれらを克服し、やがて大横綱と賞賛されるまでに登り詰めました。
野球界のウルフは天才の名を欲しいままにしてエリート街道をまっしぐらにという感じでしたが、グラウンドでのケガが絶えず、本家ウルフの逆を行く感じで何とも嘆かわしい限りです。
> 何が言いたいかというと、ジャイアンツの「全国区戦略」も、ほどほど曲がり角に来ていることを球団側にも認識してもらいたいし、今後、人気を回復する(あえてこの表現を使います)ための戦略はどうすればよいかを考えてほしいと思います。
仰る通りだと思います。
今さら「東京」をターゲットになどと考えても、既に先んじている「東京ヤクルトスワローズ」の後塵を拝するだけです。そもそも敗戦処理。自体、長くジャイアンツファンをしていますが東京のチームだからと言う愛着で応援しているかというと、そうでもありません。
意外に難しいと思いますね。
投稿: 敗戦処理。 | 2009年11月 7日 (土) 11時25分
Eagles fly free 様、コメントをありがとうございました。
> あの時断っておいて本当によかったと思っている一イーグルスファンです(笑)。
売り時を逃して「しまった」と思っているジャイアンツファンです<笑>。
長緯さんのコメントに
> 今年一回だけ甲子園で打席に立った
という表現がありましたが、かつての看板選手の再起の第一歩にしては、明らかに劣勢な試合の最終回の代打という(相手投手が天下の藤川球児という以外は)、何の演出のかけらもない舞台だったことに違和感を憶えました。
ここから先は憶測ですが、ウルフ本人は何とか試合に出て戦力になりたいと考えているのに起用法がそれこそ投手でいえば敗戦処理。のような場面だったことにプライドを傷つけられ、それならば完治を優先させてもらおうと(騙し欺しで出場するより)手術をさせてくれとウルフが球団に主張したのではと思っています。
> ともあれ。
無事再び札幌へと向かうことができますよう、陰ながらお祈りいたしております。
ありがとうございます。
万障繰り合わせ(自分の仕事を他人に丸投げし)何とか札幌行きの手筈を整えました。これから出発するところです。
梨田監督の胴上げを生で観ることは出来なくなりましたが、原監督の胴上げを観ることが出来るのか、最終戦までもつれ込ませるファイターズの逆襲のシーンを観ることが出来るのか?
いずれにしても、一週間前の第一戦のように最後の一球まで手に汗を握る好試合を期待します。
それでは行ってきます。
投稿: 敗戦処理。 | 2009年11月 7日 (土) 09時34分
お返事にコメントという形になりますが、すみません。
ワールドシリーズを見て思ったのですが、指名打者という制度が松井秀喜を救ったと言えると思います。怪我の多い高橋由伸には、その制度が生かせるリーグに行って、もうひと花咲かせてもらいたいと思ったのですが。
>「東京」という土地柄を考えると、「札幌」や「福岡」のように一色にはなかなか染まらないでしょうね。
ファイターズが東京にいたときに、ジャイアンツとの東京ドームシリーズを見たかった気がします。その際、ファイターズのホームゲームならファイターズファンの方が多くてジャイアンツファンが押されてしまったかもと思いますが、関東は球団が多いので、どうしても応援するチームが分散するし、相手のファンも観戦機会が増えるので特に突出したチームにファンが固まりにくいのかなと感じます。
球団が存在する地域では、その球団に人気が集中するのは自然なことです。
北海道はまだ少しは巨人ファンはいるのでしょうが、福岡あたりはホークスが完全に根を張っている雰囲気なので、ジャイアンツが主催試合を組んだりしても意味あるのかなと思います(ここに時々いらしている「にしたくさん」は福岡の巨人ファンなのですよね。貴重だと思います)。
何が言いたいかというと、ジャイアンツの「全国区戦略」も、ほどほど曲がり角に来ていることを球団側にも認識してもらいたいし、今後、人気を回復する(あえてこの表現を使います)ための戦略はどうすればよいかを考えてほしいと思います。
投稿: 長緯 | 2009年11月 6日 (金) 13時18分
敗戦処理。さん、こんばんは。
あの時断っておいて本当によかったと思っている一イーグルスファンです(笑)。
#ウルフがブイブイいわせていた頃はまだジャイアンツファンだったので、このまま終わって欲しくないとは思っているのですが…
ともあれ。
無事再び札幌へと向かうことができますよう、陰ながらお祈りいたしております。
投稿: Eagles fly free | 2009年11月 5日 (木) 02時28分
長緯様、コメントをありがとうございました。
> 観戦してきましたが、高橋の打席でバントを決められると、Gファンとしては嫌なムードになったと思います。
山口の調子がもうひとつなので一気にひっくり返そうという梨田監督の思惑だったと推測しますが。
同感です。
シーズン中でもあのシチュエーションなら十中八九バントでしょうね。ファイターズの四番にはバントのサインが出ても不思議ではありません。
> ファイターズファンの非難を覚悟の上で思いますが、小笠原については、家族のこともあり関東に戻りたいという気持ちがあってのFA移籍だったという話をスポーツ紙で見ましたが、そうだとすれば客観的にみてもそれほど非難されるべきではないのかなと思います。
それはまぁ、「来たから受け入れる」側と「出て行かれるという事実を受け止める」側では気持ちの持ち方は必然的に異なるでしょうから(卑怯だとは思いますが)、ノーコメントとしておきましょう。
> #・・・ぶっちゃけあり得ない?話ですが、できうればトレードということもできたのかもと思います。たとえば、今年一回だけ甲子園で打席に立った某主力選手と、とか・・・
ちょうどその当時、旧ニフティのベースボールフォーラムのジャイアンツの掲示板でその主力選手のトレード案を唱えたら袋だたきにあったのを思い出しました<苦笑>。
あり得ない話だと罵倒されました。
交換相手にゴールデンイーグルスの岩隈投手の名前を出したら、ゴールデンイーグルスのファンから断られました。
あの当時からウルフは故障続きで二年連続で年間の規定打席に達していなかったりしたのですがジャイアンツファンの中にはそうした事実には目もくれず、生え抜きの看板選手の放出なんてあり得ないという考えの持ち主が少なくないことに気付きました。
今さら出しておけば良かったなどと言うつもりは毛頭ありませんが、今季、その一回だけの打席に立つ頃、「今さら要らない」とか「好調のチームに水をさすな」などという輩には同調しかねますね。
きっと小笠原でさえも、不調が続くようになれば「振り回してばかりいるな!」とか罵られるのでしょうね。もっともそれも覚悟の内でジャイアンツという球団を選んだのでしょうが…。
すみません、話が脱線しました。
同じく第三戦を生観戦した知人の話によると、札幌ドームのジャイアンツファンよりも東京ドームのファイターズファンの方が人数は確実に多いと言っていました。第一戦も観たそうなので的を射ている可能性は高いのですが、「東京」という土地柄を考えると、「札幌」や「福岡」のように一色にはなかなか染まらないでしょうね。
投稿: 敗戦処理。 | 2009年11月 5日 (木) 01時39分
観戦してきましたが、高橋の打席でバントを決められると、Gファンとしては嫌なムードになったと思います。
山口の調子がもうひとつなので一気にひっくり返そうという梨田監督の思惑だったと推測しますが。
ファイターズファンの非難を覚悟の上で思いますが、小笠原については、家族のこともあり関東に戻りたいという気持ちがあってのFA移籍だったという話をスポーツ紙で見ましたが、そうだとすれば客観的にみてもそれほど非難されるべきではないのかなと思います。
#・・・ぶっちゃけあり得ない?話ですが、できうればトレードということもできたのかもと思います。たとえば、今年一回だけ甲子園で打席に立った某主力選手と、とか・・・
投稿: 長緯 | 2009年11月 4日 (水) 00時56分