すべてはここからはじまった。王貞治のふるさと墨田 名誉区民顕彰コーナー
JR総武線、総武線快速が並走する錦糸町駅の北口から約5分。錦糸公園の一角に今月1日にオープンしたばかりの墨田区総合体育館に王会長の常設展示コーナーがある。公園は第23回錦糸公園さくらまつりの真っ只中で(4月11日で終了)、まだ明るいうちから花見に盛り上がる輩が多く、仮にも仕事中なのでスーツ姿の敗戦処理。は明らかに浮いていた<苦笑>が、一目散に総合体育館に向かった。
いちいち総合とことわるのは墨田区体育館が同じ錦糸公園に従来からあるからで、詳しい事情は知らないがこのご時世、新たに巨大な体育館を建て、なおかつ無料で(納税者でなくても)郷土の英雄の軌跡を振り返ることが出来る展示をしているのだから太っ腹なことだ。残念ながら全館撮影禁止ということなのでblogで展示品の数々を紹介するために撮影することはままならなかった。興味のある方は現地を訪ねていただくしかないのだが、言葉で紹介していこう。
総合体育館だけに、スポーツ施設を利用するには事前の予約が必要だったり使用料の発生があるようだが、2階の受付のすぐ脇にある王会長のコーナーは無料で誰でも見物できる。
墨田区で生まれ育った王会長の幼少時のゆかりの品から、本所中学校時代に野球選手としての運命を決めた恩師・荒川博氏との出会い、そして早稲田実業に進んでの春の選抜高校野球での全国制覇や、ジャイアンツ入団、そして新しいところではWBCで監督を務めた時のユニフォーム、帽子、スパイクが展示されている。展示品のほとんどは王会長自身が所蔵しているものと、王会長の叔母にあたる、今も墨田区内に住んでいる女性からの寄贈品がほとんどだが、敗戦処理。が最も目を奪われたのが墨田区所蔵と書かれていた、王会長の生家、中華五十番で実際に使用されていたどんぶりだ。これだけでも携帯電話のデジカメに…などとよこしまな考えがちらついたが、そういう輩が多いのだろう。怖い顔をした警備員が巡回していたので自重した。
敗戦処理。の年代の野球好きなら王会長の実家がラーメン屋さんだったことは常識だが、そのどんぶりが健在なのが凄い。解説によると東京大空襲の際には地下に埋めてあったため難を逃れたという。十年前くらいにやはり墨田区で戦前の墨田区を再現する展示があり、その時にもこのどんぶりを観た記憶があるが、こういうものがきちんと保管されているということは何物にも代え難い。
王会長が中学二年の時、地元の高校生らに混ざって野球をしていた時に、近所に住んでいた荒川博氏が飼い犬と散歩をしていたら王会長が試合をしているグラウンドにたどりつき、そこで右打席から快打を連発した王少年に左打席での打撃を勧め、その後世界に名を響かせる左打者、王貞治が誕生したというエピソードも有名だが、そんな縁もあって同館のオープン・セレモニーには王会長とともに荒川博氏も出席したようだ。そんな王会長の三年間の思い出が詰まった本所中学の卒業アルバムや、三年間無欠席だった皆勤賞の賞状も展示されている。そして早稲田実業時代になると、制服、春の選抜で優勝した時の準決勝と決勝の新聞記事のスクラップも展示されている。
王会長は早実からジャイアンツに入団したが、入団契約を交わした時の家族と球団関係者とで撮影した記念写真、また王貞治後援会の会則などの資料もある。これらはさすがに時代を感じさせる。
ジャイアンツに入団してからのものだと、入団した当時のジャイアンツナインと寄せ書きしたサイン色紙がある。水原茂監督時代のもので広岡達朗、森昌彦、長嶋茂雄らのサインとともに寄せ書きされている。また王会長の現役引退とともに使用が禁止された、現役時代の圧縮バットや通算800号達成試合のチケットも目を引く。これらの王グッズはほとんどが前出の叔母さんの寄贈となっている(会場では寄贈者の名前が書かれているが、一般の方だと思われるのでここでは名前は出さない)。
この方は叔母さんに当たるのだから親交が深いのは当然なのだろうが、王会長からの年賀状まで寄贈して展示している。さすがに王会長の住所のところは隠してあるが、その年ごとの抱負を印刷した年賀状に王会長が一言直筆で添えてあるのがほほえましい。例えば王会長と恭子夫人の間に長女が誕生して初めての正月を迎える昭和44年の年賀状にはそれまでの王夫婦の名前の横に生まれたばかりの長女の名前が印刷され、王会長直筆の文字で「家族が一人増えました。パパ同様こちらもヨロチク!」と添えられている。「ヨロシク」ではなく「ヨロチク」なのだ。現役時代の王選手は求道者のイメージが強かったが、この年賀状を見る限りどこにでもいる親バカな親父だ<笑>。そして現役を引退し、ジャイアンツで助監督を務めたり、球団創立五十周年の年に新監督に就任した年の文面を見ると、さすがに責任を全うしようとする決意をしたためた固い文面になるのがわかる。ホークスの監督になり、なかなか成績を残せなかった時期の年賀状などは責任感の強さを感じさせるものになっている。
近親者の協力があったとはいえ、よくぞこれだけのものを集めたと思う。
ちなみに同じフロアにある受付の近くには格闘家の吉田秀彦や「ぶらり途中下車の旅」のロケで訪れたらしいジャイアンツOBの宮本和知の色紙が飾ってある。テレビ情報誌によると同番組の4月10日放送分が「総武線」となっているのでもう地上波の日本テレビでは放送済みのようだが、この番組はBS日テレで毎週水曜日の午後10時から放送されており、だいたい地上波の一ヶ月遅れであるので来月あたりオンエアされるかもしれない。
ところで王会長のゆかりの品といえば、長く監督を務めたホークスの本拠地、福岡ヤフージャパンドーム内に「王貞治ベースボールミュージアム」が作られることが発表されている。またリニューアルされた甲子園球場にはタイガース球団や甲子園球場の歴史を振り返る「甲子園歴史館」が今年3月にオープンした。こうした歴史の積み重ねをファンが身近に感じることが出来る施設が出来ることは素晴らしいことだと思う。ただ、よくよく考えると王会長の古巣、ジャイアンツに独自の資料館がないことに気付いた。書物としては「読売巨人軍75年史」が刊行されたが、自称「球界の盟主」の老舗球団のジャイアンツに独自の歴史館、資料館があるという話を聞いたことがない。非常に残念なことだ。
もっとも、今から作ろうとしても「王貞治ベースボールミュージアム」にはジャイアンツ時代の記念品も飾られるというから、「世界の王」の記念グッズが乏しくなってしまう懸念もある。王選手とともに栄光のV9時代を牽引した長嶋茂雄終身名誉監督の記念グッズを展示しようにも、長男が売り飛ばしてしまったのでほとんど残っていない。
ジャイアンツファンはジャイアンツ栄光の歴史を振り返るには東京ドームの野球体育博物館に行くか、福井県福井市のスポーツ・ミュージアム山田コレクションまで行くしかないのかもしれない<苦笑>。
仕事の合間だっただけにどうしても駆け足での見物になってしまったが、入場無料であるし、常設とのことなのでいずれ休日にじっくり見物しようと思う。ジャイアンツファンもホークスファンも関係なく、多くの野球ファンが楽しいひとときを過ごせるスペースだと思うし、王会長と同世代の方(特に幼少期を東京で過ごされた方)にもぜひ訪ねて欲しい場所である。
◆墨田区総合体育館
東京都墨田区錦糸4-15-1 錦糸公園内 03-3623-7273
開設時間: 午前10時~午後6時 見学料 無料
休館日:毎月第3月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始(12月30日~1月2日)
【4月28日追記】 デジタルTVガイド2010年6月号(東京ニュース通信社刊)によると、ぶらり途中下車の旅「総武線」がBS日テレでは5月12日の22:00~23:00と5月22日の12:00~13:00に放送される(5月12日は野球中継延長の場合最大で60分スタートが遅れる)。ただ出演者がパンツェッタ・ジローラモとなっていて宮本和知とは書かれていないので墨田区総合体育館が紹介されなかったらごめんなさい。
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