今秋、日米野球が復活する?
10日に行われる予定のプロ野球実行委員会で、今年の11月にMLB選抜を相手に日本代表強化試合を行う件が協議されるそうだ。実行委員会での協議を経て選手会の了承を得る段取りだという。先月15日のプロ野球国際関係委員会で五試合の日程などの計画書が出されたという。
NPB選抜とMLB選抜の日米野球は2006年秋に行われたのが最後で、それまではほぼ二年に一度の割合で開催されていた。
NPB選手会が「11月は真剣勝負の時期にしたい」との意向を示し、パ・リーグ東西対抗と、真剣勝負とは思えないマンネリ化の傾向にあった日米野球の開催が見送られたのだったが四年ぶりに再開されるのだろうか?
(写真:日米野球の最終戦終了後にグラウンドコートを交換し合う両選抜選手達。2004年11月撮影)
2004年の球界再編問題を経て、日本プロ野球のあり方が問われた中で日米野球もやり玉に挙がった。確かにかつては野球先進国のアメリカに日本のプロ野球界の精鋭達がどこまで通じるかという見所があったが、野茂英雄、佐々木主浩、イチロー、松井秀喜といった日本プロ野球界のスーパースターばかりでなく、そうでない選手までが海を渡る時代になり、ファンの幻想が変わってきた。また日本チームが攻撃時に、登板予定のない投手や控え選手を一、三塁のベースコーチに立たせるなど真剣勝負なのか顔見世興行なのか、眉をひそめざるを得ない部分があり、本当にファンが求めているイベントなのかという疑問も出てきた。
そんななか、2006年には日本シリーズ、日米野球、アジアシリーズという順番で日程が組まれ、真剣勝負と真剣勝負の間に親善試合が組まれるということになってしまい、NPB選手会がアジアシリーズ重視として日米野球の中止を申し入れ、妥協案として「アジアシリーズに出場する(可能性のある)チームの選手の日米野球出場免除」を願い出た。冒頭にも書いたように11月は真剣勝負の場にしたいという意思表示を明確にした。
日米野球は二年に一回行われ、読売新聞社と毎日新聞社が交互に主催していた。2006年は読売新聞社の主催で、次回2008年を中止にされてはたまらないと考えた毎日新聞社サイドの意向を汲んだのか、同社出身の当時の小池唯夫パ・リーグ会長が、日米野球開催年には必ず日程がバッティングしていたパ・リーグ東西対抗を中止して日米野球を存続させようとしたが同意は得られなかった。
2006年の日米野球はアジアシリーズ出場の可能性があったファイターズとドラゴンズ以外からも辞退する選手が続出し、NPB選抜の監督を務めた野村克也ゴールデンイーグルス監督は「二十人以上に断られた」と愚痴ったほどだった。
2006年は春に第一回のWBCが行われた年で、世界一を決める短期決戦の厳しさ、面白さに魅了されたプロ野球ファンを、その半年後に親善試合モード丸出しのマンネリ化した日米野球で魅了できるかという疑問もあったが、何よりも3月にピークを持ってくるという、今までにない調整方法を強いられたNPBの看板選手達の一部は11月まで戦い抜くスタミナが残っていなかったのも事実のようで、日米野球を辞退した選手達が必ずしも「シーズンが終わったのに野村監督にぼやかれながら野球をするのがイヤ」だとして断った訳ではないとは思われていたが<苦笑>。
そして二年後の2008年。日米野球は開催されなかった。
2008年は北京五輪の年。星野仙一監督率いる日本代表チームはメダル獲得ならず。真剣勝負のアジアシリーズはスポンサーなしの強行開催となり、以後開催されていない。昨年は代替えとして日本シリーズ優勝チームと韓国シリーズ優勝チームの一試合マッチが組まれたが初めから興収が不安だったのか地方開催。今年は元々アマチュアの大会であるアジア大会に各国がプロを送り込むことになり、アジアシリーズ再開は見送られた。
日本代表チームは2009年の第二回WBCに連覇し、サッカー界のように日本代表チームを常設化する案も出されたが具体的には進展していないようだ。五輪での野球開催が2016年以降も再開されない現状、真剣勝負の国際試合で確定されているのがWBCだけという状況では現実味が乏しいからであろう。WBCにしろ、以前の五輪野球にしろ、野球王国のアメリカ合衆国が本腰を入れて取り組んでいるように思えないという実情もある。NPB側が今秋の大会を「日本代表強化試合」と位置づけようにも、日本代表チームの定義も今現在明確ではない。昨年の世界一になったWBC日本代表が母体なのか?それなら今現在も日本代表監督はジャイアンツの原辰徳監督なのか?強化試合にイチローや松坂大輔、岩村明憲、福留孝介は日本代表として出場するのか?
ファンは本当に日米野球の開催を望んでいるのか?
近年の日米野球には勝利数の多いチームに高額の賞金を出すようにしたりして真剣勝負化を目指した。公式戦より高い入場料設定で開催しても赤字になっていないというから日米野球の意義云々として再開が検討されるというより興行としてオイシイから再開しようとしているのかもしれない。ファンは真剣勝負の国際試合なら喜んで観るだろうが、顔見世興行に今までのように食いついてくるのだろうか。特に今季、MLBからの出戻り日本人メジャーリーガーが大量発生している。城島健司、田口壮のようなわずかの例外を除けば、アメリカで活躍できずに跳ね返されて日本に帰ってきた感じの選手がほとんどだ。出戻りを受け入れる球団側は彼らの経験を現役選手としてだけでなく将来の指導者としての還元も目論んでいるのだろうが、ファンの「日米野球」への憧れモードは下がっているかもしれないと敗戦処理。は推測するが…。
加えて、どこまで本気か、それとも冗談なのかはかりかねるが、MLBサイドから将来的に日本シリーズ優勝チームとワールドシリーズ優勝チームの対戦の構想が練られているという。サッカーのトヨタカップのようなクラブチーム世界一を決める大会を考えているようだ。野球のWBCがサッカーのワールドカップのように国別世界一決定戦として機能し、それとは別にクラブチーム世界一決定戦が併存すれば野球の国際化としてはこの上ない形だ。ただ、その場合、アジアシリーズを再開させてアジアのナンバーワンチーム対ワールドシリーズ優勝チームという図式にするべきだとの議論が起きるだろう。また、現状のクライマックスシリーズの見直し論が再燃するであろう。
このような流れをすべて踏まえた上で「より真剣勝負でファンが望むエンターテインメントに」(先月15日のプロ野球国際関係委員会でまとめられた、今秋の日米野球に関する要望)というコンセプトでのNPB選抜対MLB選抜という大会が成り立つのだろうか。実行委員会は選手会の了承を得ようとするだろうが、MLB側を真剣にさせるための策はあるのだろうか?高額の賞金だけでは親善試合モードを一掃できないのは過去の大会が証明済みである。
ましてや日本選抜が親善試合モードで「どこに、世界一がある?」などと嗤われるような国際試合はもう出来ない。ことはそんなに簡単な問題ではないように思える。とりあえず10日の実行委員会の動向に注目したい。
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