ライオンズ大久保博元コーチの不適切な行為とスポーツ指導における愛のムチこと体罰
最初に断っておくが大久保博元コーチとは、大久保博元という名前のコーチのことであって、今回の件で解職された大久保博、元コーチという意味ではない。紛らわしいので以後、前コーチと記述する。 プロ野球選手300人に聞いた「体罰をどう考えるか?」 必要である 13% 時には必要である 70% できればなくすべきである 12% 絶対なくすべきである 4% わからない 1% 桑田真澄の論文より 野球を学問する桑田は日本の野球界における体罰の歴史を調べるなど、この問題を熱心に 考えているようだが、現役を引退して数年の元野球選手が研究したという点で意義深いものではあるが、野球の歴史を考えるジャーナリストらによって既に語られている点ばかりでさほど目新しいものではない。もちろんテレビ番組のコーナーの時間内にまとめるため、端折って書いている点はあるのだろうが。 それはともかく、上記のアンケート結果だけでなく、スタジオに同席した指導者経験のある元アスリート達、宇都木妙子、中田久美といった面々も(条件付きながら)体罰を肯定していた。 もちろん彼らの言う体罰とは感情的な暴力ではなく、よく言われる「愛のムチ」の範疇なのだが。桑田真澄と彼らで体罰の定義が異なるのも興味深かった。もちろん桑田は体罰を基本的に全否定している。 「現役プロ野球選手のアンケートでもわかったようにですね、80%以上が体罰を容認しているのですよね。その理不尽な暴力がですね、精神、心を鍛えると思い込んでいるからですね。でもそれはですね、本当はそういうことが精神や心を鍛えるとは僕は思っていないのですよね」 この番組では桑田による体罰を全否定し、精神の鍛錬とは心の調和であるとする考えと、宇都木、中田の「時には必要」と考える意見は平行線のままで終わってしまう。唯一、体罰経験がないという魔裟斗の考えも桑田とは一致しない。 大久保前コーチの行為の実際の実態が報道でもまだ明らかになっていないので何とも言えないが、上記のアンケート結果やスタジオでのやりとりから想像するに日本のプロスポーツやトップアマの世界で体罰を伴う指導というものは現存するのだろう。大久保前コーチの件は度を越えていたと言う点で具体的に問題になったとも推測できる。 ただライオンズという球団がかつてのスカウト陣らによる栄養費問題を機にコンプライアンス活動に目覚め、また当blog5月7日付 プロ野球選手である前に、一社会人であることを自覚すること で取り上げた様に「クレド」を導入したということであれば、たとえそれが球団内や、球界として違和感のない行為だったとしても社会通念と言う観点で許されざるものと断じられれば、今回のような処分に至るのは当然かもしれない。 野球界の慣習と社会通念の間に乖離があるとすると、他にも「今までは当たり前のように行われていた」ことであろうと、これからは認められない行為というのはいろいろとあるだろう。変な話だが今世間を騒がせている角界の件についても、暴力団が介在する野球賭博は論外にしても、勝負勘を養うとかの理由で空き時間に花札などを(金銭を賭けて)行うことが角界全体的に励行されていたということが明らかになり問題視されているのと同じだ。一般的な感覚ではにわかには信じがたいが、角界では常識なのだという。野球界における体罰も、ひょっとしたら同じようなものなのかもしれない。たまたまライオンズという球団がコンプライアンスなどというものに真摯に取り組んでしまったばかりに大久保前コーチの行為が露呈してしまっただけなのかもしれない。かつてのスカウトの栄養費問題にしても、程度の差はあれ、それこそ野球界の慣習であったのだろう。それと同様だ。 報道の中では打撃コーチである大久保前コーチが投手である雄星に手を出したのが越権行為である点も問題視されているようだが、球団にもよるが二軍のコーチ陣の権限の範囲というのはそれこそ千差万別であるという。 イースタン・リーグは昨年からセの球団の主催試合でもDH制が採用されているとはいえ投手に打撃練習をさせる必要性はあるだろうし、投手の打撃練習で特に重要と思われるバントの練習などは球団によってどの肩書きのコーチが担当するかは異なるようだ。例えば投手コーチの中に現役時代にバントも上手かった人がいればその人が担当するし、打撃コーチが指導する球団もあるし、守備や走塁の担当コーチが指導する球団もある。打撃コーチが投手である雄星に手を出したことが越権行為に当たるというのは暴力行為の有無、是非が問われるのとは別の問題であると思う。 蛇足だが堀内恒夫前ジャイアンツ監督がジャイアンツで投手コーチを務めていた時に、いつもなら投手陣のバント練習を指導する土井正三コーチがたまたま不在で代わりに指導した際、バスターの手本を堀内コーチが示したら、あまりに上手すぎて現役の投手が誰もその通りには出来ず、ことごとく堀内コーチに駄目出しを食らったということがあったそうだ。この件を取材したライターはその時点で堀内コーチのコーチや、ましてや監督としての適性がないと書いていた。見事な慧眼だ。 もう一つ蛇足ついでにいえば、角界の賭博問題では謹慎処分などに相当したのは暴力団の関与が考えられる野球賭博に携わった者に限られたが、前述したような、金銭の賭を伴う花札などが常態化しているならば、刑法で定める常習賭博に相当するのではと個人的には疑問視しているのだが…。暴力団の撲滅も重要だが刑法に抵触している可能性のある行為に(調査委はともかく)警察関係は動かないのだろうか…? 今回のライオンズの件は角界の一連の出来事のように週刊誌などメディアの告発で発覚したものでなく、いきなり球団からの処分の発表という点で今ひとつ現時点でも実態がわかりにくい。週があければ週刊誌などがいろいろと書くであろうが、いっそのことライオンズの実態だけでなく、他球団やもっと言えばアマチュア野球界の実態にも言及し、野球の指導における体罰の実態と、必要性について本格的な議論がなされるくらいになって欲しいものだ。そんな大袈裟なと思うかもしれないが、少なくとも「臭いものにはフタ」で終わるのだけは勘弁して欲しいが…。 しかし同番組のこの企画、桑田はいつ「野球賭博と反社会勢力との交際」について語ってくれるのだろうか?
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