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2010年10月31日 (日)

斎藤佑樹への過大な期待。

Dsc_0004 まだ厳密に言えばファイターズ球団が早稲田大学の斎藤佑樹選手の交渉権を獲得したというだけに過ぎないのだが…

(写真:ドラフト会議の抽選箱。昨年のしか画像がなかった<苦笑>。)

1028日に行われた新人選択会議でファイターズが「ハンカチ王子」こと早稲田大学の斎藤佑樹の交渉権を獲得した。ファイターズファンとして嬉しい限りだ。

で、ファイターズに入団してくれるという前提で個人的な斎藤への期待を書いてみたい。

斎藤佑樹というと真っ先に思い浮かぶのは四年前の早稲田実業時代の夏の甲子園大会。現ゴールデンイーグルスの駒大苫小牧・田中将大との投げ合いだ。これで斎藤は一躍全国区のアイドルとなった。当然、その年のドラフトの超目玉になるはずだったが、系列の早稲田大学への進学を早々と表明。プロ入りは先送りとなった。そしてあれから四年。今度こそドラフトの超目玉となった斎藤には四球団がドラフト1位で入札。六大学野球に関心を持つファン以外の目にはあまり触れなかったこの四年間、それこそダルビッシュ有のポスティング移籍報道のように時折思い出したように近況がメディアに面白おかしく報じられたりした。やれ早実時代がピークだっただの、大学に入ってから変な人付き合いが始まっただのとやかく言う向きもあるが、これらがいわゆる有名税の類で、四球団が一位指名という評価の高さが本当の実力を現していると、現時点では信用したい。

個人的には斎藤の最大の魅力は知名度の高さだと思っている。

何年かおきに、「超高校級」との肩書きで形容される選手は出てくるが「超・野球ファン」即ち野球ファンを超えた知名度を持つスター選手はそれより低い頻度でしか登場しない。菊池雄星、ダルビッシュ有、中田翔…、野球ファン以外はほとんど知らないだろう。

* ダルビッシュの場合は別の次元で名を馳せたが、実名が明かされなかったので野球ファン以外にはあまり浸透しなかったと思われる。

日本の野球界とファンを取り巻く環境を見てみると、アマチュア球界でメジャーと言えるのは極論すれば高校野球だけである。五輪の野球日本代表をプロ選手が占めるようになり、ますますその傾向に拍車がかかっている。斎藤佑樹はその高校野球で名を馳せ、投手としての実力だけでなくそのルックスと、ハンカチに手をやるしぐさで人気を集め、なおかつ負けたら終わりのトーナメント大会で延長戦を必死で投げ抜くという判官びいきが加わり、普段野球にあまり関心を持たない層をも引きつけた。これが重要なのである。

余談だがかつてジャイアンツのエースだった上原浩治は自ら「雑草魂」という造語を創って座右の銘とし、ルーキーイヤーに二十勝を挙げる活躍をすると流行語大賞にも選ばれた。しかし上原浩治を Wikipediaで検索していただければ一目瞭然だが上原の大阪体育大学時代の実績はとても雑草と形容されるようなレベルではない華々しいものであった。にもかかわらず「雑草魂」というフレーズにファンが違和感なく浸透したのは上原が大学に入るのに一年間遠回りしたという事実もあるが、高校時代に甲子園に出ていないためにファンにとってメジャーな存在でなかったということがあろう。大学野球でずば抜けた素質の片鱗をいくら示しても、広く厚く野球ファン全般に注目を浴びるのはドラフトが間近になってからであり、上原の場合は大リーグと日本のジャイアンツを秤にかけたからで、「松坂大輔ばかり注目していたが、そんな凄い奴がいるのか」という感じでクローズアップされたのが当時の実態だった。そういう意味で考えると、斎藤佑樹というのは現時点でも申し分ないスター選手なのである。

加えて斎藤が「ハンカチ王子」ともてはやされる以前、プロスポーツ界でそのスポーツのファンの枠を超えて世間一般に注目を浴びていたのはプロボクシングの亀田興毅、亀田大毅の「亀田兄弟」だった。その実力は誰もが認めるところだったが、その過激すぎる言動などで常に賛否両論な存在だった。亀田兄弟の言動や存在そのものを煙たがるような層にとって、絵に描いたような存在の斎藤佑樹の登場は渡りに舟だったはずだ。そしてそんなキャラクターが日本のスポーツ界の中心に君臨している(辛うじて過去形にはしない。)野球界から、それも「清く正しい高校野球のヒーロー」として登場したのは野球界にとっては千載一遇の救世主なのである。

そんなヒーローが日本の首都・東京にある野球の名門校にして、王貞治、荒木大輔、テリー伊藤、小室哲哉らを輩出した早稲田実業から甲子園に出場し、日本の硬式野球で唯一天皇賜杯が贈られる東京六大学野球の雄である早稲田大学に進学して着実に成長し、ドラフト会議でくじ運が避ければ交渉権を得られるチャンスがあるのだから、個人的にはもっと多くの球団が1位指名して欲しかったくらいだ。

もちろん、斎藤より多い六球団が1位指名した同じ早大の大石達也や、一部にはジャイアンツが完璧な囲い込みを行ったと取り沙汰される中央大学の沢村択一の方が伸びしろがある素材なのかもしれない。しかし斎藤にはこれまで書いてきたような素養があるのだ。あとは球団が指導、育成を間違えなければいいのだ(もちろん、これが一番重要でなおかつ難しいのだが…)。

日本シリーズですら、地上波で全国中継されない時代だ。プロ野球ファンがいくら盛り上がるイベントであっても、放映権料と見込める視聴率とスポンサー料などを秤にかけて割に合わないと思えば、テレビ局は無理して手を挙げない時代になったと言うことだ。それは少なくともテレビ業界的なマーケティングリサーチの限りにおいてはプロ野球が国民的娯楽でなくなったことを意味するに他ならない。だからこそ、野球界を超えた知名度というのは重要なのである。テレビ局期待の新番組の人気キャストに始球式をやらせたり、野球中継のゲストに呼んで視聴率を取り込むのとは次元が違う。国民的なヒーローが実際にグラウンドの主役となるのである。太田幸司荒木大輔を超える存在感や実績をプロで発揮して欲しいのである。

斎藤に過大な期待を寄せるのは禁物だと言うことは百も承知の上で、敢えて斎藤佑樹への期待を書き綴った。もちろん斎藤に国民的な野球人気復興の切り札的存在を託すのではなく、そのための貴重なワン・オブ・ゼムの存在として期待するのである。入団してくれたらファイターズにも斎藤を育てる義務が生じるのだ。ハンカチ人気で一儲けとそろばん勘定しているだけではダメなのだ。

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コメント

さるさる日記ボトムラインから様、初めまして。コメントをありがとうございました。

私は斎藤斎藤と言う割には早実、早大時代の斎藤の試合を直接観ていません。こういう話を読むと、ワクワクしてきますね。

日本のアマチュア野球でメジャーと言えるのは何だかんだいっても「甲子園」。これはコアな野球ファン以外、極端に言えばこの時だけしか「野球」を見ない人もいるわけで、今より日本のプロ野球がファンを開拓するには斎藤にそういう人達を連れてきて欲しいのですよ。

プロに入ってからも、勝つにせよ、負けるにせよ、どんどん物語性を発揮して欲しいです。

これからも当blogに遊びにいらして下さい。

投稿: 敗戦処理。 | 2010年12月15日 (水) 23時04分

途中で途切れましたので
続けます。
二回戦は早実対優勝候補関西高校でした。
壮絶な戦いでした。引き分け再試合の末に4-3で早実の勝利でした。
この試合、本当に凄まじく、最後は一点差で九回裏ツ-アウト満塁で相手打者は四番安井君でした。斎藤君はこの場面でもストレトでキャッチャ-フライにしとめています。
ゲーム整列後、両校の健闘を讃えるようになんと甲子園に雪が舞ったのでした。斎藤君は空を見上げ、じっと雪が舞うのを眺めていました。後、早実メンバたちがこの雪が一番印象深い出来事だったと語っています。いよいよ2006夏です。西東京決勝戦。相手は代表三連覇中の地区史上最強チ-ムといわれた日大三高です。壮絶な試合でした。
10回表斎藤君の悪送球でリードを許しますが、早実打線は粘りに粘り、ついに同点とし、11回にサヨナラ勝ちしています。
もうマンガの世界のような試合ばかりでしたね。

投稿: さるさる日記ボトムラインから | 2010年12月14日 (火) 18時35分

はじめまして
物語性という言葉に、反応してしまいました。
書こうか書かないでおこうか迷いましたが…
書き込みさせていただきます。
斎藤君は兎に角すごい。
早実高二の時、夏の都予選準決勝で日大三高にめったうちにあいコールド負けをしてます。で、この年の秋、都大会準決勝では再び日大三高と対戦し今度は2-0のリベンジ完封勝ちです。決勝戦では東海大菅生高と対戦し4-3の逆転勝ちでした。選抜切符を手にしています。この時の東海大菅生の監督さんが、現在の東海大の横井監督さんです。今秋、アマチュア最後の神宮大会決勝戦、相手は東海大でした。因縁を感じます。最後の挨拶で世界大学野球でもお世話になった横井さんのところまで挨拶にいっていました。
その2005年の明治神宮大会では、駒苫と準決勝で対戦しています。エ-ス田中君が登板すると、早実打線は全く打てませんでした。この時が高校時代の田中君のベスト投球と言われています。この試合、早実の逆転負けでした。
田中君は関西高校との決勝戦も勝ち、優勝を果たします。翌年の選抜甲子園、駒苫は不祥事発覚で出場辞退、代わって出場した北海道栄の対戦相手は、、早実でした。早実が勝利。
2回戦は早実対関西高校。壮絶な戦いでした。引き

投稿: さるさる日記ボトムラインから | 2010年12月14日 (火) 18時12分

mimi様、初めまして。コメントをありがとうございました。

> 斎藤選手のことを
>大学時代に限れば、キャッチャーをリードするより、キャッチャーにリードされる方が性に合っていたように見えます

> と評している方がいますが、私はそうは思いません。
細山田から代わった杉山は、リード以前にチャッチングがダメだったということ。
そのことが低めの変化球で勝負する斎藤の投球に、大きく影響していたような気がします。

なるほど、そういう見方もあるのですね。

ありがとうございます。勉強になります。

別エントリー「ハンカチ・ハニカミ・こども店長」でも触れましたように実際に斎藤佑樹が投げる試合を生で観たのは神宮大会の一度だけですのでいろいろと斎藤情報を知りたいです。

そうだとすると、この金の卵の今後はますますファイターズ次第ということになりますね。

気が早いかもしれませんが、早く春季キャンプ、オープン戦の時期になって欲しいですね。

今後とも当blogをよろしくお願いします。

投稿: 敗戦処理。 | 2010年11月21日 (日) 21時00分

敗戦処理さま、はじめまして。
斎藤選手のことを
>大学時代に限れば、キャッチャーをリードするより、キャッチャーにリードされる方が性に合っていたように見えます

と評している方がいますが、私はそうは思いません。
細山田から代わった杉山は、リード以前にチャッチングがダメだったということ。
そのことが低めの変化球で勝負する斎藤の投球に、大きく影響していたような気がします。

投稿: mimi | 2010年11月21日 (日) 17時40分

Eagles fly free様、コメントをありがとうございました。

> 入団すると思いますよ。
周囲にどう思われるか全く考慮せずに無理を押し通した沢村などと違い、斎藤佑樹投手は高校時代から周囲から自分がどう思われているか、どう見られているかを意識した立ち振る舞いが出来る選手ですから。

そうですか。ぜひ入って欲しいものです。

> 確かに「択一」の方が囲い込み/逆指名にお似合いの名前ですが、実際は「拓一」です(苦笑)。

うわっ、やっちゃいました。

つい本音が誤字に<苦笑>。

最近誤字が多いので気をつけます。

> 「二年まで受けてもらっていた細山田捕手が卒業し、三年からは下級生キャッチャーと組むことになったから」
この点が挙げられると考えています(大学時代に限れば、キャッチャーをリードするより、キャッチャーにリードされる方が性に合っていたように見えます)。

なるほどそういうことですか。

> そこでポイントとなって来るのが、ファイターズの大野奨太捕手。
彼は同学年の細山田捕手と共に大学全日本の常連捕手で、斎藤佑投手とも一緒に世界大会を戦った仲ですから、いい時の斎藤佑投手を知っています。

大野はまだ現状は甘さを感じますが、成長に時間がかかると言われるポジションで二年と考えれば及第点を付けられると思います。

専ら鶴岡を指名していた大エースに今季は強制的に大野と組ませていたようですが、ダル・鶴岡コンビに相当するくらいに、祐・大野コンビが定着するといいですね。

本当に楽しみな選手ですね。

投稿: 敗戦処理。 | 2010年11月 3日 (水) 22時30分

敗戦処理。さん、おはようございます。

> まだ厳密に言えばファイターズ球団が早稲田大学の斎藤佑樹選手の交渉権を獲得したというだけに過ぎないのだが…
>
> で、ファイターズに入団してくれるという前提で個人的な斎藤への期待を書いてみたい。
---
入団すると思いますよ。
周囲にどう思われるか全く考慮せずに無理を押し通した沢村などと違い、斎藤佑樹投手は高校時代から周囲から自分がどう思われているか、どう見られているかを意識した立ち振る舞いが出来る選手ですから。

なお。
> 一部にはジャイアンツが完璧な囲い込みを行ったと取り沙汰される中央大学の沢村択一
---
確かに「択一」の方が囲い込み/逆指名にお似合いの名前ですが、実際は「拓一」です(苦笑)。


それはさておき。
個人的に大学時代の斎藤佑投手の一番良かった時期は二年生の時だった(三年からはやや停滞気味=とはいえ、既に現時点で技術的にはかなり高いものを持っています)とみているのですが、伸び悩んだ原因と思われる要素の一つに、
「二年まで受けてもらっていた細山田捕手が卒業し、三年からは下級生キャッチャーと組むことになったから」
この点が挙げられると考えています(大学時代に限れば、キャッチャーをリードするより、キャッチャーにリードされる方が性に合っていたように見えます)。

そこでポイントとなって来るのが、ファイターズの大野奨太捕手。
彼は同学年の細山田捕手と共に大学全日本の常連捕手で、斎藤佑投手とも一緒に世界大会を戦った仲*1ですから、いい時の斎藤佑投手を知っています。
個人的に大野捕手の能力を高く評価していることもあり、彼ならば斎藤佑投手のいいところを引き出す(多彩な変化球を駆使して打者の打ち気をそらす)リードをしてくれるのではないかと期待していますし、皆さんが指摘されているように、高校時代死闘を演じたイーグルスの田中将大投手と同一リーグに所属するファイターズに指名された斎藤佑投手が今後プロ野球という舞台でどのような物語を紡ぎだしていくのか、一野球ファンとして非常に楽しみです。

*1
但し、斎藤佑投手が先発する代表の試合では同じ早稲田大学でバッテリーを組んでいた細山田捕手がマスクを被っていました。

投稿: Eagles fly free | 2010年11月 3日 (水) 07時55分

えふひとすじ様、コメントをありがとうございました。

> それどころか、ハンカチそのものでも、もうけようとしているらしいですよ、とほほ。


いや、グッズで一儲け作戦まで否定するつもりはないですよ。球団の貴重な収入源ですから。

単にグッズで稼がせてくれる逸材などと考えないで欲しいということです。

そういう次元の選手ではない、と信じて期待したいです。

投稿: 敗戦処理。 | 2010年10月31日 (日) 23時59分

こんばんは。
>ハンカチ人気で一儲けとそろばん勘定しているだけではダメなのだ。

それどころか、ハンカチそのものでも、もうけようとしているらしいですよ、とほほ。

投稿: えふひとすじ | 2010年10月31日 (日) 23時25分

台風一過様、初めまして。コメントをありがとうございました。

> 斎藤選手は”物語性”を有していますよね。

そう、まさにそれです。

私が斎藤に抱いていることを一言で言い表してくれました!

投稿: 敗戦処理。 | 2010年10月31日 (日) 22時02分

斎藤選手は”物語性”を有していますよね。

こればかりは作ることができない。

投稿: 台風一過 | 2010年10月31日 (日) 21時27分

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