今季中継ぎフル回転の久保裕也が来季は先発に回る?
ジャイアンツの宮崎キャンプの様子を報じる日刊スポーツにその記事はあった。 ■今季、中継ぎでフル回転した巨人久保裕也投手(30)が、先発に再転向する可能性が浮上した。宮崎秋季キャンプ最終クール初日を迎えた16日、来季の起用法について、原辰徳監督(52)は「(先発、中継ぎも)両方できる強みがある。可能性としてはどっちもあるでしょう」と明言した。外国人補強など戦力が整ってからの決定になるが、再転向となれば、コマ不足に悩んだ先発陣の一角を担うことが期待される。 (日刊スポーツ:11月17日付) それにしても奇妙だ。今季、リーグ四連覇こそ逃したものの久保が先発投手の後を受けて踏ん張り、越智大祐や山口につないだり、時には抑えのマーク・クルーンに直接つなぐ役割を果たしたお陰でAクラスに踏みとどまったと言っても過言では無かろう。もちろん久保に限らず越智、山口さらに言えば失敗が目立ったとはいえ25セーブのクルーンの誰か一人でも欠けていたか、より調子が悪かったらBクラスに落ちていただろう。その牽引車の久保を配置転換とは…? 投手陣の配置転換と言えば、昨年のこの時期に決断した山口鉄也の先発転向を思い出す。 2008年には67試合に登板して11勝2敗2S、34HP、2009年には73試合に登板して9勝1敗4S、44HPの山口は試合終盤に欠かせない存在であるのは誰の目にも明らかだったが、原辰徳監督は敢えて山口を先発に回した。その真意は3月14日深夜に放送されたテレビ朝日系列の「Get Sports」での原監督の発言によると山口が「先発で15勝から20勝が出来る素材」であると同時に二年間の金属疲労を考えてのことだという。 それまで原監督に対し、ややもすると選手を将棋の駒というか、消耗品のように考えているのではないかと勘ぐっていた敗戦処理。はこの放送を観て目から鱗だった。その時点では前年にファームで抑えを務め、シーズン終盤には一軍に上がり日本シリーズにも登板した金刃憲人を山口の後任に据えようと目論んでいたようだが、選手寿命を考えての配置転換とは素晴らしいと思った。一年良くても選手が潰れては意味がない。原監督の五連覇構想は本気だと唸ったものだった。 実際は山口は先発転向の調整に手こずり、開幕ローテーションが一巡した後に一軍に上がり、二度の先発登板をした後に元のセットアッパーに戻った。その頃守護神クルーンが故障し、金刃も今一つとあって背に腹は変えられなくなったようだ。 さすがに原監督も自ら先発転向を言い渡した手前、セットアッパーへの再転換に際しては投手コーチではなく自ら山口と面談して告げたという。そしてそのまま山口は慣れた舞台で活躍した。山口には本当に頭が下がるが、これで良かったのかと言う疑問は残る。山口は二度目の先発では勝利投手になったから先発投手失格だった訳ではない。選手寿命云々を論じるなら今季も酷使だったことに変わりはない。クルーンに代わる抑え投手を新外国人獲得で賄おうとしているようだが、外国人選手の場合は来てみないとわからないという不安要素はあるが山口に再び先発転向話があっても不思議ではない状況だった。 ところが、山口ではなく久保だった。 久保は2003年に入団してからある年は抑え、ある年は先発といろいろと期待される舞台が異なっていたが、年間を通して活躍したのは今季と、現ファイターズの林昌範とともに試合終盤を任された2005年(64試合7勝4敗7S、リーグ最多の24HP)と翌2006年(59試合5勝6敗0S、23HP)くらいで先発投手としては際だった結果を残していない。昨年の山口のように、先発投手としては未知の素材に可能性を期待するというのは理解出来るが、過去にも先発にチャレンジして成功していない久保に先発転向を示唆するとは戦力ダウンのリスクを承知の上で本当に選手寿命を考えているのだろうか。 既に先発投手として失敗している久保に先発転向案を出す時点で戦力ダウンより選手寿命への配慮を優先していると考えられなくもない。だとしたら、「常勝を宿命づけられている」というジャイアンツの監督としては画期的な判断基準といえるのではないか。説明の必要はないだろうが、仮に久保が先発投手として成功したにせよ、久保がリリーフにいないという事態が発生するのである。今季の久保の代役など簡単には見つかるまい。そういう存在がいたら久保が79試合も登板しないで済んでいる。 他に考えられることはとにかく今秋の宮崎キャンプに関する報道で目立った、幅を拡げるという発想。他に秋季宮崎キャンプでのジャイアンツの話題と言えば、野間口貴彦のサイドスロー転向、亀井義行の三塁コンバート、寺内崇幸の捕手兼業案。 何年経っても一本立ちしない野間口のフォーム改造は今のままではダメという危機感からの一大決意なのだろうが、他は…。実際に練習を観ていないで言うのもナンだが、亀井と寺内は腑に落ちない。 亀井の三塁コンバートは、主砲小笠原道大を一塁に固定する構想があり、空いた三塁に亀井を持ってくるという算段のようだが、亀井を試合に出すのなら高い守備力を持つ外野で起用して欲しい。今春のキャンプの時期のフジテレビ系「すぽると」の企画で現役選手100人に聞いたアンケート「最も守備が上手い外野手」で亀井は3位に選ばれた(1位は糸井嘉男、2位は稲葉篤紀)。それほどの選手をわざわざ外野でなく三塁に回すのが理解出来ない。 レフトにアレックス・ラミレスがいて、センターに松本哲也がいるから亀井が外野で出るにしてもポジションが一つしかない。長野久義、今季復調の兆しを見せた矢野謙次、生え抜きの幹部候補生、高橋由伸もいる。選手の有効活用という点では内野の空いたポジションに回すというのも理解出来る。実際今季の開幕は高橋由伸が一塁に回っていた。しかし腰に不安のある高橋由に前後左右に広く動き回ることを求められる外野守備より一塁に回すというのは理解出来る。小笠原を三塁に回すのであれば。 ただ、外野守備の名手を三塁に回す今回の発想は守備の穴を増やす不安を同時に併せ持っているのである。まだ長野に内野を挑戦させた方が理に適っているように思える。 寺内の捕手兼業案も然り。 来季はフロントに回る伊原春樹前ヘッドコーチによると「第三の捕手兼業」とのことだが、緊急事態の捕手となると、昨年9月の故・木村拓也さんの緊急マスクが思い出す。今季も元捕手の小田嶋正邦が昔取った杵柄で一軍で二試合マスクをかぶった。しかし、捕手の経験があって他のポジションに移っている選手に緊急避難的に捕手を頼むのならわかるが、捕手経験のない選手にいざというときの保険のために捕手の練習をさせるのは根本的に発想が異なり、効果も疑わしいと思う。 本人も現役続行に意欲的だった木村拓也さんを球団の総意という形で現役引退、コーチ就任という方向にし、寺内ばかりか脇谷亮太、古城茂幸ら既存の選手に中井大介、円谷英俊らを競わせるのかと思いきやエドガー・ゴンザレスという外国人助っ人を当てはめた。しかしこれが打撃はともかく二塁守備が並み以下。脇谷の台頭で何とか形は整ったが、木村拓也さんが現役を続行していたらレギュラーポジションを取り続けていたのではというレベルだった。何せ4月の急逝を受けて、木村さんに気を遣ったのか一軍内野守備走塁コーチ不在のままシーズンを終えたのだ。 そんななか、強いて言えばまともな守備力を持つ寺内の存在は貴重なはずなのに、捕手を兼業させるという。こちらも理解しかねる。 ジャイアンツはこのオフ、バファローズから戦力外通告を受けた土井健大を育成選手契約で獲得し、現在、支配下、育成を加えた捕手の人数は10人もいる。この中から三人を一軍に入れておけばいい訳で、何故内野の寺内にまで捕手の練習をさせなければならないのか? それに言葉尻をあげつらうのではないが「第三の捕手兼業」というフレーズ自体に異議ありだ。一軍に捕手を常時三人入れている球団の方が多いのではないか。ジャイアンツの場合、時に阿部慎之助と鶴岡一成の二人体制になることがあるが、何故28人の一軍枠の中に捕手を二人しか登録出来ないかも考えるべきだろう。第三の捕手の人材難というより、他のポジションを優先させた挙げ句捕手を二人しか一軍登録させられないのだろう。編成のバランスに問題ありきという点にもメスを入れるべきだ。 要は寺内に捕手の練習をさせることが、来るか来ないかわからないがチームの一大事を救うことになるかもしれず、そういうことが可能という理由で寺内に一軍枠が付与されるメリットがあるかもしれないが、寺内という一選手の将来を考えたら捕手の練習に充てる時間を課題の打撃練習に充てるか、得意の守備をさらに鍛えるための時間に充てた方が少なくとも寺内のためにはなるだろう。チームに都合の良い選手を作ることがチームのためにはなるかもしれないが、本人のためになるとは限らないのだ。 セイバーメトリックスだか何だか知らないが、先発して6イニングを3失点以内に抑える投手が今のジャイアンツに必要なのではなく、リリーフ陣に毎度毎度負担をかけない、長いイニングを一人でまかなえる先発投手が今のジャイアンツには必要なのである。山口や久保にその素質があるのであれば、今から転向を指示し、今後の自主トレ、来春のキャンプ、オープン戦でその方向で鍛えてもらいたい。リリーフ陣から先発に人を回せば、どのみちリリーフ陣が一人抜けるのだから。 今季は開幕からフル回転した久保、山口、越智がシーズン終盤にはバテバテだった。 無理もない。チーム新記録の79試合に登板した久保だけではない。山口は先発2試合を含め、昨年更新したチーム新記録に再び並ぶ73試合登板。越智は59試合だがこの三年間で合計193試合に登板している。クライマックスシリーズではディッキー・ゴンザレス、セス・グライシンガー、藤井秀悟がリリーフで登板した。短期決戦ならではの総動員体制といえば聞こえがよいが、要は久保や越智が極限状態だったのであろう。 一将功成って万骨枯るでは意味がない。久保なり山口なりが先発に回ることで選手寿命を延ばすのか、あるいは今のポジションのままであっても、先発投手陣が彼らの負荷を軽くするという方法論もある。どちらにせよ、選手の犠牲の上に立っての栄光というのはできれば避けて欲しいものだ。原監督の構想が単に選手の幅を拡げるとか、使い勝手の良い選手を増やすという発想に基づいてでないことを祈る。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント