ホークスの査定
このオフのホークスの契約更改交渉が荒れている。事の発端は来オフから本格導入される新査定。よくいえば信賞必罰らしいが、その半面、野球協約の減額制限を超える大幅ダウン査定も出易いそうで、このオフはまだ並行稼働という感じで現状の査定による評価と並行して提示されるようだが、波紋を呼んでいる。エースの杉内俊哉などは10日の第一回交渉時にボイスレコーダーによる録音を始められ、キレたという。
これら一連の火付け役<!?>はかつて東京大学からオリオンズに入団して三年間プレーした小林至。現在はホークス球団の取締役。孫正義オーナー直々のスカウトでフロントの要職に就いている。
今日(25日)行われた、前回の交渉で激怒した杉内との二回目の交渉には笠井和彦オーナー代行も同席した。
(写真:査定改革の元凶!?2006年から2012年までの七年契約を結んでいる主砲・松中信彦。 2010年8月撮影)
例えば、今季年俸3億円(=推定。以下同じ)の杉内の今季は27試合に登板して16勝7敗、防御率は3.55。一回目の交渉では3億5000万円を提示されたが保留した。一方今季2億1000万円の和田毅は26試合に登板して17勝8敗、防御率3.14。3億30000万円で来季の契約を結んだ。和田の17勝は金子千尋とともにパ・リーグ最多勝で、パ・リーグのMVPも獲得した。勝ち数と防御率で和田にやや劣る杉内は勝率が.696でパ・リーグのトップ。最優秀投手(二年連続)に選ばれた。
杉内は今日の第二回交渉で、前回と同じ金額を飲んだ。和田を抑えてホークスの投手で年俸トップであることに変わりはない。ただ和田のアップ額1億2000万円に比べると、アップ額は明らかに少ない。
個人的には、元の金額が高い選手ほど、同じ成績でも上げ幅が少なくなるのは普通だと思う。もちろん外から見てホークスの新しい査定というのが具体的にどういう査定なのかわからないので否定も肯定も出来ないが、和田より杉内の方が上がり幅が少ないと言うことには違和感はない。
むしろ問題なのは、前回の杉内保留後、一部の報道にあった杉内の次回交渉時にオーナー代行が同席し、提示額も見直されるという話。今日の決着によると金額の見直しはなかったようだが、主力選手ならごねればもっと偉い人が交渉に出てきて査定とは異なる金額を提示してくれる等というのがまかり通るようでは査定の意味がない。
ただ、プロ野球選手は査定に合わせてプレーしているのではなく、チームと個人成績のためにプレーしているとはいえ、シーズンが終わってから新しい査定を出されても困惑するのは当然だ。試験を受けてから採点方法を変えられたらたまらない。だからこのオフは新旧の査定結果を両方提示しているというが、説明が充分でなければ、自分たちが不利益を被るケースに過剰反応するのも無理はないだろう。
また球団は異なるがライオンズでも27試合に登板、14勝8敗、防御率3.67の涌井秀章が今季年俸2億円から現状維持という評価に保留したようだが、年俸2億円の投手なら14勝しても上乗せ無しという理屈もわからないではない。下げる時に減額制限がある以上、高額選手ほど上げるのに慎重になるのもわかる。
このことは既に当blogで何度か触れているが、結局年内に交渉の席すら設けられなかったらしいダルビッシュ有にも当てはまるだろう。
今年、それこそ新聞休刊日や試合がなかった翌日の定番となった感もあるダルビッシュのポスティング移籍説。その最たる根拠が昨年の更改で球団側が提示したとされる複数年契約を拒否したことにあるのはわかるが、ファイターズ球団がこの先何年間も、ダルビッシュの高額な給料を払い続けられないという論拠は疑わしい。ライオンズやホークスとファイターズでは台所事情や査定方法が異なろうが、既に今季年俸が3億3000万円にも達しているダルビッシュが四年連続防御率1点台という金字塔を達成したとは言え、26試合登板、12勝8敗、防御率1.78という成績で大幅なアップは望めないと思う。
プロ野球選手の年俸は活躍すればするほど上がり続ける。そう信じられてきたからこそファンに夢を与えられるのだが、ある一定のレベルまで上がると、そこから先は上がり幅は小さくなる。これは十二球団のほとんどが赤字経営という実態を別にしても、不思議ではないと思う。そしてこれは推測だが、そのような概念を具体的に、かつ冷徹なまでに数値化、計算式に当てはめたのがホークス小林取締役の肝いりだという新査定なのではないか。
三年間一度も公式戦のマウンドに上がっていない元エースにその三年間で5億7000万円も払ったり、三冠王になった選手の流出防止策とはいえ主砲に七年契約を結んで成績に見合わぬ高額年俸を払い続けた球団だ。親会社から査定そのものを見直す大命令が出ても不思議ではない。
余談だが小林取締役は現役引退後(というか戦力外通告を受けてから)渡米したり大学で教えたり様々な世界で活動していたが、球界再編騒動の折の論評活動が読売新聞社のトップの目に止まり、その縁で孫オーナーに紹介されたという。オーナーの存在をバックボーンにし、今では王貞治会長ら元ユニフォーム組を別にすれば球団内でも有数の力を持ったという。だが噂レベルでは内外から首をかしげられる改革も少なくないという。そんな力を持った男の球団を掌握するための切り札が新査定によって年俸高騰を最小限に防ぎ、球団経営を改善しようとしているのかもしれない。
2004年の球界再編騒動の大詰めになって舞台に登場し、「プロ野球選手の年俸の相場は安すぎる」などと、たいそうな事を語っていた孫オーナーの懐刀がその「頭脳」を単にコストカットに集約させているのなら、何だかなぁという感じもするが…。
杉内を始めとする一部の選手の不満は新しい査定方法がすべてではない様だ。杉内に対するボイスレコーダーは極端な事例としても、相手(選手)の足許を見るような発言が散見されるらしい。くれぐれも高塚猛の二の舞い(球団経営者としての)にだけはならないことを切望する。
P.S.
12月26日追記
26日の日刊スポーツなどによると、25日の再交渉で球団から金額の上積み提示があったが杉内が辞退したとのこと。交渉ごとに提示額が変わることはよくあるが、偉い人が出てきて新たな金額を提示して丸く収めようとするのは他の選手達に不信感を抱かせがちだし、そもそもの査定の信憑性を疑わせる。今オフの更改でのドタバタが小林取締役の独断専行によるものでないことを祈る。
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