ちょっと変じゃないか?ホークスが藤田宗一を育成選手として獲得。
藤田宗一獲得が一般的な育成選手の枠組みとは異なるのは明らかだ。ジャイアンツから戦力外通告を受けたことでもわかるように力の衰えは隠せず、トライアウトを受けたものの他球団から声がかかることもなかったようだ。つまり支配下選手のファームの若手と比べても抜きんでた力がある訳でなく、実績のある選手とはいえ無条件に支配下選手の70人枠に入れられない選手なのだろう。ホークスは今オフ、ベイスターズから戦力外通告を受けた大西宏明を同様に育成選手枠で獲得しているし、ファイターズから戦力外通告を受けた多田野数人に対しても育成選手枠で獲得かとの報道が出た。
ホークス以外でも例えばジャイアンツは、支配下登録から育成選手に降格する選手がいるし、木村正太の様に故障からの復帰が長引きそうな選手を支配下登録から外し、育成選手にしている。これは支配下登録選手の70人枠を有効に使うための措置だろう。
育成選手制度の旗振り役はジャイアンツだと言われているが、ジャイアンツとしては初めから育成選手制度を作ろうとしているのでなく、70人という支配下選手登録の枠の撤廃か、増数を狙っていたと言われる。要はアメリカのように何層ものファーム組織を作るか、あるいはファームでの競争を厳しくし、その中から一軍で戦力になる選手を鍛え、育てるという発想。
しかし現実は十二球団のほとんどが赤字経営で、支配下選手の枠が拡張されたり、撤廃されたりしたらジャイアンツなど一部のチームとその他のチームで選手数、選手層に格差が出来てしまうのは必至。護送船団方式とまでは言わぬものの、弱肉強食とはいかず、十二球団の平均的なところで落ち着かせざるを得ないから、支配下選手枠はそのままにして育成選手制度をつくるという折り合いが付いたといって過言でないだろう。ホークスが三軍構想をぶち上げているが、ジャイアンツ、マリーンズなど育成選手をどんどん獲得しているチームもある。そして人数が増えても実戦の機会が少ないのではあまり効果がないから、(ファームのイースタン、ウエスタンの球団数が奇数という問題とは別に)アマチュアチームや独立リーグとの交流戦を増やしていくという形をとっていると思われる。
こうした流れからすると、遅かれ早かれ、今回のホークスのように支配下選手契約のボーダーライン上にいる選手の受け皿として、育成選手制度を利用す球団が出てきていただろう。大西にしろ藤田にしろ、この枠が無かったら選手生活に終止符を打つ結果になっていたかもしれない。ホークスが彼らに救いの手をさしのべたと同時に、育成選手制度が彼らに救いの手をさしのべたとも言えよう。ただ、彼らは育成ドラフトで指名された育成選手よりさらにシビアな立場にいるとも思える。
育成選手が支配下選手登録されるリミットは7月末だが、大西や藤田は今季この期限までに支配下登録されなかったら、おそらくそれまでであろう。それ以降は即クビということはないにしても、(育成選手でも出場可能な)ファームの公式戦でも他の若い育成選手優先で起用される、居場所を失うことになるだろう。
ただ、冒頭にも書いたように藤田や大西を育成選手と呼ぶことにはやはり違和感がある。かつての中村紀洋もそうであったが、実績のある選手は育成選手契約出来ないという決まりが無い以上、今後もビッグネームが育成選手契約されるケースが出てくるだろう。ただそうなると、育成選手という名称が実態にそぐわなくなるのである。もちろん、支配下選手に今一歩届かない、本来の趣旨の育成選手の数がそれによって減るとは限らないと敗戦処理。は思うから、支配下登録選手から戦力外通告を受けた選手を別枠にするとか、リハビリ中の選手を別枠にする、あるいは新しい名称を考えるという動きが今後あるかもしれない。
その意味で不思議なのは、ホークスが斉藤和巳を育成選手にしなかったことだ。今季の肩書きはリハビリ担当コーチだそうだが、リハビリに励む選手を指導する一方で自らも選手に復帰出来るようにリハビリを続けるのだそうだ。通常、現役を引退してそのままコーチに就任する選手は手続きとしては任意引退選手となり、コーチ契約を結ぶ。ただ斉藤の場合は任意引退ではなく自由契約選手として公示された。私見ではこれは、支配下登録選手を育成選手にする時には自由契約選手にしてから育成選手契約を結ばなければならない(育成選手にさせられるくらいなら他の球団と交渉したいという選手にはそのチャンスを与える)ので、自由契約選手にしてコーチ契約を結んでいるのだろう。いずれリハビリが順調に進み、プレーが出来るようになったら支配下選手登録する前にまず育成選手として登録するという考えかもしれない。ただこの場合斉藤はホークス以外の球団とも交渉出来る理屈になる。
話がそれた。今後ホークスが毎年こういう形での育成選手契約を進めて常態化させたとしたら、次は支配下選手枠の撤廃か拡大を主張するだろう。支配下選手枠の形骸化を目的として、藤田や大西のような立場の選手と毎年育成選手契約を結ぶかもしれない。そして70人枠が無くなったり拡大したら、結局資金力のあるチームとそうでないチームにどんどん戦力差が拡がる野球界が出来るのは自明の理だ。というか育成選手制度自体、資金力に余裕のあるチームに有利な制度なのだが…。
ソフトバンクという企業が球界に参入したのは2004年の球界再編騒動の時。旧バファローズの経営が立ちゆかなくなり、当時のブルーウェーブとの合併が突然発表された。球団経営が苦しいのはこの球団だけでなく、なおかつパ・リーグが奇数になっては何かと不都合なので、「もう一つの合併」説まで飛び出し、それはやがて一リーグ制を意味する動きと憶測された。競争社会とは言え、露骨な弱肉強食には出来ず、共存共栄の発想が必要だと言うことで、無風と思われたセ・リーグがそれまで頑なに否定していた交流戦の実施に賛同した。そんなさなかに天文学的な有利子負債を抱えたダイエーから球団を買ったソフトバンクだったが、孫正義オーナーは就任早々「プロ野球選手の年俸は一様に安すぎると思う」と言い、資金力にものを言わせて、ホークスから年俸の相場を変えていくという趣旨の表明もしていた。そうした歴史の積み重ねがジャイアンツや、ジャイアンツのいるセ・リーグへの偏重に繋がったと言うことはパ・リーグの関係者やファンなら誰もが思うことのはずだがこの新参者はそうは思わなかったらしい。
幸か不幸か、ホークスの年俸相場が突出することはなかったが、育成選手制度や支配下登録人数制限を形骸化することから手始めに球界の常識を変えていくかもしれない。それが選手達やプロ野球ファンに明るい未来を提供するものであれば歓迎するが…。
ちょっと飛躍気味に話すが、こうした傾向に拍車がかかると、その先に起きることは2004年の旧バファローズのような、ついていけない球団の発生だ。
藤田や大西のケースでは戦力外通告を受けて他球団が獲得に乗り出さない選手への救済措置として育成選手制度が有意義に使われているように思えるが、当の選手本人にはそうかもしれないが球団の狙いはきっと別のところにあると敗戦処理。は考えている。もちろんこれはホークス球団を疑っているという訳ではなく、十二球団で最多の育成選手を抱えているジャイアンツにおいても拡大解釈される可能性は無いとは言い切れない。ジャイアンツの具体的な動きとしては、今季はアマチュアや独立リーグとの練習試合を増やす.そしてそれを可能にするためにジャイアンツ球場にナイトゲームの設備を作り、一日に二試合行える環境を整える。ジャイアンツ球場にナイトゲーム設備を作る総工費は約4億円だそうだが、今季はイ・スンヨプと契約しないから充分に捻出できる<笑>。
現状、個人的な印象ではこのホークス、ジャイアンツ、マリーンズが育成選手制度を有意義に自球団に利用しているように思える。一方でいまだかつて一人も育成選手契約を結んだことがないファイターズは選手育成が上手い球団だと一般的には言われている。これらの球団以外も自球団に最適な育成選手制度とのつきあい方を考えないと、「結局資金力のある球団のための制度だったのか…」なんて言われかねない。
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