三年やって一人前…!?
2009年のセ・リーグ新人王、松本哲也が極度の不振にはまっている。育成選手から這い上がり、2009年には二番打者としてリーグ優勝、日本一に貢献。ゴールデングラブ賞も獲得し、山口鉄也とともに新生「育成の巨人」のサクセスストーリーのヒーロー的に扱われた。しかし昨年は左太もも裏筋膜炎での離脱などもあり不振に悩まされ、再起をかけた今季は打撃不振で開幕一軍を外れると、約二ヶ月後の6月3日にようやく一軍入り。しかしここでも打撃に精彩を欠き、交流戦終了の翌日、二軍落ちした。
松本はどうしたのだろうか?
ただ、敗戦処理。の個人的な目安で見ると…
(写真:二軍落ちし、25日のイースタン・リーグ、対ベイスターズ戦に出場した松本。3打数0安打に終わると、この翌日は第二の二軍に回ってクラブチームとの練習試合に参加した。)
松本哲也に限ったことではないが、敗戦処理。は個人的に「三年やって一人前」、「三年やって本物」という考え方を持っている。 例えば、レギュラーをつかんだと言える実績を三年間残して本当のレギュラー。先発ローテーション投手を三年間務めたら、真のローテーション投手。エースという成績を三年間積み上げたら本当のエースといった具合。さすがに優勝を三回達成しろとは言わないが…。 今のプロ野球、一年活躍しても、ライバル球団はその活躍からデータを分析し、その選手を丸裸にして翌年には同じ働きをしないように対策を講じてくる。一年活躍した選手は相手の警戒を超えて初めて、次の年も活躍できる。次の年も活躍すると、その活躍がデータとして上書きされ、さらに翌年の活躍が難しくなる。選手の方もそれを上回ろうと、さらに進化する。選手は引退するまでその繰り返しなのだが、まあ三年間例えばレギュラーならレギュラー、エースならエースという働きを勤め上げれば、それはもう認めてあげようというのが敗戦処理。の考え方の一つなのである。 一年間のみの活躍でチヤホヤされ、翌年にはファンの期待を裏切る。そんな選手を幾多見てきた。もちろんその翌年にリベンジしてくれればそれはそれでいいのだが、あの年の活躍は何だったのかとばかりに何年も低迷を続ける選手もいる。もちろん慢心が理由とは限らない。不可抗力の故障や疲労の蓄積もあるだろう。だからこそそういう試練を乗り越えて年々ステップアップする選手に本当のプロを感じるのだが。 ジャイアンツの松本を決して天狗になっているなどと言うつもりはない。かつて一本足打法の王貞治が現役時代に「僕のように変わった打ち方をする選手は人より多く練習しなければならない。フォームが変わっているからチェックポイントが多いのですよ」と言っていたが、松本にも当てはまるのかもしれない。そしてそうだとしたら、チェックポイントが多いということはどこか一つでも狂っていたら、自分の打撃が出来なくなってしまうのだろう。 ただ残念ながら松本がレギュラー選手として活躍したのは2009年の一度だけ。今のままでは敗戦処理。にとってはたまたま一年だけ良かった選手ということになる。これは昨年の亀井義行にも当てはまる。左肘関節挫傷による離脱もあったが、シーズンを通して前年のような打棒が見られず、打撃不振による登録抹消も経験した。松本、亀井と左打ちの外野手が二人も期待外れだったのは優勝を逃した一因であるかもしれないが、敗戦処理。に言わせれば実績一、二年の選手の期待外れがチーム全体に大きく影響を及ぼすようではジャイアンツは言われるほど層が厚いチームではないということになる。 その意味で今シーズンの前、亀井の三塁コンバート案が浮上したときに懸念した。亀井を三塁にコンバートした理由に、ジャイアンツの外野陣がアレックス・ラミレスは言うまでもなく、新人王になった長野久義と、松本が復活すれば亀井が外野のポジションからあぶれる。ならば三塁を守れるようになった方が出場機会が増えるというものがあった。ラミレスは当然としても、新人王を取ったからといって長野が二年目も好成績を残す保証はないはずで、むしろ慢心を防ぐ意味では松本や長野と競わせた方が得策だろう。幸いなことに長野は二年目の今季もここまで好調でそれはもちろん素晴らしいことなのだが、実際外野の三つのポジションのうち固定されているのは二つだけだ。亀井に三塁コンバートを命じておいて三塁を守る新外国人を獲得するのも方針が中途半端だが、そのラスティン・ライアルが期待外れなのだから結果的に亀井の三塁コンバートが奏効する。 昨年のジャイアンツは3位に終わったが、数字上優勝の可能性が消滅したときだったか、原辰徳監督が自分への戒めとして、一部選手の自主性を尊重しすぎたとスポーツ報知で語っていた。ベテラン選手ならともかく、経験の浅い若手選手をまだ一人前でないのに一人前扱いしてしまい、調子が下がったときなどに本人に調整方法を任せたのが裏目に出た。そういう選手に厳しくできなかった自分が甘かったと語っていたのだ。一部の選手に対しては時に懲罰的な交代を施したりする一方で大人扱いするにはまだ早い選手の自主性を尊重しすぎたと言うことだろうか。 そう考えると、巨大戦力と言われるジャイアンツでも計算できるのは野手では小笠原道大とラミレスと阿部慎之助と坂本勇人くらいなのである。実績という点では高橋由伸や谷佳知も充分だが、既に全盛期は過ぎており、年間を通してコンスタントな成績を期待するのが酷なことは妄信的なファンで無い限り気付いているだろう。ただそれでも小笠原とラミレスは年齢的には衰えが顕著になっても不思議のない域に入ってきており、実際に小笠原は誰も想像しなかった絶不調に陥り、今もその状態から脱したとは到底言えない状態が続いている。 投手陣にしてもそうだ。 敗戦処理。に言わせればジャイアンツでは上原浩治を最後に「エース」はいない。「エース」がいない代わりに先発ローテーション投手に図抜けた存在はいなくても平均的な投手がそろっていれば、抑えのマーク・クルーンを中心にした山口、越智大祐を試合の最後から逆算した勝利の方程式を形成することで投手陣を底上げした。クルーンは不安定とはいえ、三年間ジャイアンツの抑えを全うしたし、山口、越智も三年間セットアッパーとして君臨しているのである。もう一人前だ。 ただ残念なことにリリーフ投手に関しては一部の超人的な例外を除き、三年もがんばれば疲労がたまり、故障したり不振に陥りがちなのである。山口が今季今一つ不安定なのも、越智がとてもリードしている場面では使えないのも基本的には酷使のツケだろう。久保裕也だって起用法を考えないと早晩同じ轍を踏む。 先発投手陣では内海哲也は曲がりなりにも先発ローテーションを守るようになって五年を経過しているから、紛れもないローテーション投手である。ただ残念ながら「エース」という程の実績は残していない。その意味では東野峻も2009年に初めて規定投球回数に達し、昨年も順調に成績を伸ばしているので今年が正念場なのだが、まだ主力投手と呼ぶには昨年も前半戦は申し分無かったものの後半に成績が急降下し、三年どころか丸一年の安定感もない投手だ。まだまだ全幅な信頼を置くのは早いと思う。ましてや澤村拓一に至っては拙blog6月13日付エントリー ジャイアンツは澤村拓一を潰す気なのか…? で書いたとおり新人離れした逸材であろうことは確かにしても、まだプロの世界で丸一年を経験したことのない選手である。 身近な例と言うことで贔屓チームの一つであるジャイアンツを例に挙げたが、おそらく他球団でも当てはまるだろう。交流戦で毎年パのチームがセを圧倒する様になるのはパの各球団には力のあるエースが揃っているからだとよく言われるが、そういう比較をするときのパ各球団のエース投手は三年以上既に「エース」として君臨しているエースばかりだ。もう一つ身近なファイターズで言えば、中田翔、糸井嘉男、陽岱綱はまだ一人前とは認められないが、金子誠、稲葉篤紀はもちろんのこと鶴岡慎也、田中賢介、小谷野栄一といった既に一本立ちした選手が核となっているから若手が過度なプレッシャーを感じることなく腕を磨けるのだと思う。 本エントリーで書いてきたことは球界の定説ではもちろんなく、敗戦処理。の思い込みに過ぎない。だが短い実績のみで選手を過度にチヤホヤしたり、過度に成績を期待するのは選手にとっても球団にとっても不幸な結果につながりがちだと思うので、この目線を変えないつもりだ。 松本哲也には育成選手契約から支配下登録を勝ち取った頃の初心に返るくらいの気持ちで、また浮上してもらいたい。この壁を乗り越えてこそ不動のレギュラーの座が待っていると思うから。
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