« プラスワンチャレンジ-斎藤佑樹、オールスター「最後の一人」に選ばれる。 | トップページ | 長野久義がもうすぐ遭遇する「巨人の四番」という聖域の壁… »

2011年7月15日 (金)

野球場は決して安全ではない。

Cdsc_0253 9日のスポーツニッポン1面で報じられたスタンドでの転落事故には衝撃を受けた。現地時間7日、アスレチックス対レンジャーズ戦で、レンジャーズのレフトを守るジョシュ・ハミルトンがファウルボールをスタンドに投げ入れたところ、身を乗り出して捕球を試みた男性ファンが誤って約6mの高さから落下。病院に緊急搬送されたが、その後亡くなったという。日本のスタジアムでもいつ起きても不思議でない事故だ。

(写真:レンジャーズ・ボールパークでの転落事故を報じる9日付けスポーツニッポン1面)

Dsc_0059 選手が試合使用球をスタンドに投げ入れ、運の良いファンがキャッチする。日米を問わず、今では見慣れた光景だ。だが、ファンにとってそのボールが魅力的過ぎるばかりに、時にその争奪戦は熾烈を極め、思わぬトラブルに発展することもあるが、今回のケースは投げ入れたボールを捕球しようとしたファンが前のめりになってスタンドから転落したというもの。亡くなられた方に対しては本当にお気の毒で、ご冥福をお祈りするしかない。ただ、これと同じ事が日本のスタジアムで起きても不思議ではない。

今では日本でも一軍の試合ではまず例外はないと思うが、試合中のファウルボールがスタンドに飛び込んだ場合、捕った人にそのボールはプレゼントされる。しかし敗戦処理。の記憶ではそれがどのスタジアムでも当たり前になったのはほんのこの15年~20年くらいの間ではないかと思う。

ではそれ以前はどうだったのかというと、ホームランの打球はもちろんプレゼントされたが、ファウルボールに関しては原則回収だった。打席から90m程度は離れ、ライナーせいの打球でも外野席に届く頃には多少勢いが落ちていて危険が少ないが、打席からの距離が比較的に近い内野席に届くファウルボールはライナーせいの打球を含め、ファンには危険な打球。ファウルボールがプレゼントされるとなれば、危険を顧みずボールを捕ろうとするファンや、落下点に走ってでも捕りに行くファンの争奪戦になるとトラブルの元なので、ファウルボールを回収することにしておけば、少なくとも争奪戦によるトラブルは防げるという判断からだった。

それが、スタンドインしたボールはすべてプレゼントされる大リーグの試合の中継がBS放送などで日常的に観られるようになってファンの欲望が高まったのと、人気低迷の打開策(鳴り物応援などで盛り上がる外野席=客単価が安い=は埋まっても内野席はなかなか埋まらない)に解禁されたのだ。

最初にファウルボールプレゼントを打ち出したのは1990年代初期のスワローズだったと思う。

スワローズのホームグラウンドである神宮球場はスタンドの傾斜が比較的緩いので、例えば内野席の上の方の段に位置しているファンが走ってスタンドを駆け下りても、それほどトラブルにはなりにくいという判断の下、スワローズ球団がファンサービスとしてファウルボールのサービスを打ち出したのだが、この時は何と他球場が足並みを揃えられないとの理由で、スワローズの神宮球場でのこのサービスに機構から「待った」がかかり、結局認められなかったのだ。

一度打ち出してしまったスワローズは仕方なくファウルボールを拾った人にはグッズと交換ということにしてお茶を濁したが、前述のように全体でファンサービスを改善する動きがあって、今ではどの球場でも当たり前のサービスになっている。

だが、だからといって球場の環境が変わったわけではない。神宮のような球場は例外で、例えば同じ関東圏でも横浜スタジアムや東京ドームは傾斜がきつい。傾斜がきつければ階段が急になり、慌てて上り下りするとトラブルになりやすいのだ。そうした球場ではせいぜい警備員や係員を増強したり、場内アナウンスで定期的に観客に注意を喚起しているくらいである。もちろんただ座って観戦する限りでは程度問題ではあるが、傾斜が緩いスタンドということは後方の席、上の方の席はグラウンドとの直線距離が遠い。傾斜が急なスタンドはその逆で、後方の席、上の方の席でもグラウンドとの直線距離が近い。ただ精神的に傾斜が急なスタンドの上の方を嫌うファン層がいるのも確かなことだ。

ファウルボールだけでなく、スリーアウト目の打球を捕球した選手がスタンドにボールを投げ込むのも日常的光景になった。これも日本でやり始めたのはブルーウェーブ時代のイチローが最初ではないか。イチローは投手交代などのボールデッドの間にスタンドのファンとキャッチボールをしたことすらあった。当時イチローに刺激を受けたのか、スワローズからジャイアンツに移籍した広沢克己が、イチローのようにファウルフライをランニングキャッチしてボールをスタンドに投げ入れるのを真似ようとしていたが、広沢はファウルフライに追いつけず、取り切れなかったボールをスタンドに投げ入れるばかりだったのを観たことがある。もちろんそれでももらったファンは嬉しいのだが、あまり格好良くはない<苦笑>

ただこの攻守交代での投げ入れも、スリーアウト目が内野ゴロで一塁に送球されてアウトの場合、一塁手がそのままベンチに戻ってスタンドのファンに投げ入れるというパターンが定着すると、ベンチの上あたりにファンが殺到するのである。これが過度になると、ツーアウトになった時点でファンが移動を開始するのだ。たしかにスリーアウトになってから階段や通路を猛ダッシュするよりは危険が少ないが、普通に座席で観戦している客の妨げになったり、やはり奪い合いが熾烈を極めると危険なことこの上ない。ちびっ子ファン同士でも危険だが、自分の息子のためにがんばるオトナが出てくると悲惨を究める。

そしてそんな中、ついに東京ドームがエキサイトシートという名の、目の前にネットのない席を用意した。

Dsc_0054 敗戦処理。も生観戦したことがあるが、確かに目の前にネット(=障害物)がないのは爽快だ。臨場感が段違いだ。一応安全のために観客一人一人にヘルメットとグラブが用意されているが、見た感じ着用率は高くない。

Dsc_0012 東京ドームのエキサイトシートが好評を博すると、いくつかの球場も追随した。正直、福岡ヤフージャパンドームの両翼ポール際のフィールドシートのせり出し方は異常だと思うが各地にファウルグラウンドを削っての特等席が誕生した。

02 また、構造上無理なスタジアムでは横浜スタジアムのように内野席の防球ネットを最大限外すことで臨場感を醸し出している。

あの手この手で臨場感を演出し、ファンサービスに務める一方で、ファンの安全に対する配慮がどれだけ進んでいるか、実はあまり検証されていないのではないか?

ゴールデンイーグルスのホームグラウンドでは練習中の打球を目に受けた観客が訴訟を起こした。その事が報じられた日、ファイターズが東京ドームで主催試合を行っていたが、試合中、エキサイトシートに遊びに来たC☆Bは「インプレー中は危険だからダメ」と警備員に静止された…。

かつてファイターズの田中幸雄は試合前にサインボールをスタンドに投げ入れる際、東京ドームの内野二階席に遠投していたが、今回のニュースを聞くとよく事故が起きなかったなと思う。

前述したように、警備員を増やしたり、場内アナウンスでのしつこいほどの注意喚起が増えたくらいで、サービス向上の割に安全確保が追いついていないように感じるのだ。もちろんこれはデータを取ったわけではない。ハイリターンながらハイリスクが背中合わせ、表裏一体なのかもしれない。ある意味、ファンは自分で自分の身を守るしかないのかもしれない。そしてもし、ひとたび事件が起きてしまったら、ここまでに書いたような「臨場感」は「安全第一」という大前提の前にすべて姿を消してしまうだろう。

16日から三連休。野球観戦三昧の方も少なくないだろう。敗戦処理。も17日、18日と、とある球場で生観戦予定だ。各スタジアム共ファンサービスに一層気合いを入れるだろう。ファンも高揚し、思わぬトラブル発生などということのないように願いたい。熱中症とともに観戦者なりに対策を持ちたいものだ。

冒頭から二枚目の写真は今やファイターズスタジアムでは恒例となった、試合前のカラーボール投げ入れに夢中になるファンの姿だ。たいがいの場合、運良く捕球しても、選手のグッズなどをゲット出来るのではなく、スタジアム内の売店「仁陣」で当日限り有効な、ヤキソバと引き替えられるという程度なのだが、これでも観客は熱中する。

何かあったとき、自分の高揚ぶりなどを棚に上げて、球場や主催者側に文句を言う身にだけはなってはなるまい。そもそも野球場という空間は安全ではないのだ。その事をよく踏まえて、チケットの裏面の注意事項を熟読した上で、野球観戦を楽しもう。

|

« プラスワンチャレンジ-斎藤佑樹、オールスター「最後の一人」に選ばれる。 | トップページ | 長野久義がもうすぐ遭遇する「巨人の四番」という聖域の壁… »

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 野球場は決して安全ではない。:

« プラスワンチャレンジ-斎藤佑樹、オールスター「最後の一人」に選ばれる。 | トップページ | 長野久義がもうすぐ遭遇する「巨人の四番」という聖域の壁… »