バファローズが阪急に続き今度は近鉄を復刻
先頃かつての阪急ブレーブスを復刻させてオールドファンを懐かしがらせたバファローズが今度はもう一方の合併相手の近鉄を復刻させるという。「LEGEND OF Bs~甦る黄金の70’s~」の第二弾で、今週12日(金)から14日(日)の対ライオンズ戦と、26日(金)から28日(日)の対マリーンズ戦に1974年から1977年にかけて着用していたユニフォームで試合を行う。OBの鈴木啓示や太田幸司による始球式や、往時を懐かしむイベントが予定されているという。
ライオンズ球団の「ライオンズクラシック」に端を発した復刻ブームだが、バファローズがかつての阪急ブレーブスや9月に予定されているというブルーウェーブを復刻するのと、近鉄バファローズを復刻するのとでは微妙にニュアンスが異なると思う。
現バファローズファンはおおむね好意的に受け止めているように思えるが、旧バファローズのファンの胸中は如何に…
(写真:近鉄バファローズ一筋で300勝以上を挙げた鈴木啓示を讃えるスカイマークスタジアム神戸の外壁 2008年4月撮影)
合併球団において、合併した側の球団と合併された球団との間に温度差が存在して不思議ではない。対等合併で無かったことは明らかだし、両球団のファンのみならず、多くのプロ野球ファンが懸念した球界の規模縮小を連想させる合併であったし、合併する側の小泉隆司球団社長兼代表が無神経にも合併する相手の球団名を「バッファローズ」と繰り返し発言していたことも顰蹙を買っていた。
ブルーウェーブのファンでもバファローズのファンでもない、やや距離をおいて見ていた敗戦処理。の目にも旧バファローズのファンが不憫に映ったこの合併騒動。いわゆる吸収合併なのだから致し方ないとはいえ…。
そして正式に合併して新球団になった際にも、新規参入球団ゴールデンイーグルスとの間の分配ドラフトをかなり有利に行うことに成功し、判官びいきも含めた新規参入球団を応援するファンをも敵に回すことになった。
そして極めつけは、合併相手の旧バファローズの最大の功労者の一人である鈴木啓示の栄誉である永久欠番をやめてしまったのだ。当時の報道によると鈴木啓示本人の許可を得たとのことだが、これは明らかに吸収合併であって旧バファローズの事情などお構いなしということを公言したようなものだ。そしてその瞬間、パ・リーグから永久欠番が消え、今日に至るまでパ・リーグに選手の背番号を対象とした永久欠番は存在しない。
そこまで旧バファローズを蔑ろに扱っておいて、任意引退扱いで大リーグ入りした野茂英雄の所有権にこだわるダブルスタンダードぶりにも呆れたが、「バファローズ」という名称だけを残しておけば旧バファローズファンの気持ちに応えていると認めてもらえると思っているのだろうか…。
そして今回、その鈴木啓示が始球式に登場するという。当然、今回のコンセプトに基づき、1974年~1977年に採用していたデザインのユニフォームで投げるのだろう。鈴木本人が納得して出演しているのだから、禍根はないと思われるが、鈴木サイドが大人の対応をしただけかもしれない。せめて、かつてSHINJOが現役最後の公式戦で一試合だけ背番号を変えたようにこの日だけ後藤光尊は背番号1を返上するのが鈴木への礼儀であり、旧バファローズファンへの贖罪だと思うが、まさかそんなことはしてくれないであろう。
旧バファローズだけでなく、福本豊の7番や山田久志の17番を永久欠番にしない球団だから、合併した相手の球団の永久欠番なんて考えていないのが実態だったのだろうが…。
さて、今回既にお気づきの方も少なくないだろうが、あの有名な猛牛マークが使用されない。
千葉茂さんの依頼で岡本太郎氏がデザインしたというあの猛牛マークが見られない。今回復刻されるユニフォームでも、1977年から左袖に入っているのだがどうやら1976年までのユニフォームが採用されているようだ。時期としては70’sに当てはまるのだが、対象から外れている。一説によると岡本太郎画伯サイドとの権利関係の問題をクリアできなかったからとの憶測もあるが、いずれにせよ今回の企画にあの猛牛マークが使用されないことがむしろ救いだと敗戦処理。は思う。
本当にオリックス・バファローズが近鉄バファローズ球団に敬意を持って復刻するのであれば、同じ話の繰り返しで恐縮だが今からでも鈴木啓示の背番号1を永久欠番にするべきだと思う。そういう領域に踏み込まず、単にライオンズや他球団の復刻セレモニーの後追いをしているのであれば、それはまさに「仏作って魂入れず」に過ぎない。その程度の意気込みであれば、やはり当時と全く同じものを再現されるのはどこか抵抗がある。
ジャイアンツの球団草創期の主力選手の一人であった千葉茂さんを招き入れ、そのニックネーム「猛牛」に因んでチーム名を「バファロー」とし、後に「バファローズ」となって今日に至っているのだが、一人の人物のニックネームを球団名にしてしまうという発想自体が凄いことだと思う。それが証拠に岡田彰布を監督に招聘してもオリックス・ドンデンズにはなっていない。その千葉茂さんが旧知の仲であった岡本太郎氏に依頼して作成されたというあのデザインが、今回採用されないというのは敗戦処理。のようにこの復刻企画を快く思わない者にとってはせめて溜飲を下げられる点なのである。
あの合併からまだ7年しか経っていない。
オリックス・バファローズという球団が近鉄バファローズという球団をどれだけリスペクトしているかがわかるイベントかもしれない。復刻関連グッズの売り上げなどにばかり気を取られるのでなく、現バファローズファンをどう満足させるかより、旧バファローズファンをどれだけ満足させられるかがこのイベントの本当の成否だと、少なくとも敗戦処理。は思う。
敗戦処理。はオリックス・バファローズのファンでも近鉄バファローズのファンでもない。「お前には関係ないやろ、黙ってろ」と言われればそれまでかもしれない。だが日本のプロ野球(NPB)のファンである。個人的には十二球団あって日本のプロ野球だと思っているが、あの合併騒動ではその根幹が揺らいだ。それはひょっとしたらこの両球団が悪いのではないかもしれない。だが、これまで何度となく起こった親会社が変わるという身売りとは明らかに異なる性格のものだ。たとえ吸収合併だとしても近鉄バファローズが近鉄バファローズだった頃の存在は色褪せるものでは決してない。当時のままの近鉄バファローズが復刻したと、当時からのファンが納得するイベントになれば、敗戦処理。ごときが口を挟むものではない事はわかっているつもりである。長々と書いてきたが、懸念がすべて杞憂に終われば、それがベストなのは言うまでもない…。
【参考文献】「プロ野球ユニフォーム物語」綱島理友/綿谷寛(ベースボール・マガジン社)
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