NPB、今年も3時間30分ルールを継続
NPBにおいて延長戦をどこで打ち切るかというルールは時代によって変更されている。勝負だから決着が付くまで試合をするのが理想ではあろうが、様々な事情から無制限という訳にも行かず、イニングで区切ったり時間で区切ったりしている。勝率で順位を決めるという制度において、勝ちでも負けでもない引き分けの存在が優勝争いにまで影響を及ぼす可能性があるから、基本的には引き分けの数が少なくなる方向に持っていきたいものだ。 端的に言えば、勝率が5割を超える球団は二試合を一勝一敗で消化すると勝率が下がるが、二引き分けなら勝率はそのまま。もちろん二試合なら二勝負けなしがベストなのだが、要は勝つことより負けないことに比重を置いた戦い方になりがちで、単一の試合を観戦する者にとっては興味をそがれる状況になりかねないからだ。その結果、年間で各球団が同じ試合数を消化するのに、最も多く勝った球団が優勝するとは限らないのだ。 過去にも3時間を過ぎたら延長の新しいイニングには入らないとか、3時間20分を過ぎたらと言う時代があった。ただそれだと、上記の様な理由で、勝つことよりも負けないことを優先する球団がホームチームで裏の攻撃だった場合、次の回にこれといった投手がいない場合に、時間ぎりぎりだったら攻撃で打者が打席を外したり、時間稼ぎをしてその回を最終回にしようと目論むケースなど、次のイニングに進むのを拒んだ時間稼ぎが行われるケースが考えられるからだ。本来ならば1点でも入ればサヨナラという緊迫した状況でのせめぎ合いが、だらだらした時間稼ぎになったのでは見ているファンは興ざめだろう。だから時間では区切らず、イニングで区切るというのが、東日本大震災が発生する前のシーズンまでの最も新しい考え方だった。 もちろん引き分けの数を減らすためには延長のイニング制限を出来るだけ長くすれば引き分けが減る。ほんの二十年前には延長は十五回まで、それでも引き分けなら再試合というルールで運営していた時期もあった。要は一昨年のドラゴンズとマリーンズの日本シリーズ第六戦、第七戦の様な我慢比べの様な試合が増えるのである。それはそれで良いのだが、観客の帰りの足の確保とか、実際に采配を振るう監督の勝手の悪さなどもあり延長は十二回までというルールに改まり、それが定着していた。 そこに昨年3月11日の東日本大震災だ。地震だけならともかく、電力が不足するという問題が発生し、開幕の時期をどうするかという問題で揉めたりしたが、試合そのものもイニングではなく時間で制限しようと言うことになり、延長戦は3時間30分を超えて新しいイニングに入らないというルールにした。当時の状況を考えれば、極めて妥当な判断だったと思う。その後ある程度電力供給事情も安定したこともあり、クライマックスシリーズと日本シリーズに関しては従来通りのルールでということになった。CSと日本シリーズを節電モードでなく行えたことから、今年のシーズンはどうするのかなと敗戦処理。も気にしていたが、24日の実行委員会で両リーグとも昨年同様3時間30分ルールを継続することになった。 時間で区切ると、先述の様な醜い時間稼ぎに走る監督が出ないとも限らない。 昨年はさすがに、地震の直後のシーズンということもあって、露骨に時間稼ぎに走る事は出来なかったと思う。むしろこの回で終わりだろうと選手を総動員したのに3時間30分を超えず、次のイニングに入ってしまって選手が底をつく様なケースが散見された程だった。そんななか、ひょっとしたらやるんじゃないかと思わせた監督がやっぱり俎上に乗る様なことをやった。 9月28日のマツダスタジアムのカープ対ドラゴンズ戦。1対1で迎えた十回裏、ドラゴンズは二死一、三塁というピンチでマウンドには岩瀬仁紀。この回を凌げば十一回表はクリーンアップからの攻撃を迎えるのだが、落合博満監督は早く凌いで次の十一回の攻撃を確保するより、引き分けでいいからこの回で終わらせる事を優先させ、外野手を二度代えるなどの行為により、3時間30分を超えさせた。十一回表のドラゴンズは三番の森野将彦、途中出場の堂上直倫、五番の谷繁元信と続く打順であったが、六番打者の和田一浩と七番打者の堂上剛裕を交代させて時間を稼いだ。マウンドの岩瀬は前日も1イニングを投げていて連投。既に浅尾拓也は降板。翌日も同じカープ戦がある。岩瀬のイニングまたぎを避けたかったのだろう。 試合後に落合監督は「こういうルールをつくった人に言ってやって。負けないことを考えないといけない」と特別ルールを利用したことを認めた。当時のドラゴンズはスワローズに次ぐセ・リーグの2位で、追う立場だったから引き分けでなく勝って少しでも首位に迫りたいとも思えたが落合監督は負けることを防ぐことを最優先に考えた様だ。 落合監督の「こういうルールをつくった人に言ってやって。」を別の言い方に代えると、「うちはルール通りにやっている。ルール違反をしていない」ということになる。ルールを最大限に利用しているのだと言いたいのだろう。話が横道に逸れるが、ルールに触れなければ何をやっても良いという考え方は必ずしも常に当てはまるものでは無いだろう。落合ほどの監督なら、あるいはドラゴンズほどのチーム力があるのなら、ルールを守るのは当然、さらにその先でもルールの趣旨に沿って戦って欲しいものである。もちろん新しいイニングに入ってさらに表と裏を続けるより、多少だらだらしてもその回で終わらせた方が試合時間が短くなり節電の効果が上がるという見方もあろうが、そこまでして試合時間を短くすることまでは求められていないだろう。そこまで逼迫していたら延長戦なしというルールにさえなっていただろう。 このケースはオレ流監督だったからたまたまやり玉に挙がっただけで、他球団も巧みに似た様なことをやっていたよ、という目撃談もあるかもしれない。要は今シーズンは、喉元を過ぎれば熱さを忘れるではないが、何故時間制限に切り替えたかという背景を忘れ、時間制限を有効活用しすぎる監督が、被災二年目になって頻出してしまうのではないかということを敗戦処理。は心配しているのだ。特に優勝を争うチーム間であれば、同じ貯金数なら引き分けが多い方が勝率は高くなるから、勝つことより負けないことを優先させる監督が出てきても不思議ではない。 ただ、3時間30分で区切ることによって、試合の面白みが増すケースも考えられる。 既に3時間30分を超える、あるいは超えることが間違いない様な試合であれば、十二回まで考えることなく、八回、九回にどんどん投手をつぎ込める。十回で終わることが確実なら、クローザーに2イニング覚悟で同点の九回に投入も出来る。 ファンには極めて評判が悪かった様だが、昨年のタイガースの真弓明信監督による、同点の九回裏、藤川球児投入も、長くても十回裏で終わるのならば、時に有効な手段と思えるからだ。 「同点の延長戦では良い投手から順番に投入するのが定石」という意見をよく耳にする。 しかしこれは後攻めのホームチームにのみ当てはまる定石で先攻のビジターチームは必ずしもそうではないと思う。 同点の試合で、ホームチームは九回以降、勝つのはサヨナラ勝ちに限られ、勝ち越して逃げ切るという展開にはなり得ない。であれば、九回表から十二回表までの4イニングの守備にはベンチにいるリリーフ要員の中から、1イニングを抑える確率が高い投手を順番に出せばよい。ベンチに左右のリリーバーが残っていたら、相手の打順に合わせて右投手と左投手を使い分けても良い。 ところがビジターのチームは九回以降、勝つためにはいくら点を取っても、サヨナラ勝ちはなく、裏の守りでそのリードを抑えなければならない。勝ち越し点は九回表に入るかもしれないが、十二回表まで入らないかもしれない。ベンチにいるクローザーはいきなり同点の九回裏につぎ込むのではなく、勝ち越したらその回の裏につぎ込んでリードを守りたい。であれば九回表の攻撃を終えて同点の場合に九回裏にクローザーをつぎ込むのではなく、クローザーは勝ち越すまで温存し、二番目に抑える確率が高い投手をつぎ込んだ方がいいだろう。十回表を終えても同点打ったら、十回裏はクローザーではなく、そのまた次に抑える確率の高い投手をつぎ込む。これをタイガースに置き換えると、ビジターゲームの場合、藤川球児を勝ち越すまでは使わないということになる。 ところが3時間30分ルールで、今日は延長でも十回で終わりだろうと思ったら、この試合をどうしても取りたいと思ったら藤川を九回裏の頭から投入し、2イニング投げさせるのも強ち間違いとは言えない。もちろん一日に2イニング投げてしまうと、翌日の登板に支障を来すなどのリスクとは背中合わせになるが…。それでも3時間30分ルールでは出し惜しみしてサヨナラ負けというケースを減らせるかもしれない。もちろん攻撃側も、後先考えずにベンチ入りの控え野手をどんどんつぎ込める。九回の表裏、十回の表裏に凄まじい攻防が堪能できるというメリットも考えられる。イニングで区切った方がだらだらとした時間稼ぎは無意味なので撲滅できるが、時間で区切ってもメリットがない訳ではない。 このエントリーは落合監督を批判するためのものでは無いから、フォローの意味で、昨年の震災、節電対応ルールの中であまり取り上げられてないであろう落合監督のいい話を一つ。 4月19日の神宮球場のスワローズ対ドラゴンズ戦。昨年の4月は東北・東京電力の管内ではドーム球場での試合をしないこととともに、平日でもデーゲームにすることで電力使用を抑えることにしていたが、火曜日だったこの日のデーゲームは小雨の降る薄暗い天候の中で行われていた。試合終盤、照明がつかずに見えづらくなってくると落合監督は「照明を付けられないなら、いっそ日没コールドにしてくれ」と審判員に詰め寄った。ドラゴンズは2対4とリードを許している状況で、試合は既に成立しているからコールドゲームはドラゴンズの負けを意味する。それでも落合監督は「こういう天気で電気が使えないのであれば、選手が危ない。どうやってもやるのであれば、日没コールドでいいんじゃないか」「選手が140キロからのボールをよけ損なったらどうする?命にかかわる」と勝敗より安全の確保を優先したのだ。結局試合は内野のみ照明を点灯して続行。ドラゴンズはそのまま2対4で敗れた。申し合わせではデーゲームでも審判員の判断で照明の点灯は認められることになっており、落合監督はそれを後押ししたのだ。 余談だが、こういうケースで落合監督は「お客さんがファウルボールを避けられなかったら危ないだろう?」という言い回しでは抗議しないのだろうか?少なくとも報道では落合監督は選手のプレー環境を心配しているのであり、観客の安全を云々した感じはない。落合前監督は監督時代にファンサービスの精神に欠けていると盛んに取り沙汰された(本人はチームを勝たせることが最大のファンサービスと認識していたので、ファンサービスを欠かせたという認識をしていないと思う)が、点灯をためらっていた審判団の背中を押すためにもファンの安全を口にする方がベストだと思うのだが…。 時間切れ引き分けを巡る駆け引きはほんの一例かもしれないが、喉元過ぎれば熱さを忘れるで、本来の趣旨と異なる時間稼ぎが行われる心配は、敗戦処理。はあると思う。もちろん「まだあれから一年。そんなことをする奴はいないよ…」ということで敗戦処理。の心配が杞憂に終わるのがベストだ。 ただ、昨年の震災直後、一時的にコンビニエンスストアから商品が消えた事を覚えている人も多かろう。直接の被災地以外でも、被災地への物資供給優先と言うことでコンビニの店頭の商品がかすかすになり、ペットボトルの水の入手が困難になったにもかかわらず、まだ震災から二ヶ月たつ前に、勝利の歓喜を相変わらず脳天気に行っているチームもあった。
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コメント
西清治様、コメントをありがとうございました。
> わたしは、延長戦に関する規定の前に、まず試合時間の定義そのものの見直しから始めてもらいたいと思っています。イニングの途中の選手交代などの、明らかにインプレーから外れる時間を試合時間に含めるというのは、他のスポーツを見ても例がないのではないでしょうか。これのせいで、余計な試合時間引き伸ばしが横行する原因になっていると感じています。
なるほど。それは私には盲点でしたね。
ただ、今回の3時間30分ルールの趣旨が、ベースに節電対策ありきだとしたら、そういった時間も含めた全体の時間で区切るしかないように思えます。
観戦後の帰りのアクセスを心配する場合もあるでしょうから、トータルでの試合時間をどう縮めるかになるのでしょうね。
> これからも野球はもちろん、それ以外のネタについても更新していきますので、よろしくお願いいたします。
こちらこそよろしくお願いします。拙blogも2月1日で6周年になります。引き続きよろしくお願いいたします。
投稿: 敗戦処理。 | 2012年1月31日 (火) 01時18分
敗戦処理。さん、更新お疲れさまです。
わたしは、延長戦に関する規定の前に、まず試合時間の定義そのものの見直しから始めてもらいたいと思っています。イニングの途中の選手交代などの、明らかにインプレーから外れる時間を試合時間に含めるというのは、他のスポーツを見ても例がないのではないでしょうか。これのせいで、余計な試合時間引き伸ばしが横行する原因になっていると感じています。
わたしのブログもご高覧いただき、ありがとうございました。確かに移動が大変でしたが、台湾は中国のように簡略化した漢字を使っていないので、駅やバス停の掲示がわかりやすく、他の外国に比べればまだましな方だと思いました。芸術と芸能の違いに関するご示唆も興味深かったです。これからも野球はもちろん、それ以外のネタについても更新していきますので、よろしくお願いいたします。
投稿: 西 清治 | 2012年1月29日 (日) 18時17分