ポスティングシステムなんて所詮こんなもん
日本時間1月6日未明。交渉期限をあと1日残した時点で、ポスティング制度で入団交渉をしていたニューヨーク・ヤンキースとライオンズの中島裕之の入団交渉が破談になった事が明らかになった。独占交渉権を握っていたヤンキース側の条件提示が中島の希望とはかけ離れていた模様。ルール上、中島は引き続きライオンズの保留選手となる。
昨オフにはゴールデンイーグルスからポスティング移籍を試みた岩隈久志とオークランド・アスレチックスの交渉が破談となったし、今オフもうひとりのスワローズの青木宣親はミルウォーキー・ブリュワーズの地元で実質的な入団テストを受けるという。
かつてイチローや松坂大輔がポスティングシステムを利用して大リーグの球団と契約が決まったときにはその破格の金額などが話題になったが、今日7日付けの日刊スポーツでは中島を「犠牲者」と表現するなど制度のあり方そのものを疑問視している。
でも、ポスティングシステムなんて所詮こんなもんじゃないのか…
(写真:ポスティングシステムでの大リーグ入りの夢が叶わず、ライオンズナインの元に戻る中島裕之。写真はイメージです。 2008年11月撮影)
元日から日刊スポーツの紙面では専属評論家が日替わりで今のプロ野球界への提言をしている。4日、佐々木主浩が日本人選手の大リーグ挑戦に関して書いていたが、その中でポスティングシステムに関して、こう継承を鳴らしていた。
FA権を取得するより早くメジャーに挑戦できるという魅力があることは否定しない。だが、個人的には反対だ。この制度での移籍はメジャーで成功を収めるための近道ではない、と警鐘を鳴らしたい。
この入札制度には、本人に球団の選択肢がない。たとえ好きな球団が落札したとしても、プレーする上での「環境」を見比べた上で選べないのは不幸だと思う。
((中略))
本人はもちろん、家族が街になじめずにストレスがたまると、プレーに影響が出る。FA移籍の私は、古くからの日系人文化があって日本人がなじみやすいシアトルを見てから、マリナーズに決めた。この制度が導入されていても、利用しなかっただろう。
ポスティングシステムが発効した翌年にFA権を取得し、その一年後のシーズン後にFA移籍でシアトル・マリナーズに入団した佐々木の言葉だけに説得力がある。
昨年の岩隈久志にしろ、今回の中島裕之にしろ、起こり得ることが現実に起こっただけのことで、別に犠牲者だのという筋のものでは無い。
日刊スポーツは中島の破談を報じる今日7日付け1面に「犠牲者」という文字を躍らせ、昨オフの岩隈決裂でも「犠牲者」という表現を用いていたが、これはポスティングシステムを買いかぶりし過ぎだと敗戦処理。は思う。佐々木が断じた様に、海外FA権を獲得してから自分が納得いく形で大リーグの球団と交渉すればよい。
そもそもFA権を持たない選手に移籍の権利は本来認められない。
ポスティングシステムは、かつての旧バファローズとの喧嘩別れの様な形で任意引退選手という形で大リーグ移籍を果たした野茂英雄のケースや、伊良部秀輝の様なケースを防ぐために作られた制度であるという側面と、FA権行使による大リーグ移籍の場合に、国内移籍の際に発生する補償が元所属球団に支払われないという日本球団側の不満と、日本人選手の獲得ルートをFA権行使によるもののみにしていると業務提携などで日本球団とパイプの太い球団ばかりが得をするという大リーグ球団側の不公平感から日米球界双方の思惑が一致して成り立っている。選手側にとってはいわばハイリスク・ハイリターンである。
昨年の岩隈の場合は権利を落札したアスレチックスは落札に費やす移籍金と岩隈本人への年俸を合算したものを岩隈に対する対価と考えたから、落札を確実にしたいがために入札金額を奮発した結果、岩隈本人への年俸が格安になったと言われている。これは穿った見方をすれば、ライバル球団に岩隈を獲得されると厄介なので、何が何でも落札して、岩隈への条件提示は低めに抑え、それでもOKして入団となれば、言葉は悪いが買い叩きが出来るし、それで入団を拒否されれば落札額も戻ってくる。岩隈を獲得したい他球団への横槍、妨害手段とも思える。昨オフの岩隈破談の際にはこの妨害説がマスコミで取り沙汰されたが、松坂大輔のポスティング移籍の際、落札決定後にボストン・レッドソックスとの契約がなかなかまとまらなかった時にこの妨害説は囁かれていた。松坂がレッドソックスと契約したことでこの妨害説はどこかに吹き飛んでしまったが、その後ポスティングシステムにルールの変更がないのだから、いつかまた別の選手でそういう動きがでるかもしれないのに、マスコミは忘れてしまったのか…?
ちなみにNPBでも実行委員会などで議論をしている様だがポスティングシステム見直しの機運は高まっていないようだ。
MLB側がどう考えるか知らないが、NPB側は有力選手が海外FA権取得前に日本球界を離れてしまうポスティングシステムに何故そんなに固執するのか?
それはやはり、先述した様に海外FAでの移籍なら移籍先の球団から補償がもらえないからだろう。またポスティングシステムによる移籍での(元所属球団に入る)落札金額はFAでの国内移籍での金銭補償より多額が見込めるからだろう。FA権取得までの日数、年数を短縮すると国内ライバル球団に行かれる年次が早くなるから反対だが、直接対戦しない大リーグへの移籍なら、この制度のお陰で高額の収入が見込めるからということなのだろう。
本質的にはNPBとして、海外FA権行使で選手が大リーグに移籍した場合にMLB球団から補償金をもらえるシステムを構築する交渉努力をする必要があろう。さすがに人的補償は無理であっても国内他球団から得ることが出来る金銭補償と同額でも得ることが出来ればそれで充分ではないか。MLB球団からみても、球団間で獲得競争が激化する様な選手でも獲得コストを抑制できるメリットもあろう。
ポスティングシステムは選手の希望が通らないという点でFA権の実質的な前倒しではないという大義名分が成り立っているのだが、仮にこのまま現状のポスティングシステムでそのまま継続するのなら、この二年の出来事を教訓に、選手、NPB球団ともに「ポスティングシステムなんて所詮こんなもん」という認識を忘れずに、それでも挑むものは挑めばいい。中島はおそらくライオンズに残留することになるだろうが、それでいいのだ。元の所属球団にとどまればいいのだ。(ポスティングシステムでどの球団からも入札のなかったベイスターズの真田裕貴は自由契約になったが、それは球団内の評価がその程度だったのだろう…)それがいやなら、佐々木が主張していた様に海外FA権を獲得してから対等の立場で交渉すれば良いだけの話だ。
中島にしろ、ブリュワーズと入団交渉をする青木宣親にしろ、昨年のファンとの交流イベントでファンに別れの挨拶をし、たしかチームメートから胴上げもしてもらっていたと思うが、正直それは認識が甘い。大勢のファンの前で挨拶する機会が他にないからというのもあろうが、あれは早合点だろう。
ただ、ダメ元なら昨年の岩隈や、今年の中島の様なポスティングシステムの利用はありかもしれない。この両選手に共通することは海外FA権を獲得し得る一年前のポスティングシステム利用という点である。
球団は主力選手の流出を避けたい。でも海外FA権を取得したら大リーグに行ってしまうのは確実。そうであればその前年までは球団で拘束し、権利取得の前年でポスティングシステム利用を認めることで海外FA行使では得られない大金を球団も得られるというメリットがあるからだ。
今オフ、ポスティングシステムによる大リーグ移籍が成立しなかったのは真田に次いで二人目。残る二人のうちの一人、青木はブリュワーズの地元で首脳陣らの前でテストされてそれで契約内容が決まるという。ある意味中島より舐められているのかもしれない。また、米ドル価格では松坂大輔を上回る高額落札となったファイターズのダルビッシュ有もテキサス・レンジャーズとの交渉の進展度合いがマスコミにはわかりづらいようで、一部には破談説も出ている様だが、この先どうなるか…。
日本人選手でポスティングシステムによる大リーグ移籍が成立したのはイチローから昨オフの西岡剛まで9人。大リーグで活躍というイメージがあるのはイチローと松坂くらいで石井一久、岩村明憲など活躍というには…な成績で日本球界に逆戻り。井川慶にも日本球界復帰の噂がある。
ポスティングシステムは夢の近道ではない。選手はFA権取得後の大リーグ移籍を基準と考え、ポスティングはダメ元くらいで考えた方が無難だろう。NPB側はそれでも補償を得られる制度の構築に挑む。1月1日付けエントリー 日本球界2012年問題 でWBCに関して書いたが、交渉相手としては一筋縄でいかない相手であることは百も承知だが、今の段階、立場を脱却できない限り日本球界の今後の発展は覚束ないと思う。
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