1位脇谷亮太は歴代最高!…2位藤原紘通、3位中川大志、4位菊地原毅ら4選手…何だこのランキングは!?
ずばり、106人いる育成選手の今年の年俸ランキングだ。先週発売された週刊ベースボール2月24日増刊号の選手名鑑によると、十二球団の育成選手は106人。昨年の選手名鑑号では94人だったから12人増えている。昨年の育成ドラフトで指名されて入団したのは十二球団合計で26人と、一昨年の29人よりやや減っているが、支配下選手から育成登録に変えられた選手が多く、全体で12人増えた。上述の4選手はいずれも昨年まで支配下選手登録だったが、故障により今季の回復が難しく育成選手に回った形だ。同誌では育成選手の推定年俸が網羅されていないが、今月に入って日刊スポーツが日替わりで球団別の選手名鑑を掲載しており、そこから育成選手の推定年俸を拾っていった。
2012年育成選手推定年俸ランキングTOP10
1位 2,600万円 脇谷亮太<G> 481試合出場。09年セCSのMVP
2位 1,300万円 藤原紘通<モ> 08年ドラフト1位。プロ初勝利が準完全試合。
3位 650万円 中川大志<モ> 11年イースタン打点王
4位 600万円 菊地原毅<C> 446試合登板。01年78試合、05年71試合最多登板
4位 600万円 玉置隆<T> 今季で通算8年目
4位 600万円 中田祥多<L>
4位 600万円 陳冠宇<DB>
8位 500万円 中谷翼<C>
9位 480万円 柳瀬明宏<H> 06年、07年には中継ぎで活躍。
10位 460万円 山本和作<G>
10位 460万円 中村憲<C>
※試合出場数は一軍公式戦の出場数。
どうしてこんな措置をするのかは支配下選手登録に一球団70選手という上限があるから。各球団は70人に満たない支配下選手登録をしておいて、故障の回復次第で彼らを支配下選手登録し、回復の遅れがあったり、他に育成選手で支配下登録したい選手が出てきたら支配下登録する、または外国人、トレードなどの補強を70人に満つるまで行えるからだ。そして育成選手には人数の制限がない。ただし最低年俸が低い育成選手を多くして支配下選手を減らすという策を講じさせないよう、支配下選手が65人以上いる球団でないと、育成選手を保有できない。
新規に育成選手を獲得するには支配下選手と同様に育成選手ドラフトでの指名を要し(外国人選手を除く)、支配下選手登録されている選手を育成選手に移すには自由契約にする必要がある。建前は他球団で支配下選手登録の契約のチャンスをもらえる交渉に付けるのだ。ただシーズン途中に支配下選手から育成選手にするのは、過去にドラゴンズが投手から野手にコンバートする金本明博を育成選手にしようとしたのだが選手会の猛反発にあって実現出来なかった。
また、育成選手は、FA移籍に伴う移籍元球団からの人的補償の対象外になる。それゆえに今オフ、ジャイアンツが脇谷を始め、土本恭平、円谷英俊、古川祐樹といった一軍出場経験のある複数の選手を育成選手登録にシフトしたのは人的補償でホークスやベイスターズから引き抜かれないためではないかと邪推された。
ジャイアンツの選手に限らず、上記の年俸ランキングに出ている選手は本質的に育成選手ではないとの指摘があっても不思議ではない選手ばかりだ。
ところで、そもそも育成選手とは何ぞやという問題がある。
日本プロ野球育成選手に関する規約の第2条(定義)によると、
本規約に定める日本プロ野球育成選手(以下「育成選手」という)とは、前条の日本プロフェッショナル野球組織の支配下選手として連盟選手権試合出場可能な支配下選手登録の目的達成を目指して野球技能の錬成向上およびマナー養成等の野球活動を行うため、球団と野球育成選手契約(以下「育成選手契約」という)を締結した選手をいう。
とのことだ。つまり脇谷は打球が高く上がろうと、自分の守備範囲に飛んだフライを確実に捕球する野球技能の錬成向上に努めなければならないし、審判に判定しやすいプレーを心がけるといったマナーを養成しなければならないのだ。
冗談はさておき、こうした規約の文言は堅苦しいものになりがちではあるが、支配下選手の枠に入るには達していない選手を、支配下登録目指して鍛えるための制度であることは明白だ。ただし、支配下選手として実績のある選手を育成選手にすることの制限は同規約には見当たらない。第4条(育成選手の採用)の⑧で、支配下選手であった者を野球協約第58条(自由契約選手)による自由契約選手の公示後、育成選手として採用する場合には、前各項の規定は適用しないものとする。と定めている程度。ちなみに前各項の規定とは簡単に言えば育成選手ドラフトにかけることである。即ち、自由契約選手にするということは、一応は選手はフリーになって他球団と移籍交渉を出来る機会を保証されるのだが、長期故障の身故、事前に球団との話し合いの上で、自由契約選手公示、ただちに育成選手契約となるのだろう。例えば脇谷は推定年俸2,600万円の育成選手ということになるが、支配下選手であった昨年2011年の推定年俸は4,400万円。約40%の年俸ダウンとなるが、自由契約となった後の再契約であるので減額制限が適用されない。むしろ長期の故障で試合出場が見込めない状態での推定年俸2,600万円なら球団事情で育成選手になるということへの迷惑料込みと考えればそこそこの厚遇と言えよう。その意味では同じく2011年まで支配下登録されていたカープの菊地原毅が推定年俸3,000万円から推定年俸600万円に下げられたのは気の毒な気もする。
現在、ファイターズを除く十一球団が育成選手を保有している。語弊はあるかもしれないが、拡大解釈とも思えるこうした選手を育成選手契約にする措置をとることで、今後も育成選手の人数は増え続けるかもしれない。ファイターズですら、故障選手を育成選手契約するかもしれない。選手からすれば、故障したからはい、さようならと言うケースが減るので反発も少ないだろう。どこからもこの手法に反発が来ない事も考えられる。ただ、育成選手を所有するには支配下選手が65人以上在籍していなければならないのだから、支配下選手枠の空きは最大でも5人。シーズン中の緊急補強用の枠としても考えられている訳だから、実質的には狭き門だ。しかも、故障の回復した育成選手を支配下選手として再登録する際に、代わりに支配下選手を育成選手にする訳にはいかない。これには選手会からクレームが付く可能性がある。そうなるとMLBの「故障者リスト」の様な別枠を設けようという動きに発展するかもしれない。
現在育成選手を最も多く抱えているのはジャイアンツとホークスでそれぞれ23人。特にこの制度の導入に際しての旗振り役を務めたジャイアンツは毎年積極的に育成選手ドラフトで指名を続け、その中から山口鉄也と松本哲也が新人王に輝き、ウィルフィン・オビスポは日本シリーズの大舞台で先発して勝利投手になる活躍をした。だがそのオビスポが2010年シーズン限りでファイターズにトレードされ、2011年限りでファイターズから自由契約となった。松本も新人王受賞後、極度の成績不振に泣かされており、育成選手出身で安定した成績を続けているのは新人王受賞にとどまらず、四年連続60試合登板を達成した山口くらい。他球団ではホークスの山田大樹、マリーンズの岡田幸文らが育成選手出身の成功例として脚光を浴びているが、まだまだ日が浅い。
ジャイアンツで言えば、今オフに11人もの育成選手がユニフォームを脱いでいるが、そのうちの4人もが一軍どころか二軍のイースタン・リーグ公式戦に一度の出場もないままにユニフォームを脱いでいる。ジャイアンツはトータルで考えて、育成選手制度を有効に活用していると言えるのか疑問を挟む余地があると思う。昨シーズン途中に支配下登録された福元淳史と山本和作は一軍登録されることがなかった。山本に至っては故障をして再び育成選手に逆戻りだ。
ただジャイアンツはそれでも山口、松本、オビスポという例がある。そしてこれまで述べてきた様に、育成選手制度は拡大解釈されて新たなステージに向かおうとしている。育成選手の保有制限がないことを考えると、この制度も結局かねのある球団に有利な制度と言えると思う。極論すれば、ジャイアンツは下手な鉄砲も数打ちゃ当たる的に山口が当たった様にも思える。
旗振り役を務めた清武英利前代表は去ったが、新たなステージでもまたジャイアンツが有利にこの制度を使用するかもしれない。既に脇谷の処遇が噂される様にFA補強の人的補償逃れだとしたら、ここでも他球団はジャイアンツにしてやられたことになる。
最後にもう一つ。実は育成選手に対して球団は一年中拘束できる。支配下選手に対しては12月と1月はチームの指揮下での練習を行えないが、育成選手に関しては統一契約書に定める参稼報酬の対象となる期間が一年中である(前出の規約の第7条②)ので、12月と1月にコーチらによる指導が可能。ジャイアンツは2010年から12月に合同練習を実施している。拡大解釈が大手を振ってまかり通るのも如何なものかと思うが、清武氏もいない事だし、各球団は知恵の絞り合いで有利に立てるところを探すべきであろう。
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