我、「球界の秘境」についに到達…
一部のプロ野球ファンの間で「球界の秘境」と呼ばれている場所がある。カープのファームがウエスタン・リーグのホームゲームを行う、山口県の岩国市にある広島東洋カープ由宇練習場だ。カープの本拠地、マツダスタジアムがある広島県の隣県、山口県にあると言うだけでも凄いが、ついに敗戦処理。は今日(7日)その「球界の秘境」に足を踏み入れた。
球場の印象などは5月2日にアップする予定の「敗戦処理。が生観戦した野球場」で紹介するとして、8年ぶりに生観戦したウエスタン・リーグ公式戦、カープ対タイガース戦の観戦記にお付き合いいただければ幸いである。
(写真:第四打席でセンター前に安打を放つタイガースのドラフト1位ルーキー伊藤隼太。この日は4打数1安打で、この回を最後に途中交代した。)
ファーム日本選手権で、ウエスタン・リーグの優勝チームとイースタン・リーグの優勝チームとの試合を生観戦するのならここ三年間続いている敗戦処理。だが、ウエスタン・リーグに所属する球団同士の対戦、即ちウエスタン・リーグ公式戦を生観戦するのは2004年の8月以来だから約8年ぶりだ。あの時は合併騒動の渦中にあったオリックス・ブルーウェーブのファームのサーパスと、大阪近鉄バファローズのファームの対戦をその年限りで閉鎖するという藤井寺球場での観戦だった。
今日はカープ対タイガース。正直に言ってどちらかを応援している訳ではないのだが、ホームチームに敬意を表するのと、タイガースの話題のルーキー、伊藤隼太の打席が観易いようにと、ネット裏と三塁側の間に陣取った。目の前にはカープの控え選手の素振りスペースがあり、その分グラウンドが遠く感じられるのは残念だった。
スターティングメンバーが発表された。恥ずかしながら、聞き馴染みのない選手が大半だった。
タイガース
(遊)坂克彦
(右)伊藤隼太
(左)林威助
(三)野原将志
(一)森田一成
(中)中谷将大
(二)荒木郁也
(捕)清水誉
(投)白仁田寛和
カープ
(二)安部友裕
(遊)菊池涼介
(左)天谷宗一郎
(三)バーデン
(一)岩本貴裕
(中)迎祐一郎
(右)土生翔平
(捕)磯村嘉孝
(投)武内久士
敗戦処理。がよく観戦するイースタン・リーグは近年ではセのチームのホームゲームでもDH制を採用しているが、ウエスタン・リーグはセのチームのホームゲームではDH制を採用していないようだ。
先制したのはカープだった。
一回裏、先頭の安部友裕がライト前に運び、無死一塁。二番の菊池涼介はバントの構えで揺さぶり、安部が二盗を試みるが盗塁失敗。しかし菊地が四球を選ぶと、続く天谷宗一郎が豪快に右中間を破り、一塁から菊池が一気に生還。なお先制のホームを踏んだ菊池は特にクロスプレーで捕手と接触したわけでもないのに次の守備から退いた。
カープは三回裏にもたたみかけた。
一死から天谷が今度はセンター前に運んで出塁すると、ブライアン・バーデンの打席で二盗。バーデンが渋くライトの前に運んで一、三塁とすると、五番の岩本貴裕は詰まらされながらも、やや前進気味の三遊間を破る安打で天谷が還り2点目。さらに迎祐一郎もセンター前に落として3対0とした。
迎のセンター前安打でタイガースのセンターの中谷将大は一塁走者の岩本の三塁進塁を阻止しようと三塁に送球するが間に合わず。この間に打者走者にも二塁に進まれてなおも一死二、三塁とピンチを拡げてしまった。
中谷は二年目の選手。今春のキャンプで和製大砲候補としてクローズアップされた。本職は捕手だが打撃を活かす方針なのか外野手で起用されている。外野手としての適性をアピールしたいがための補殺狙いの送球だったのかもしれないが…
だがここは白仁田寛和が踏ん張り、土生翔平を二塁ゴロ、磯村嘉孝をショートゴロに打ち取ってさらなる追加点を防いだ。
カープの先発武内久士は立ち上がりから飛ばしていた。前日一軍でノーヒットノーランを達成した前田健太を意識したわけでは無かろうが、序盤3イニングはパーフェクト、3奪三振と好スタート。カープの本拠地とあってカープファンからは「マエケンに続け!」との声がかかる。四回表に坂克彦に初安打を浴びた時には「あーあ」と嘆くファンまでいた<笑>。
無死一塁で二番に入っているタイガースのドラフト1位ルーキー伊藤隼太が打席に入る見せ場だったが、タイガースベンチがヒットエンドランのサインを出したものの伊藤隼の打球は二塁手の真正面に転がり、併殺打となって流れを止めてしまった。
そんな絶好調を感じさせる武内だったが、五回を被安打2で無失点に抑えてマウンドを降りた。一方の白仁田は3失点後も続投していたが、五回裏に先頭のバーデンに左中間を破られて、その後二死まで漕ぎつけて左打者の土生を迎えたところでサウスポーの松崎伸吾に交代。カープも土生に代打井生崇光を送るが、平凡な三塁ゴロに仕留められた。
武内の降板がもったいないな…と思われた六回表、カープのマウンドには一軍でも馴染みのあるサウスポーの大島崇行が上がった。ところがこの大島、確実に抑えなければならない左打者の坂と林威助に安打を打たれた二死一、三塁から野原将志に豪快にレフトスタンドに放り込まれ、試合は一瞬のうちに3対3となった。
この後は両軍の継投策が決まり、どちらの打線もこれといったチャンスを作れぬままイニングが進む。特にカープの育成選手で、七回と八回のマウンドを守った池ノ内亮介の威勢の良い投球が目を引いた。その池ノ内から伊藤隼が第四打席となる八回表の打席でセンター前に運んでこの試合の初安打を放った(冒頭の写真)が、この回の攻撃を終えると交代した。
マット・マートンの故障で開幕から一軍での出場機会を得ることが出来た伊藤隼だったが、2試合5打数0安打に終わり、マートンの復帰と入れ替わっての二軍落ちとなった。この日は三塁フライ、二塁ゴロ併殺打、三振、センター前安打の4打数1安打。いきなりプロの壁に突き当たったようだが、どうかファームに染まらずに再び一軍に戻って欲しい。
そして3対3の同点で迎えた九回表、カープのマウンドにはかつての守護神、永川勝浩が上がった。通算164セーブで歴代9位のベテランだが、故障などもあって近年はファーム暮らしが続いている。今日の登板も簡単に二死を取ったところまではさすがと思わせたが、中谷に死球を与えて走者を背負うと、荒木郁也には一、二塁間を綺麗に破られて一、三塁のピンチを招いてしまった。代打の野原祐也をショートフライに打ち取ったものの、とても上から目線での見下ろした投球とは言えなかった。
同点の九回裏、タイガースは育成選手の玉置隆を投入した。こちらも短いイニングを球威で抑え込むタイプのパワーピッチャーとして定評のある投手。カープが下位打線だったとはいえ、三者凡退にねじ伏せた。
十回表、再びカープ側の三塁側スタンドが沸いた。ブルペンがファウルグラウンドにあるということもあるが、永川に代わってマウンドに上がったのが今季から育成選手契約に回された河内貴哉だったからだ。河内は一死から坂にセンター前にポテンヒットを浴び、内野ゴロで二塁に進められて一打勝ち越しのピンチを招いたが、林威助を打ち取ってピンチを逃れた。
そして十回裏、別の意味でカープ側スタンドからどよめきが起きた。
タイガースの七番手に、かつてジェフ・ウイリアムス、藤川球児とともにタイガースの勝利の方程式の一角を担ったJFKの一人、久保田智之の名が告げられたからだ。久保田は藤川球児の前を投げていた当時のように、ちぎっては投げ、ちぎっては投げという感じで投げ込んでくるが、悲しいかな球威があの当時ほどではない。だから一軍経験者の天谷には軽く引っ張られてライト前に運ばれたし、バントで進められて二死二塁とサヨナラのピンチを作るとベンチから岩本を敬遠する指示を出された。左打者で大きいのも打つ岩本を避けて右の迎、井生といったところで勝負しようと思ったのだろうが迎に粘られて四球を選ばれると、続く井生にもツーナッシングから粘りに粘られてフルカウントから押し出しのサヨナラとなった。
ツーナッシングからボール球とファウルになる投球が続いていたが、ボールと判定された投球で捕手が悔しそうなそぶりを示したのが無かったから、ストライクとボールがはっきりしていたのかもしれない。迎にしても井生にしてもパワーヒッターではないのに久保田は力のあるストレートで空振りを取る事が出来なかった。
T 000 003 000 0 =3
C 102 000 000 1×=4
T)白仁田、松崎、石川、加藤、横山、玉置、●久保田-清水、岡崎
C)武内、大島、池ノ内、永山勝、○河内-磯村
本塁打)野原将1号3ラン(大島・6回)
最終回らしかった十回裏、素振りスペースから赤松真人が呼ばれた。今日三番を打った天谷は3安打と活躍したが、赤松はスタメンで出ることすらままならないのだ。カープの外野陣も層が厚くなったものである。ベテランの嶋重宣をライオンズにトレードで出してもこの陣容である。丸佳浩、松山竜平もこの過酷な競争の中から一軍を射止めたのだろう。
カープでは九回に永川勝、十回に河内が登板した。永川勝の実績については既に触れたが、カープ黄金時代のエース、北別府学の「背番号20」を受け継いだ投手だ。河内も2010年から育成選手となって三桁の「背番号124」を付けているが、ドラフト1巡目で2000年に入団してから、これまた黄金時代の左のエース、大野豊の「背番号24」を受け継いでいた。ともに補強重視の球団なら既に整理されていてもおかしくない立場だが、何とか再びのチャンスをと投げ続けているようだ。何とかもう一度一軍のマウンドで脚光を浴びてもらいたいものだ。
一方のタイガースも同点の九回裏にマウンドに上がったのは育成選手の玉置隆。支配下登録の選手として2004年のドラフト会議で9巡目に指名され、故障などもあって育成選手契約に回されている。拙blog2月1日付【敗戦処理。ブログ6周年記念】NPB48を無理矢理結成してみました。 にコメントをいただいた観阿弥世阿弥さんによると、久保田どころか藤川球児の後釜を狙える存在とのことだったが、確かに球の勢いには目を見張るものがあった。
そして十回に登板した久保田智之。JFKの一角としての実績は今さら説明の必要も無かろう。だがNPB最多記録になる2007年の90試合登板に見られる登板過多が響いたのか近年は精彩を欠いている。
永川勝にしろ、久保田にしろ、チームのために投げまくったあげくが現状だとしたら、今、カープとタイガースに限らず、クローザー、あるいはセットアッパーとして連日マウンドに上がっている投手達は永川勝予備軍、久保田予備軍なのかもしれない。球団としては後任が確立されれば問題は解決ということになるのかもしれないが、それでは選手は将棋の駒なのかという疑問がわく。ファンとして出来ることは何年か酷使に耐えてチームに貢献した投手が新しいシーズンで調子を崩したからといって「○○劇場」とか「自作自演」などと茶化すお約束に乗らないことだろう。今年野球殿堂入りを果たした故津田恒実元投手の最後の登板もクローザーとしては悲惨な出来であったが、その後のこともあってさすがに誰もあざ笑ったりしないが、もしも大病→他界という結末でなく単に故障、フェードアウトだったらネタにされていたことだろう。
JR山陽本線の由宇駅からタクシーで球場に向かったときにはこの景色の先に本当にプロ野球の試合を行う球場があるのかと思ったが、その先の秘境には一プロ野球ファンとして正視しなければならない現実があった。
熱心なカープファンに囲まれてのどかな気候の中での生観戦だったが、わざわざ来た甲斐があったというものだ。
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コメント
西 清治様、コメントをありがとうございました。
> 実はわたしも今年3月に教育リーグを見に行きました。山の中のせいか、結構寒かったです。
HARA88さんは8月の中旬に行って無茶苦茶暑かったそうで、西さんは3月でまだ寒かった…お二方には申し訳ないですが、良いタイミングで私は行きましたね<笑>。
> その時はスタメンで天谷と赤松が出ていて、途中から齋藤悠葵が登板してました。どの選手も早く1軍で見たいものです。
初めて生で観る選手も多く、本当に新鮮に感じられました。そう何回も行ける場所ではありませんが、いい観戦になりました。
投稿: 敗戦処理。 | 2012年4月18日 (水) 22時17分
敗戦処理。さん、こんばんは。
実はわたしも今年3月に教育リーグを見に行きました。山の中のせいか、結構寒かったです。その時はスタメンで天谷と赤松が出ていて、途中から齋藤悠葵が登板してました。どの選手も早く1軍で見たいものです。
投稿: 西 清治 | 2012年4月18日 (水) 00時11分
HARA88様、コメントをありがとうございました。
> 時期的には4月の上旬ですからまだいいのですが、私が由宇球場へ行った日は一昨年の8月の中旬でしたからね。あの時は無茶苦茶、暑かった…。
正直そこまでは考えていませんでした。
実は広島駅で新幹線から山陽本線に乗り換えるときに通り雨が降っていて焦ったのですが、試合中は観戦には心地よい気候でした。
> それにしても永川勝と久保田が同時に出るとはね。私も昨年、神戸サブ球場でウエスタンリーグのオリックス対阪神戦の試合で小松と安藤の投げ合いを生で観ました。
特にカープの本拠地ということもあって、永川勝への暖かい歓声が多かったです。ああいうビッグネームが出るとスタンドにも緊張感が漂いますね。
あと、カープのスタメンですが、天谷とバーデンの打順が逆だったら一番から三番まででAKBになっていたのでもったいないなと思いました。
> 次は雁ノ巣ですね…(笑)。
行ってみたいですね。
投稿: 敗戦処理。 | 2012年4月 8日 (日) 21時47分
観戦お疲れ様でした。
時期的には4月の上旬ですからまだいいのですが、私が由宇球場へ行った日は一昨年の8月の中旬でしたからね。あの時は無茶苦茶、暑かった…。
それにしても永川勝と久保田が同時に出るとはね。私も昨年、神戸サブ球場でウエスタンリーグのオリックス対阪神戦の試合で小松と安藤の投げ合いを生で観ました。
次は雁ノ巣ですね…(笑)。
投稿: HARA88 | 2012年4月 8日 (日) 18時59分