相手から恐れられない第76代四番打者…
まるでVTRを見ている様だった。いや、6日の対ホークス戦より露骨だったかもしれない。
3対2と1点リードしていた九回表に同点に追いつかれての九回裏、ジャイアンツは先頭の長野久義が三塁ゴロ敵失で出塁すると、藤村大介が送って一死二塁。ここでライオンズは三番の坂本に対して敬遠策。一死一、二塁と塁を詰めて四番村田との勝負を選択した。
さかのぼれば6日の対ホークス戦。この日はビジターだったから表の攻撃ではあったが、3対1から追いつかれて同点で迎えた九回表、長野が死球、藤村犠打の一死二塁からホークスバッテリーは坂本との勝負を避け、村田との勝負を選択した。だがこの時は捕手の細川亨は座ったままで、明らかなボール球を投げさせていた。露骨に敬遠して村田を刺激しないようにと考えたのかもしれない。今日の様にホームゲームで裏の攻撃であろうと、先攻であろうと同点の九回に入る1点の重みは大きい。だからその1点をいかにして防ぐかに腐心するのだろうが、その結果の選択肢が四番打者との勝負という選択肢になることが敗戦処理。は寂しいのだ。
坂本との勝負を避けられるだけでも村田は舐められていると奮起の材料になるところだが、6日の対ホークス戦ではジャイアンツベンチまで村田に任せきれなかったのか、初球にダブルスチールをかけ、一死一、二塁から一死二、三塁とした。森福允彦、細川のバッテリーの警戒が薄かったこともあろうが、失敗した時のダメージを考えるとなかなかダブルスチールのサインは出せない。四番打者のバットに賭ける場面だ。相手から舐められ、味方からは信頼されない。これが「ジャイアンツ第76代四番打者」の実態なのかと考えると、敗戦処理。はチャンスが拡大した嬉しさより悲しさ、寂しさが上回った。
しかも、ダブルスチールの結果、一塁が空いたのにホークス側は村田を歩かせるそぶりなど見せない。満塁にして阿部慎之助、高橋由伸と左対左になる二人との勝負という選択肢もあろうが、ホークスバッテリーはあくまで村田との勝負。結果は村田がファウルで粘った末、センターへの犠飛でジャイアンツが決勝点を入れた。
今日もダブルスチールこそなかったが、MICHEALにまともに勝負され、追い込まれたものの何とか食らいついて左中間に運び、サヨナラの走者長野をホームに迎え入れた。
日本の十二球団で四番打者に「第○○代四番打者」と形容するのはジャイアンツだけ。第64代四番打者の清原和博は「日本で第○○代と言われるのは横綱と総理大臣と『巨人の四番打者』だけ」と言ってそのこだわりを語っていた。ONが四番を打っていた時代を幼少時に見ている敗戦処理。にもこの球団の四番打者に対するこだわりは共鳴する部分は大きい。
例えば現監督の原辰徳は現役時代、巨人の四番打者として立派な数字を残しているが、それでも一部のファンからは物足りなく映っていた。それは長嶋茂雄や王貞治、ONが巨人の四番を張っていた時代の印象で高い基準で四番打者観を持っているからである。本塁打を量産した王や、無類の勝負強さを発揮した長嶋と比較して「原はここ一番で弱い」と不満に思ったものだった。ONはどう考えても別格だったのでONと比較された原は宿命とはいえ気の毒だったが、後に原よりも四番打者らしい松井秀喜が君臨したことも重なって四番打者としての原の貢献度は埋没しがちになった。
ここ数年でもアレックス・ラミレスが不動の四番として君臨していた。三番打者として活躍した小笠原道大との“オガラミ”コンビの破壊力は相手チームにとって脅威となった。球団によっては「三番最強論」とか「つなぎの四番」が売りになる時代ではあるが、ジャイアンツの四番はそのどちらでもないはずだ。
だが現実には村田の前を打つ坂本は8日現在で得点圏打率がセ・リーグで2位の.413。村田の得点圏打率が同日現在.276だから雲泥の差だ。村田の後ろを打つ阿部の得点圏打率はさらに低い.263だが打率と本塁打数で村田を上回り、相手ベンチからは村田より坂本が、あるいは村田より阿部が嫌なのだろう。
村田の得点圏打率の低さは村田の実績を考えると異常だ。昨年の年間打率.253に対して得点圏打率は.196。セ・リーグの規定打席到達者で最低だ。2010年も年間打率.257に対して得点圏打率.250。2009年は年間打率.274に対して得点圏打率.375と勝負強さを発揮したが、この年は故障による欠場が響いて規定打席に達していない。つまりベイスターズで不動の四番打者でありながらトータルの打率と得点圏打率の差が開きつつある傾向の選手をジャイアンツはFAで獲得したのである。清武英利前球団代表はこの辺の傾向を察知して獲得見送りの方針を固めていたと言っていた。
敗戦処理。はONの名前を挙げてきたが、ジャイアンツはON以降も三番、四番ともに強打の大砲を連ねることが多い。張本勲&王貞治、ウオーレン・クロマティ&原辰徳、松井秀喜&清原和博、高橋由伸&松井秀喜、小笠原道大&アレックス・ラミレス。どのコンビも四番打者に不測の事態があれば、三番打者がいつでも代役を務められる遜色のない三番打者が前を打つ。その意味では現在の三番坂本は、村田の代役というイメージはまだない。おそらく何らかの事情で村田が四番を外れる時には阿部か高橋由が四番を打つだろう。でもその坂本には無類の勝負強さがあり、相手球団は今日と6日の様な場面で勝負を避ける。
村田は二度とも結果を出した。だが理想は村田がそうした場面で結果を出すことではなく、相手に坂本との勝負を余儀なくさせることだ。だが次、他球団との対戦で同じようなケースになったら再び相手ベンチは坂本敬遠、村田勝負という策を選ぶだろう。既に坂本はそれだけの恐怖感を相手に植え付けたということだ。
ジャイアンツの歴史が続く限り、村田の名は第76代四番打者として刻まれ続ける。が記録にも記憶にも残る存在になるかは村田が今日の様な場面で結果を出し続け、嫌でも坂本と勝負せざるを得ない状況を作ることだ。
既製品として出来上がった四番打者を獲得して、「つなぎの四番」では評価されないのがジャイアンツというチーム。ONは過去のものとしても、ラミレスや松井という生々しい存在と比較されるのだ。もちろん村田もその覚悟でジャイアンツを選んだのだろうが…。
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コメント
西 清治様、コメントをありがとうございます。
> 単純に、坂本が目の前で敬遠されて発奮しただけではないかと思います。チームは上昇傾向にあるのですから、しばらくこのままの打順で行くでしょう。同じようなシーンはこれからいくらでも起こるでしょうし、その時に同じようにしっかり結果が残せるか、もう少し長い目で見守ってもいいのでは?もともと地力のある選手なのですから。
なるほど。
チェンジアップさんのご意見も拝見し、確かに村田四番、阿部五番になってからチーム成績も上昇しましたし、坂本の方が恐れられるというのは問題にせよ、長い目で見なければ行けないのかもしれません。
ただ、チームの成績が良いのだから…というと、打率1割台の四番打者、中田翔も充分合格になってしまい、それはちょっと問題だと思います。
私はこのような性格ですので、単に勝ったからよかったとか、あるいは負けたからどうのではなく、長いシーズンを勝ち抜くために…という視点で、サヨナラヒットを打った選手であっても俎上に上げて論じる事はあると思います。
ドラゴンズ、強いですね…。
投稿: 敗戦処理。 | 2012年6月12日 (火) 00時19分
たいさ様、コメントをありがとうございます。
> まあ、村田批判は理解しますがw
繰り返しになりますが、たいささんには昨年のドラフトの件で信じがたいコメント返しをいただいたので、このコメントに関しても返信は控えさせていただきます。
以上です。
失礼致します。
というか、同じ事を何度も書かせないでいただきたい。
投稿: 敗戦処理。 | 2012年6月12日 (火) 00時06分
マートンlove様、初めまして。コメントをありがとうございます。
> どうして野球に携わる者は20年、30年も前の・・・。
極端な話、統一球で野球の内容が変わったのに、
何時でも昔の情勢にコダワッテいるのだろうか?
野球に携わるののが古い考えしか出来ないから、若者に見向きもされなくなる。
もっと新しい視野で我らに野球の現状を伝えなきゃいけないのに。
何時でも巨人中心の見方しか出来ないとは情けない。
すみません。「巨人の四番打者」を論じているので、どうしても巨人中心の見方になるのですが、あなたの言いたいこととこのエントリーの関連性が特に結びつきません。
統一球で野球の内容が変わったことによる新しい視野を今度お時間がありましたら、このエントリーのコメントとしてお願いします。
投稿: 敗戦処理。 | 2012年6月12日 (火) 00時01分
チェンジアップ様、コメントをありがとうございます。
> 敗戦処理さんは誰が良いと考えてるわけですか?4番。
理想は長野ですかね。
それと別に現状の村田を否定しているわけではありません。
FA宣言していた村田を、ラミレスに代わる四番打者候補として三顧の礼で迎えたわけですから、開幕四番こそ阿部でしたが、いずれこの日が来ると思っていました。
> こんばんは。ただ、4番が阿部から村田にしたら、巨人が浮上してるんですよね。
それは確かだと思いますが、必ずしも四番村田のバットでチームを引っ張っているとは言いがたい面があると思います。
チーム成績が好調だから、その一員である四番打者も評価されるというのでなく、理想は四番打者が引っ張って欲しい。
四番打者よりも怖い三番打者が敬遠されて回ってきたチャンスで打って、それで「四番が打ってチームが勝った!」ことになるのでしょうか?
むしろあの場面で村田が怖いから坂本と勝負と相手が選択し、それで坂本がサヨナラヒットを打つ様であって欲しい。それが四番打者の存在感だと私は思うのです。
野村克也氏がどういう四番打者観を持っていようと、原監督は適当に聞いておけば良いだけで、自分自身現役時代に1066試合も四番を打ち、聖域とまで形容した「巨人の四番」に自分で「こいつだ」と思った人選をしてくれればいいと思います。
投稿: 敗戦処理。 | 2012年6月11日 (月) 23時50分
敗戦処理さん、またまたこんばんは。こちらにもコメントさせていただきます。
単純に、坂本が目の前で敬遠されて発奮しただけではないかと思います。チームは上昇傾向にあるのですから、しばらくこのままの打順で行くでしょう。同じようなシーンはこれからいくらでも起こるでしょうし、その時に同じようにしっかり結果が残せるか、もう少し長い目で見守ってもいいのでは?もともと地力のある選手なのですから。
しかし、ドラゴンズは落ちそうで落ちないですね。スワローズ・タイガースはもう少ししっかりしないと(^^ゞタイガースファンのブログを見ると、彼らの首脳陣批判・選手批判は本当に手厳しいですよ。
投稿: 西 清治 | 2012年6月11日 (月) 23時16分
まあ、村田批判は理解しますがw
贅沢な話ですねw
現状村田が四番に入って打線が安定して機能して、勝ってるんだから。
阿部に戻して、四月の御通夜打線にするのが正解ですか?
それとも、他の四番適任者がいるのか?
現状、村田で勝ってるんだから、認めるべきしょうw
見識を疑いますね
投稿: たいさ | 2012年6月11日 (月) 14時57分
どうして野球に携わる者は20年、30年も前の・・・。
極端な話、統一球で野球の内容が変わったのに、
何時でも昔の情勢にコダワッテいるのだろうか?
野球に携わるののが古い考えしか出来ないから、若者に見向きもされなくなる。
もっと新しい視野で我らに野球の現状を伝えなきゃいけないのに。
何時でも巨人中心の見方しか出来ないとは情けない。
投稿: マートンlove | 2012年6月11日 (月) 11時00分
どうして野球に携わる者は20年、30年も前の・・・。
極端な話、統一球で野球の内容が変わったのに、
何時もでも昔の情勢にコダワッテいるのだろうか?
野球に携わるののが古い考えしか出来ないから、若者に見向きもされなくなる。
もっと新しい視野で我らに野球の現状を伝えなきゃいけないのに。
何時もでも巨人中心の見方しか出来ないとは情けない。
投稿: | 2012年6月11日 (月) 10時57分
こんばんは。ただ、4番が阿部から村田にしたら、巨人が浮上してるんですよね。
敗戦処理さんは誰が良いと考えてるわけですか?4番。
今春のキャンプで、ノムさんがTBSのS1の取材で、原監督と対談して、ノムさんが「4番は誰にするの?」と質問して、原は「阿部でいきます」と答えると、ノムさんは「長野がいいんじゃない?」と反論?しましたけどね。
ノムさんは「4番は右」という持論がありますし。そういう意味では村田はクリアしてますが。
投稿: チェンジアップ | 2012年6月10日 (日) 23時09分