東日本大震災復興支援「NPBベースボールフェスタ in 福島」
今回の企画が明らかになった時、「これは福島に行かなくては!」とまず思った。会場となる郡山市の開成山野球場にまだ足を踏み入れていなかったという興味があることと、ファンが一人でも多く集まれば、お金が落ち、いささかでも復興支援になると思ったからだ。
だが概要がより明らかになると、二日間、どちらの試合も整理券こそ必要なものの、入場無料とある。初日はNPBのOBオールスター対福島選抜(小学生、中学生、社会人=軟式野球)で二日目がNPB十二球団選抜対オール福島(大学生、社会人選抜)と、どちらも普通に考えれば有料試合になっておかしくない。それを無料にするということは基本的には地元の人達に無料で野球を見せて楽しんでもらうことを大前提に企画されたものだということが容易に想像できる。敗戦処理。のような東京在住の野球ファンがのこのこ駆けつけるべき企画では無いのではないかと思った。
ところが日本野球機構のHPの中の“東日本大震災復興支援「NPBベースボールフェスタin福島」開催について”の一文に“野球界でプロ、アマ一体となった試合などを開催することにより、全国へ情報を発信し、福島県の現状を正しく理解していただくと共に、風評被害の払しょく、他の都道府県からの来客により、微力ながら福島県内での経済効果を生むよう努力したいと思っています。” と書かれていたので、結果的には日帰りになったが、二日目のNPB十二球団選抜対オール福島を生観戦することにした。
要するに休みの日に自分が観戦可能な、行ったことのない場所で野球の試合があるので興味本位で行ったということだ<笑>。
開成山野球場は昨年の震災以前に決定していたNPBの日程の中でジャイアンツが主催する、対スワローズ戦とスワローズが主催する、対ジャイアンツ戦が別々に組まれていた。ジャイアンツ主催試合は宇都宮清原球場開催との二連戦の予定だったが、宇都宮清原球場が震災の影響で興行開催が無理な状態になり、ジャイアンツからの申し出があって開成山野球場での二連戦になった。結果として昨年は公式戦三試合が開催された。もちろん今年も8月30日にジャイアンツ主催の、対ドラゴンズ戦の開催予定がある。この試合では入場者全員に例の橙魂ユニが配布され、選手らも着用するらしい。県内には他に福島県営あづま球場や、いわきグリーンスタジアムといった大規模な野球場があるが、プロ野球開催を誘致する力は開成山が先んじているのだろうか。
蛇足ながら福島県ではないが、8月6日に同じ東北地方の日本製紙クリネックススタジアム宮城でザ・プレミアムモルツ球団と東北・ジャパンヒーローズの試合が行われる。
NPB十二球団選抜はジャイアンツの二軍育成チーフコーチを務める吉原孝介が監督を務め、カープの朝山東洋二軍守備走塁コーチと神奈川県出身ながら高校時代を福島県の学法石川高校で過ごしたマリーンズの川越英隆二軍投手コーチがコーチを務めた。
吉原監督は昨日のフューチャーズに続く二日連続の“監督”だ。
プロアマ交流試合らしく、試合前には両軍混ざってのシートノックも行われた。
ノッカーは主にNPB十二球団選抜の朝山コーチが務め、フィールドにはNPB十二球団のユニフォームと、東日本国際大学の選手を中心にしたオール福島の選手達が一緒に散らばり、これは壮観だった。
試合はNPB十二球団選抜の先発がタイガースのルーキー歳内宏明で、オール福島は東日本国際大学の西川和美。歳内は実家は兵庫県だが、昨年の3.11当時は福島県の聖光学院の二年生。被災者の一人だ。
昨夏の甲子園大会で福島県代表として甲子園出場を果たしながら二回戦で敗れた際に、チームのみならず福島県の皆さんに申し訳ないと泣いていた姿はあまり高校野球に思い入れの深くない敗戦処理。にも印象に残った。歳内は2イニングを無失点に抑え、プロに入って一段と成長した姿を福島県のファンの前に示すことが出来た。
一方、オール福島の先発、東日本国際大学の四年生、西川も初回、二死からジャイアンツの橋本到とゴールデンイーグルスの阿部俊人に安打を打たれて二死一、三塁のピンチを招くもアウト三つすべてを三振で奪う力強い立ち上がりを見せた。
だが、二回以降実力の差はいかんともしがたい現実が…。
三塁側で後攻めのNPB十二球団選抜は二回裏、DHで出場しているゴールデンイーグルスの井野卓が一、二塁間を破ると、続くマリーンズの神戸拓光が軽々とライトオーバーの先制2ランを放つ。
そしてその後もじわじわと点差を拡げる。
三回裏には四球で出た橋本が盗塁と内野ゴロで三塁に進み、二死からファイターズの加藤政義のライト前安打で1点を追加。
五回裏にはこの回から登板の二番手の日本大学工学部の三宅夏輝に対し、二死からオール福島の二塁手の悪送球と四球でつかんだチャンスに井野の代打、ドラゴンズの赤坂和幸がセンター前にタイムリーで4対0。
イニングの合間には東北地方にゆかりのある選手らからのメッセージが流れる。
岩手県出身のスワローズの畠山和洋の他、福島県出身のベイスターズの中畑清監督、ジャイアンツの鈴木尚広らのメッセージが流れた。
この時点で「やっぱり…」という空気が漂っている感じだったが、五回終了時のグラウンド整備の時間を利用して選手へのインタビューがなされた。
先発の歳内、先制本塁打の神戸、被災地出身だからか橋本がインタビューを受けた。内容は主にここまでの各自のプレイについて。
全く容赦をしないNPB十二球団選抜は七回裏、この回から登板の三番手の東日本国際大学の中條健佑に対し、一死から橋本が四球を選ぶと、続く阿部が左中間を破る三塁打で1点を加え、続く加藤がライトオーバーの2点本塁打。この後相手失策絡みの二死二、三塁から途中出場のカープの庄司隼人が一、二塁間を破り、この回計4点を奪い、8対0とする。
そして八回裏にもこの回から登板の四番手、これまた東日本国際大学の大西健太から先頭のライオンズの田代将太郎がセンターの頭上を超える三塁打で出ると、続く橋本が三遊間を破って9対0とした。
NPB十二球団選抜は先発歳内の後、スワローズの太田裕哉、ホークスの鈴木駿也と三浦翔太、ファイターズの植村祐介、ライオンズの平野将光と小刻みに繋ぎ、最終回はベイスターズの江尻慎太郎と無失点リレーで締めた。
オール福島は四回表に一死一、二塁のチャンスを作った他は二塁を踏むことが出来なかった。
【5日・開成山野球場】
福 000 000 000 =0
N 021 010 41× =9
福)西川、三宅、中條、大西-薗部、見目、荒
N)歳内<T>、太田<Ys>、鈴木駿<H>、三浦<H>、植村<F>、平野<L>、江尻<B>-鈴木郁<Bs>、吉田<D>、新沼<B>
本塁打)神戸<M>2ラン(西川・2回)、加藤<F>2ラン(中條・7回)
試合終了後、NPB十二球団選抜の選手がマウンド周辺に勢揃いし、冒頭の写真の歳内と、川越コーチと吉原監督が地元のファンにメッセージを送った。三人とも野球を出来るありがたさを強調していた。
勝敗に関しては実力差を考えれば、このような結果になるのはやる前から想像が付く。言うまでもないが、試合をすることに意義があるのだと思う。ただ、これが本当に“福島県の方々と野球を通しての交流を通じて、福島県に住む子供たちを勇気づける”ことになったのか、余計なお世話かもしれないがいささか気になる点があった。
歳内ら一部の限られた選手を除けば、子供たちにとっては知らない選手ばかり。少なくとも敗戦処理。の目の行き届く範囲の子供たちは試合の途中から試合への関心を失う傾向が見られた。この試合では攻守交代時のスタンドへのボールの投げ入れが行われなかったため、「ボール下さ~い」と叫んで子供たちが秩序無くスタンドの通路を走り回るという事態がなかったが、明らかに子供たちの多くは途中から試合に飽きてきた。なおかつ子供たちを連れてきた大人の方も「知らない選手ばかりだな…」なんて感じだから親子のコミュニケーションも少ない。
NPB側もこうなることを見越していたのか、試合の途中からスタッフが子供たち限定で選手の直筆サイン入りボールを配ったりしていたようだが、昨年の日付が書かれたスワローズ時代のジョシュ・ホワイトセルのサインボールがあったり、誰のか読めないサインボールをもらった子供が困惑したり、一人で何球ももらってきて、親御さんが「これじゃありがたみが薄れるな…」とぼやく始末。
また、試合終了後のメッセージにしたって、歳内以外は大人のファンも含め聞いているのか聞いていないのか…。
そして試合中、両チームの選手に分け隔て無く声援を送ったり、誰に対しても拍手を惜しまないのはNPBのレプリカユニを着た、あるいは県外から来たのではと思われる“野球ファン”だった。
ただ確実に言えることは、オール福島として参加したプレーヤー達にとってはより高いレベルの選手と試合を行えたことは必ずプラスになるであろう。この日の企画しか見ていないが、企画趣旨は素晴らしいのに、演出が不充分だったということか。
もちろん敗戦処理。がこんな印象を持ったのはたまたま敗戦処理。の付近がそうだっただけで、全体から見ればほんの一部だったのかもしれない。いや、そうであってもらいたい。
プロ野球選手が行くといっても、シーズン中では今日の様なメンバーが精一杯だろう。こういう企画は継続することが重要なので、来年も続けて欲しいが、今年と同じ事をやったのではダメだろう。
ただ、JR郡山駅から開成山公園に向かうバスターミナルにこんなノボリがあった。
敗戦処理。はもう決まっているのだと思っていたが、来年2013年のプロ野球オールスターゲームをこの開成山野球場で開催しようという動きがあるようだ。郡山駅からの道中にも何本かあったから、かなり本気だと思う。オールスターゲームならこの日の試合で感じたような物足りなさはほとんど杞憂に終わるだろう。
NPBは昨年も急遽日本製紙クリネックススタジアム宮城でのオールスター開催を決め、今年も岩手県営野球場で開催した。来年も被災地で開催する実現性は高いと思う。個人的にはもしも開成山野球場で復興支援の一環としてオールスターゲームを開催するのなら、今年のように月曜日に開催するのではなく、土曜日に開催して欲しい。子供たちが夏休みに入っている時期とはいえ、大人も含め一人でも多くの人が観戦、あるいは視聴できるようにして欲しいからだ。
そこまで配慮して、本当に復興支援と胸を張って言えるのではないか…。
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