素直に喜べない快挙!?ファイターズ宮西尚生が史上12人目の通算100ホールドを達成
2008年に入団以来、ファイターズで中継ぎ、セットアッパーとして投げ続けているサウスポー宮西尚生が18日のベイスターズ戦に二番手として登板。2/3イニングを無失点に抑えて入団以来通算100ホールドを達成した。山口鉄也、浅尾拓也、ジェフ・ウイリアムスらに次ぐ12人目の快挙。ファイターズでは武田久に次いで二人目。歴史が浅い制度とはいえ、現代の野球にマッチした記録だけに素晴らしい快挙と宮西を評価してあげたい。
だが、今日の100ホールド目が記録された状況を振り返ると、素直に喜んでいいのか、ホールドという制度そのものの問題点<!?>が浮き彫りにされる。
(写真:史上12人目の100ホールドを達成したファイターズの宮西尚生。達成前日の17日の登板時の写真)
主に先発投手には勝利投手という指標があり、抑え投手にはセーブという指標がある。先発投手、抑え投手に続いて中継ぎ投手の重要性がクローズアップされるにつれてホールドという指標が出来た。簡単にいえば、抑え投手として試合の最後だったらセーブが付くような状況(または同点)で試合の途中に投げた投手が無失点またはリードを保って降板した場合にホールドが記録される。その後で同点にされたり逆転されても有効で、先発投手、勝利投手、敗戦投手、セーブ投手以外に記録される。
宮西尚生は昨年まで通算97ホールド。100ホールド達成は時間の問題かと思いきや、体調不良で開幕から出遅れたこともあって、開幕から約一ヶ月後の4月27日の対バファローズ戦で今季2ホールド目を記録。通算99ホールドとして100ホールドに王手をかけた。
通算99ホールド以降の宮西の登板を抜粋しよう。
翌28日の対バファローズ戦では4対0とリードした七回表に宮西は登板。抑え投手が最終回1イニングを頭から抑えてセーブが付くのは3点差以内。この状況では宮西は抑えてもホールドが付かない。セーブの場合に3イニング以上投げれば点差に関係なくセーブが付くから宮西も中継ぎとして3イニング投げればホールドが付く…といいたいところだが宮西がこの試合で3イニング投げると試合を最後まで投げたことになるのでホールドではなくセーブが付く。
今月14日のドラゴンズ戦では3対2とリードしていた六回裏に三番手で宮西が登板。この回を抑えて降板すればホールドが記録される状況だったが、二死から代打の山﨑武司に同点タイムリー三塁打を打たれたため、チームのリードをフイにしたばかりか、自らの100ホールド目を逃した。
冒頭の写真は昨日(17日)の登板時のものだが、この時は3対5と逆転されていた状況での登板だったので、そもそもホールドの対象にはならない。この回と次の回、打者計三人を抑えて石井裕也にマウンドを託したがホールドの対象ではない。
そしてこの日(18日)のベイスターズ戦。3対3の同点で迎えた七回裏一死、左の代打松本啓二朗が登場した場面で先発の谷元圭介をリリーフした宮西は松本と荒波を抑えてこの回を無失点で終えた。この時点で宮西はホールドの要件を満たしているが、次の回も続投して勝ち越し点を献上するとホールドが付かなくなるのでこの時点では宮西のホールドは確定していない。
宮西は八回表の打席で稲葉篤紀を代打に送られたため降板が確定。だがこの回にファイターズが勝ち越すと宮西が勝利投手になる可能性が生じるため、ここでもまだ宮西にホールドは確定しない。そして稲葉の次の打者、陽岱鋼が勝ち越し本塁打を放ったため、宮西に勝利投手の権利が浮上した。宮西が勝利投手になれば、ホールドは記録されない。
そしてその裏、三番手の石井が一死満塁のピンチを招き、山崎憲晴に逆転タイムリー二塁打を浴び、この時点で宮西に勝利投手の権利はなくなり、かつ敗戦投手の可能性も無いので、宮西のこの試合の登板にホールドが確定されたのだ。
集計したわけではないが、宮西がこれまで積み上げてきたホールドはもちろんこんな皮肉なものばかりではないだろう。
チームが同点またはリードした場面で登板し、任された打者、イニングを抑えて次の投手につなぐ。いわゆる“勝利の方程式”の一員としてその役割を全うした積み重ねであることは明白である。
例えば、打者で節目となる通算○○記録を達成した選手が、たまたまその試合に敗れたら、記録達成の嬉しさとチームが敗れた残念さを両方含んだコメントを残すだろう。だが宮西の場合はチームが逆転されたことによってホールドが確定したのだから、本当に複雑な心境だろう。もちろん中継ぎ投手にスポットを当てるというホールド制度の趣旨を考えれば、後から投げた投手の結果でホールドが消滅するのは、先発投手の勝利投手の権利をリリーフ投手が打たれてダメにするのとは異なり、存続するというのは理解出来る。宮西は今日の登板でホールドが記録されたことに後ろ髪を引かれる思いをすることはないのだが、何とも罪作りな制度ではないか。
宮西は昨年までの五年間で、ルーキーイヤーから五年連続で50試合以上に登板してチームに貢献している。ルーキーイヤーからの五年連続50試合以上登板は岩瀬仁紀の14年連続(継続中)、秋山登の9年連続に続く3位タイである。2010年からは三年連続で60試合以上に登板している。近年、上位に定着しているファイターズになくてはならないサウスポーであることは言うまでもない。
ここであらためてホールドの定義をおさらいしよう。
◆ホールドとは
先発投手、勝利投手、敗戦投手、セーブ投手のいずれでもなく、自チーム最終守備イニングの3アウト目を取った投手(交代完了投手)ではない投手で、 1アウト以上を取る、 走者を残して降板した後、その走者が同点または逆転の走者としてホームインしていない、この状態で、以下のいずれかを満たした投手にホールドが記録される。
1、自チームがリードしている状況で登板し、以下のいずれかの条件を満たしリードを保ったまま降板する(セーブの条件に準じる)
A.3点以内リードの場面で登板し1イニング以上投球。
B..迎える2打者に連続本塁打を打たれたら同点または逆転される場面での登板。C..点差に関わりなくリードした状況で登板し3イニング以上投球。
2、同点の状況で登板し、以下のいずれかの条件を満たして降板する。
A.同点のまま失点を許さずに降板する(自責点が0であっても失点すれば成立しない。また、最終守備イニングを投げ終えて引き分けの場合には上記「交代完了」となるので、失点が0であってもホールドは成立しない。)
B.登板中に自チームが勝ち越した場合、リードを保って降板する。
該当者が複数の場合は該当者全員にホールドが記録される。また、チームの最終的な勝敗に関係なく記録される(ホールド条件を満たして降板した後、チームが逆転負けを喫した場合でもその投手にはホールドが記録される)。
この基準からわかることは、相手にリードされている時に登板する投手にはホールドが付かないのだから、基本的に同点か、リードしている時にマウンドに上がるリリーフ投手でないとホールド数を稼げないことになる。
また、昨今は中継ぎ投手でもイニング単位での登板(回の頭から登板し、その回が終わるまで投げて次の回には頭から他の投手に代わる)となる傾向が多く、特に“勝利の方程式”を担うセットアッパーと呼ばれる投手は基本的にはリードした場面で七回の1イニング、あるいは八回の1イニング登板を原則にする投手が多い様だが、僅差でリードした試合に登板して1イニングを抑えた時点でホールドが記録されるのではなく、厳密に言えば降板した時点で(監督が球審に交代を告げた時点)ホールドが記録されるのだ。
繰り返すが降板後に別の投手が引っ繰り返されて逆転負けを喫してもホールドは記録されるが、その投手が続投して同点にされたり逆転されたらホールドにはならない。
前述した4月28日のファイターズ対バファローズ戦で4点リードした七回表に登板した宮西には、1イニングを抑えて降板したのではホールドが付かないと説明したが、この試合で宮西は1失点したため、4対1と3点リードに代わった八回表に登板した増井浩俊にはホールドの条件が整った。増井は2失点して4対3と1点差に迫られるがホールドが記録され、最終回を締めた武田久にはもちろんセーブが記録された。
その増井は昨年シーズン、ホールドと救援勝利を合計したホールドポイントを50ホールドポイント記録した。日本プロ野球での初めての記録だった。
50ホールドポイント目はシーズンの最終戦で達成。既にファイターズはリーグ優勝を決めていたこともあって増井に節目の記録を達成させてあげようと、いつもの八回を待たず(終盤にリードまたは同点とは限らないから)、五回表に4対6から7対6と逆転するとその裏に増井を投入した。増井はこのイニングを被安打1ながら無失点に抑えた。
その直後、ファイターズの畑中久司広報担当( @FsPR_Hatanaka )は、ツイッターで増井が50ホールドポイントを達成したとツイートした。だがこれはこれまで書いた通りフライング。厳密にいえば降板した時点で増井にはホールドが付く。増井が続投して同点あるいは逆転されたらホールドが付かないからである(再逆転して勝利投手になればホールドポイントになる可能性も無くはないが)。このフライングに関しては敗戦処理。( @haisenshori )を含めて何人かが指摘したが畑中広報は特に反論、訂正をしなかった。
「増井は1イニング限定だよ」、「記録のために登板させたのだからここで交代に決まっている」そんな声も出そうだったが、それはあくまでもルール上の行為ではない。次のファイターズの攻撃が終わり、栗山英樹監督が増井の交代を告げて初めて増井にホールドが記録されるのだ。うがった見方をすれば、いわばインサイダーである広報担当者がその時点で「ホールド達成」とツイートするのは球団の機密(投手交代のタイミング)をツイッターでばらしたことになる<苦笑>。実態はホールドのルールを勘違いしたか、早とちりしたかのどちらかだろうが…。
その点では宮西の100ホールド達成をツイートした畑中広報も複雑な心境だったろう。あのまま陽岱鋼の勝ち越し本塁打で逃げ切って「宮西投手が今季初勝利!」とツイートした方がよっぽど嬉しかったろう。
P.S.
6月10日追記
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