選手に謝罪するGM
中村勝広GMは19日の久保康友との直接交渉後、次のように語った。
「今年を振り返って、彼には非常に迷惑をかけた。適材適所といった意味では、果たしてクローザーが良かったのかというところで…。チーム事情でこうなったことには、編成の責任者として詫びておいた。謝罪しておきました」
(11月20日付デイリースポーツ1面=冒頭の写真より)
久保は今季、FA移籍した藤川球児に代わるクローザーに指名されたものの期待された結果が残せず、5月に二軍降格。再昇格後は中継ぎに転じていた。日刊スポーツによると久保をクローザーに指名したのは和田豊監督以下、現場の首脳陣だそうだが、中村GMとしてはオフに藤川の代役として獲得を目指した五十嵐亮太の獲得に失敗したため現有戦力からクローザーを選ばなければならなくなったのは編成部門のトップである自分の責任だということだそうだ。
だが、報道によると久保との事前交渉では二年契約2億円(一年あたり1億円)という、今季推定1億2500万円の選手に対する実質的な減俸だったところをこの日の交渉では現状維持の二年契約に条件変更、さらに来季は先発での起用とも確約したという。何のことはない。このオフのFA戦線で他球団からFA宣言した投手の獲得に苦戦しているから久保を説得しようというだけだろう。そのための誠意として年俸の見直しと謝罪をしたのだろう。
個人的な感想を言わせてもらえば、補強なんて望み通りに出来るとは限らない。現場の監督は与えられたメンバーでやり繰りするしかない。和田監督が現有戦力の中から久保をクローザーに指名しただけだ。5月に二軍落ちした久保は6セーブにとどまったが、久保に代わってクローザーを務めた福原忍は14セーブを挙げたのだから、結果論かもしれないが和田監督の人選ミスと言える面もあるだろう。中村GMは自分の編成面での不備を詫びた形だが、もしも久保に謝らなければならないとしたらそれはGMではなく久保を選んだ和田監督ではないのか?
通常こういう場合、編成及び現場の人選ミスがあっとしてもそれには触れず、謝罪ではなく感謝という形で久保に接するのが組織としての体裁であろう。「不慣れな役割だったが、よく頑張ってくれた」とねぎらう形で謝意を感謝に置き換えるのが普通だろう。GMや監督が安直に自分の非を認めたら組織がなり立たなくなるかもしれない。それがタテ社会であろう。もちろん黒を白にしろといっているのではない。致命的なミスをしたのならばGMや監督は辞任という形で責任を取るしかないのであり、謝罪というのは改善を伴わなければ意味がない。
その意味では中村GMは潔いとも言えるが、果たして編成部門の長としては…
中村GMはブルーウェーブでもGM職に相当する球団本部長を務めていた。合併後も同職に付き、骨を折っていた。2004年のシーズン後、中村本部長は戦力の見極めをし、投手の吉井理人を戦力外にしたが、球団合併に伴い新監督に就任した仰木彬は吉井を春季キャンプに帯同させてテストをし、採用を決めた。吉井は仰木監督の男気に応え、6勝を挙げて復活を示した。フロントのトップが戦力外と判断した選手を監督が採用するという、現在のGM制度とは180°逆行した編成をされたのがバファローズ時代の中村本部長である。
その中村がタイガース球団の初代GMに就任した。振り返れば過去にはタイガースほどフロント、OBなどが入り乱れて現場を混乱させた球団はないだろう。現在ではファイターズ、ジャイアンツ、ホークスが採用しているというBOS(ベースボール・オペレーション・システム)を吉村浩氏が最初に売り込んだのがタイガースと言われている。吉村氏から説明を受けたタイガースのフロント幹部は、評価は出来るが選手達を説得出来る自信がないとして採用出来ないと返事したそうだ。吉村氏は次にファイターズに売り込んだ。ファイターズでは自軍の選手だけでなく、ドラフト候補のアマチュア選手、トレード安堵の参考資料としてライバル球団の選手にBOSの基準で評価をしているという。これはあくまで氷山の一角かもしれないが、そうした旧態依然としたフロントに責任と権限を与えられてチームを編成するGM職が導入されたのだ。そしてその初代GMに中村が指名されたのだ。
中村GMは名前の“勝広”をもじって“負広”と揶揄されるが、タイガースを昭和60年(1985年)に日本一に導いた吉田義男監督と2003年にリーグ優勝に導いた星野仙一監督の間の暗黒時代に監督を務めた中では唯一チームをAクラスに導いた監督である。
余談だが敗戦処理。の古い友人のタイガースファンの女性は監督時代の中村を鳴尾浜の自主トレで目撃したことがあるというが、練習を視察するスーツ姿の中村監督はシーズン中のユニフォーム姿より格段に格好良かったそうだ。彼女は「監督よりフロントの方が似合うかもしれない」と笑っていたが、ついにそれが現実となった!?
中村GMは現役時代は主に「一番・二塁手」として活躍した生え抜きのスター選手だった。現役時代の晩年には兼任コーチも務め、将来が約束されたエリートだった。
また、ごく一部の人しか口にしないので真偽に関しては眉唾ものだが、GM職として最初の功績は西岡剛や福留孝介の獲得…ではなく金本知憲を円満引退させた事とも言われている。まだまだ現役に未練たっぷりだった金本に現役引退を決意させるのに水面下で暗躍したのが中村GMだったという。うがった見方と言われればそれまでだが、金本の引退も補強の一つと言えよう。
その意味では今日(22日)の各種報道にあるように韓国プロ野球のセーブ記録を持つオ・スンファン(呉昇桓)の獲得にタイガースは成功。これで来季、第二の久保が出ることは避けられよう<笑>。
十二球団で最も多くの“自称GM”が存在する球団で本当にGMを務めるのは並大抵の事では無いだろう。最も抵抗勢力の多い球団かもしれない。だからといって、FAで出ていこうとする選手を引き留めるために謝罪をしてしまうのが良いのかどうかはわからない。久保にはベイスターズが強い関心を示していると言うし、久保に中村GMが謝罪したという事実は久保に代わってクローザーを務めた福原や、福原転向後の中継ぎを強化した安藤優也に契約更改交渉で強気に出られるのが目に見えている。ただ事実として、今季はジャイアンツの独走を許したとはいえチームが昨年の5位から一気に2位に浮上したのだ。
成績再浮上にどれだけGMの力が影響したかは一概にはわからない。タイガースの「FAに偏重した補強は巨人の周回遅れ」という声も相変わらず聞こえるが、来季も目を離せない球団であることは間違いあるまい。
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コメント
チェンジアップ様、コメントをありがとうございます。
> 実際、疫病神な印象しか受けないですよ。
確かに監督として92年に二位になりましたけどね。6年もやったんですよね、あの時。阪神の中ではかなりの長期政権かと。
その二位という+より2球団でのGMとしての姿勢や2位以外の年の成績など暗黒時代の象徴的なとこを見ると、”負広”と揶揄されるのでは、と思いますけどね。
当時のバファローズ(ブルーウェーブ)にしろタイガースにしろ、今風にいえばフロントと現場の役割分担が明確でない共通点が見受けられます。
バファローズはホークス、マリーンズで実績を挙げた瀬戸山氏を招き、タイガースは初めてGM制度を採用しました。
これで誰が責任を取ればよいかはっきりさせたという見方もあるようです。
> この久保に謝った件の見出しだけで、「やっぱり負広だなあ」と思い浮かんだ自分がいますし(笑)
おそらく、“GM制度を採用することに意義がある”段階なのでしょう。GMを査定する人が必要ですね。
投稿: 敗戦処理。 | 2013年11月23日 (土) 12時46分
おはようです。記事にもある通り、ホントに阪神&オリックスファンから、「負広」と揶揄されてますね。
実際、疫病神な印象しか受けないですよ。
確かに監督として92年に二位になりましたけどね。6年もやったんですよね、あの時。阪神の中ではかなりの長期政権かと。
その二位という+より2球団でのGMとしての姿勢や2位以外の年の成績など暗黒時代の象徴的なとこを見ると、”負広”と揶揄されるのでは、と思いますけどね。
この久保に謝った件の見出しだけで、「やっぱり負広だなあ」と思い浮かんだ自分がいますし(笑)
この人の良さが分からないんですけど。
投稿: チェンジアップ | 2013年11月23日 (土) 04時47分