2013年、この記念すべき年に加藤良三…そして熊崎勝彦新コミッショナー体制へ…
2013年という年は日本のプロ野球界にとって、後世に語り継がれる年になると思う。田中将大の24勝0敗という無敵ぶりと、その田中を中心に東北楽天ゴールデンイーグルスが球団創立9年目にして初めて日本一に輝いたこと。東京ヤクルトスワローズのウラディミール・バレンティンが長年破られなかった王貞治の年間本塁打記録を破ったこと。そんな年に汚点を残してしまったのが統一球問題だろう。加藤良三コミッショナーは「自分は知らなかった」と終始一貫して主張し、第三者委員会でも追及しきれなかったから本当に知らなかったのかもしれないが、だからといって責任は免れまい。敵前逃亡するかの様に先に辞任してしまったが、その加藤前コミッショナーが統一球同様に国際標準に合わせようとしていた“攻撃中にベンチ前での投球練習、キャッチボール禁止”が却下されて来季もこれまで通りとなった。
そしてその加藤コミッショナーの後任となる新コミッショナーが、田中の移籍問題とは対照的に注目の低い中、元東京地検特捜部長で弁護士の熊崎勝彦コミッショナー顧問に決まった。
(写真:加藤良三コミッショナーによって来季から禁止になるはずだった、攻撃中のベンチ前での投球練習、キャッチボールがこれまで通りとなり、来季も見ることが出来そうな通称“マエケン体操” 2013年3月撮影)
統一球導入の発想自体は決して誤りでなかっただろう。球団によって(基準の中とはいえ)飛ぶボールが使われているのを、大リーグや国際試合で使用するボールと同じレベルにしようという発想は敗戦処理。は誤りでないと思うし、実行に移した実行力はなかなかなものだと思う。だが採用した「統一球」が基準の下限より飛ばないものであり、なおかつそれをこっそり修正したのは加藤良三前コミッショナーが「不祥事とは思っていない」と開き直っても支持はされないだろう。ましてや自分の署名入りのボールである。上述したように第三者委員会を以てしても加藤前コミッショナーの“関与”を証明するには至らなかったのだが、その報告結果が出る前に敵前逃亡の如く辞任してしまった。テレビドラマだと「辞表」を渡された上司なりが「これは私の所で預かっておこう」等と言って簡単に辞めさせてもらえないものだが、オーナー会議であっさりと受理され、第三者委員会の報告に基づく処分が下されなかったのは残念だ。
ただ、同報告によると、修正された「統一球」は従来の球団別公認球に比べると反発力が低く、「飛ばない球」であることは確かなようなので、来季以降低反発の統一球として使用され続けるようだ。これは定着すれば加藤前コミッショナーの功績とされて語られるべきものなのであろう、一応。
加藤前コミッショナーは他にも、15秒ルールの厳密化や、スタンドにお客さんを入れてからは相手球団との私語禁止、プロ野球80周年事業として米国でのNPB開幕戦実施、国際標準に則った、攻撃中のベンチ前での投球練習やキャッチボール禁止、両リーグ事務局を廃止してコミッショナー事務局に統合、といった施策を打ち出した。これらから考えられることは国際標準に合わせることと経費の節減に尽力する姿勢は持っていたと言うことであろう。
だが、“スタンドにお客さんを入れてから相手球団との私語禁止”は完全に無視されている。ジャイアンツとタイガースのアメリカでの開幕戦は大赤字必至で中止になり、“攻撃中のベンチ前での投球練習やキャッチボール禁止”も結局見送られた。
冒頭の写真にはいわゆる“マエケン体操”を挙げたが、主に攻撃が二死になった時点で投手が開始するベンチ前での投球練習に関しては現場の猛反対によって実施が見送られたようだ。ファームでフレッシュオールスター以後の試合で実験的に禁止してみたが、慣れの問題もあってか、反発は相当だったようだ。
(写真:味方の攻撃が終わり、ベンチの中からマウンドに直接向かうホークスの東浜巨。2013年9月撮影)四年後のWBCでもルール通りに禁止されるのが濃厚だが、おそらくその時だけ合わせればいいという発想なのだろう。実行委員会では「むしろこのシステムを世界に発信すべし」という意見も出たという。
実際にはWBCにしろ、ポスティングシステムの代案の件にせよ、MLB側の方が交渉上手なのは議論の余地がないほど明らかだ。優秀な外交官だった加藤良三前コミッショナーの在任中にこの力関係を少しでも改善して欲しかったのだが、おそらく何も変わっていないだろう。来年1月1日付けで就任する新コミッショナーも経歴を見る限りでは対MLBというよりはNPB内でのコンプライアンス、内部統制の方に適性がありそうだ。過大な期待は禁物だと言うことをファンは学んでいるだろうから、就任があまり大ニュースにならないのだろう。
ところで、そのやりこめられたポスティングシステムに代わる新制度に、球団としての見返りが少ないからか最後まで反対したというゴールデンイーグルスの立花陽三球団社長が「田中選手からも、『ここまで私を育てていただいた球団、ファンの皆様、そして宮城をはじめ東北の皆様に対して、できる限りの恩返しをしたい。魅力ある球場、選手の環境面での整備を始め、引き続きイーグルスが東北のファンの方々に愛していただける球団であるように、できる限りの協力や寄付をしたい』というありがたい言葉を頂きました」 と発言したことが波紋を呼んでいる。
MLBは、この新制度での移籍金の上限を20億円と決めた以上、間接的にであっても球団は元所属球団にそれを超える金額を払うことは認められないとして、田中の寄付はそれに抵触するおそれがあるとの警告書を球団に送付したというのだ。
田中と立花社長とのやりとりが事実だとしたらMLBの警告は正しいと言えよう。立花社長、というか球団は新制度に反対だから、移籍金とは対照的に上限無く交渉出来る田中の年俸から一部を寄付してもらえるのなら、それは球団の利益にせず施設の充実等の費用に充てるという趣旨なのだろう、田中としても感謝の気持ちで還元…といった感じなのだろうが、敗戦処理。も最初にこの発言を聞いた時には「これじゃまるで『みかじめ料』じゃないか!」と驚いたが、MLBはすぐに反応した。
NPBの熊崎新コミッショナーに求められるのはこうしたスピードある対応なのではないか?
ライオンズからFA宣言してマリーンズに入団が決まった涌井秀章の入団会見で同席した伊東勤監督が「これはあんまり言える話じゃないですけど、今年のシーズン中でも対戦した時、冗談で“ウチは待っているぞ” と話をしていたんです」と発言したそうだ。これは事実なら明らかにタンバリング。涌井の移籍が無効になりかねないルール違反だ。新コミッショナーはまだ着任前だが、着任したらすぐに事実関係を調べるべきだろう。加藤前コミッショナーはジャイアンツの原辰徳監督の1億円問題の渦中に「頑張って下さい」と激励したのみで突っ込んだ調査をしなかったが、その二の舞は避けて欲しいものだ。
NPBが変わる、新しいコミッショナーは一味違うとファンに第一印象でアピールするなら、少なくとも静観はすべきでないと思うが…。
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