谷繁元信兼任監督、来季悩まされる前代未聞にして最大のジレンマ!?
正直、野村克也の出場試合数を超える選手など出てこないと思っていたが、谷繁元信があと117試合と手の届くところに迫ってきた。谷繁は選手兼任監督に就任したが、報道によると選手としては二年契約、監督としては四年契約を結んでいるという。
今季の出場試合数が130試合だから、一割減の117試合の出場で達成出来る。そして幸か不幸か、谷繁の正捕手の座を脅かす後継者がまだ育っていないという事情もある。監督業を兼任することで、今季までのような出場ペースを維持出来ないとしても、二年間あれば、野村超えを果たして日本歴代ナンバーワンとなる可能性は高そうだ。
今季42歳だった谷繁の今季の捕手としての出場数は122試合。谷繁以外のドラゴンズの出場捕手の顔ぶれを見ると、今季25歳だった松井雅人が39試合、36歳だった小田幸平が29試合、30歳だった田中大輔が15試合、同じく30歳の前田章宏が2試合だ。この試合数を見る限りでは谷繁をまだ脅かす存在がいるとは言いがたい。もちろん超ベテランともなると一年で急激に衰えることもあるし、初めての監督業に相当な神経を使うだろう、また、ちょっとした故障でも回復までが長引くということが考えられる。今年までなら一年に117試合出るということは特別にはハードルが高いと言うことはなかったかもしれないが、来季以降は異なるかもしれない。
そして天の邪鬼な見方をすれば、谷繁の出場記録の鍵を握っているのが他ならぬ谷繁本人であると言うことが興味深い。ここに谷繁監督がジレンマに悩まされる可能性が考えられるのである。
安打や本塁打、勝利投手やセーブの記録とは異なり、出場記録というのはその試合に出た時点でカウントされる。とにかく試合に出さえすればいいのだ。連続試合出場記録の場合は一打席を終えるか、1イニングの始まりから終わりまで守備に付いていないと“連続出場”とはみなされないが、出場記録ならそういう制限もない。極論すれば(予告先発が導入されているから非現実的だが)偵察要員でも出場試合数にカウントされる。だが、谷繁の場合は捕手である。打撃面もベテランならではの期待感を持たせるが、ディフェンス能力の高い捕手としての出場が最も期待されるのは変わりない。1イニング程度なら打球が飛んでこないこともある他のポジションとは異なり、プレーの中心である捕手である。今のところ谷繁の出場機会を脅かしそうな後輩は見当たらないと書いたが、故障を含め、谷繁の出場に黄信号がともった時にこれまでにない厄介な問題が浮上してくる。既に気付いている人も少なくないだろうが、選手谷繁を出場させるか否かを判断するのが他ならぬ谷繁本人だということである。
これまでにも幾多の選手がベテランといわれる段階になって個人記録を励みに現役を続け、監督やチームメートの支援によって背中を押されて記録に到達した例は枚挙にいとまがない。だがそうした諸々の例は仮に多少それによってチームの足を引っ張るマイナスな面があったとしても、それとは比べにならないその選手のチームへの貢献度などで監督、チームメート、さらにはファンも若干のマイナス面には目をつぶって記録への挑戦に肯定的な見方をするのだろう。だが、試合出場を決めるのが記録のかかった本人だと事情は異なるのではないか。
敢えて名前を出すが、例えば、連続試合出場記録を更新して引退した衣笠祥雄の晩年、特に最後の二年間は記録への挑戦が無ければ、とてもレギュラーとして全試合出場出来るものでは無かった。チームを預かる当時の阿南準郎監督は大袈裟にいえば、優勝することより衣笠の連続試合出場記録を止めないことの方に監督としての使命を感じていたかもしれない。打率が二割に乗るか乗らないかの選手を全試合スタメンで使いながら昭和61年(1986年)にリーグ優勝を果たした阿南監督の手腕、口に出せない苦労は筆舌に尽くしがたいものがあったろう。
近年では金本知憲にも当てはまる面があろう。右肩を痛めてスローイングがままならなくなった、連続試合フルイニング出場記録を続けていた金本をスタメンから外す決断をした真弓明信監督の苦悩は察するに難くないが、その後も連続試合出場記録を続けるために、試合を勝利に導くことと同時に、いやあるいはそれ以上に金本の出場機会を確保することを使命に感じていたであろう。
基本的にはチームは優勝を目指し、各選手はその目標に向かってすべてを捧げてプレーすることを求められる。そのためか、順位が決まった後は監督としても個人タイトルや節目の記録のかかった選手の後押しに回ることが多い。それはそれまでチームのために自己犠牲を強いてきた選手に対する監督としての還元でもあろう。だが、それはチームの長である監督がするから親心として周囲も納得するのであって、本人である兼任監督が決めるとしたら…。
要するに自分で自分の出場を優先させることが出来るのかということだ。極端なことを言えば、落合博満監督、谷繁捕手という構造であれば、落合監督は谷繁より調子の良い選手が出てきたとしても谷繁優先という起用法をすることに躊躇をしないかもしれない。だが現実には落合はGMではあるが監督ではない。監督は谷繁自身だ。
谷繁監督が何のためらいもなくスターティングメンバーに自分の名を書き入れる。それがすんなり117試合出来れば誰もが納得する形で谷繁が記録達成出来るのだが、それは記録達成にとっては理想的であるが、「ポスト谷繁」の育成面では課題の先送りに他ならないと言う状態になりかねない。
谷繁が兼任監督という立場であるから、これまで通りの一枚看板ぶりを期待出来ないという発想があれば、例えばこのオフ、FA宣言した鶴岡慎也獲得に名乗りを挙げるというのも一つの策だろう。落合GMがそれをしなかったのは鶴岡クラスの捕手が加入したら谷繁監督の捕手としての出番が激減する可能性があるからではないか。同じ兼任監督でもかつての古田敦也であれば「代打、俺」で出場数を稼ぐという手もある。だが、今季、後輩の大野奨太との併用という形でありながらも110試合に捕手として出場した鶴岡が加入したらほぼ一人でフル出場することも可能で、捕手谷繁が完全に控えに回る形になりかねない。
本当であれば「ポスト谷繁」にめどを付けながら、谷繁の出場記録を後押しするという、前述の阿南監督のような人材が監督を務めるのがベストだろう。だが谷繁が誰からも後ろ指を指されるような起用法無しで新記録を達成するならば谷繁にとってはベストだろうが、チーム最大の課題は先送りになる。
そして逆に、監督谷繁が自分の記録を優先していいものかと迷う事態になれば、谷繁の記録達成は二年越しに、そしてさらに遠回りをするかもしれないがチーム最大の課題が解決することを意味する。
落合GMは谷繁の最多出場記録と山本昌の50歳登板を後押しさせてやりたい考えの持ち主らしいが、そうであるならば自分が監督になった方が余程スムースに二つとも実現出来ただろう。
P.S.
谷繁の今季の捕手としての出場数に触れたが、谷繁は今季までで捕手としての出場が2850試合を数えている。捕手としての歴代最多出場は野村の2921試合なのでこちらではあと71試合に迫っている。こちらの方が歴代最多に到達するのが早そうだ。因みに3位は伊東勤2327試合、4位は古田敦也1959試合、5位森昌彦1833試合。大学を出て、社会人を経由してプロに入った古田の出場数の多さも特筆すべきであろう。
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