野茂英雄が野球殿堂入りするということ…。
日本人メジャーリーガーの第一号は南海ホークスからサンフランシスコジャイアンツに移籍した村上雅則だが、それから約三十年間の空白を経て野茂英雄が近鉄バファローズから海を渡ってロサンゼルスドジャースに入団したのが1995年。以後、海外FA移籍やポスティングシステムなど法整備がなされ、数々の日本人選手が大リーグでプレーするようになった。
野茂の野球殿堂入りを祝い、“後輩”の松井秀喜は「明らかに言えるのは野茂さんがいなければ、その後のほとんどの選手は米国に行けなかったということ。そういう道すらいまだにできていなかったかもしれない」と発言。
上原浩治も「野茂さんのおかげで僕らはメジャーでプレーができている。その感謝だけは忘れないようにしないといけない」と語った。彼らが野茂に最大級の賛辞を送るのは当然だろう。足を向けて寝られないとはまさにこういうことをさすのだろう。実際、野茂のドジャース入りがなかったら、ルート造りはもちろんのこと、野茂の活躍によって日本の野球が見直されたというのもあるだろう。野茂が及ぼした影響は計り知れなく大きいだろう。
ただ、そこで引っかかる点がある。野茂のドジャース移籍がルールの不備<!?>を付いた強行突破だった点だ。近鉄バファローズの投手だった野茂は大リーグ移籍を希望したが、FA権を持っているのでもなく、またポスティングシステムも出来ていない時代。球団との交渉はこじれ、半ば強引に任意引退選手として大リーグとの契約に至った。ちなみに現在は任意引退で公示された選手が大リーグのチームに所属することは原則出来ない。鈴木啓示監督との調整法をめぐる確執があったことを逆利用して球団に強い要望を出し、拒否されることを見込んで任意引退→大リーグ移籍というシナリオを組んだと当時言われた。
野茂の移籍が成立した時点での大リーグはストライキの真っ只中だったが再開した大リーグで野茂はスターダムにのし上がった。日本球界は地団駄を踏みながら再発防止を考える一方で正規の移籍ルートを築いた。それが海外FA移籍や後のポスティングシステムといって差し支えなかろう。
野球界に限ったことではないが、時代のスピードにルールが付いていけないというケースは少なくないのだろう。まだようやくFA制度が出来たばかりの頃で、約三十年間も途絶えていた日本人選手の大リーグでのプレーなど想定していない時代だ。野茂の代理人の団野村にしてみれば、ルール違反でなく、ルールの不備を突いての突破だったのだろう。
今にしてみれば、結果オーライと言えるが、見方を変えれば野茂のメジャー移籍は江川卓のジャイアンツ入りと並ぶ二大インチキと言えなくもない。
だが、後に続いた佐々木主浩、イチロー、上原浩治らの活躍もあって、“その原点は野茂”とばかりに野茂の移籍と大リーグでの活躍が評価されることになった。
このオフの田中将大のポスティング移籍に関してはルールの変更などという突発的なことが起こりながらも大半の野球ファンは田中の移籍は実現すべきだと思ったようだ。ゴールデンイーグルスは田中が抜ければ2014年の公式戦には大きなマイナスになることは必至だと思われるが、そのゴールデンイーグルスファンも田中の移籍を後押ししているのが実状のようだ。それもこれも、開拓者野茂の存在があったからだろう。
昨シーズン、王貞治が持っていた年間55本塁打記録を49年ぶりに更新したウラディミール・バレンティンは、日本のプロ野球の象徴とも言える王の記録を破った外国人選手ということで言われ無き中傷も予想されたが、いざ記録を更新すると祝福のオンパレードで奥さんに祝福されなかったことを除けば案ずるより産むが易しの状況だった。バレンティンが思いのほか批判されることがなかったのはバレンティン自身のフェアなプレースタイルもあるが、これまで王の記録に近づいたランディ・バース、タフィ・ローズ、アレックスス・カブレラがまるで「外国人選手に王の記録が破られてはならない」との空気に屈し、土壇場でまともな勝負を避けられたという実態に白けていた野球ファンが、“バレンティンが新記録を達ししたら素直に祝おう”という空気を産んでいたとも思える。バレンティンにとってのバースやローズが、松井や上原から見た野茂に相当するのであろう。先人が踏み台になって後に続くものが認められるということなのだろう。
ジャンルは異なるが、大相撲で初代の外国人横綱となった曙太郎は先輩の小錦八十吉や高見山大五郎が日本の国技という大きな壁に七転八倒したお陰で日本の好角家から外国人横綱への軋轢がかなり抑えられたというのもあろう。
そう考えると、野茂が野球殿堂入りの栄誉を受けるのは当然の権利と言えよう。だがそれだけに、移籍を何とかスムーズに実現させてやれなかったのかと言うことが悔いが残る。
野茂のあと、伊良部秀輝も多少のトラブルはあったが、結果的には千葉ロッテマリーンズからニューヨークヤンキースにトレードされたに近い形になったし、長谷川滋利はオリックス・ブルーウェーブを円満退社して大リーグに移籍した。FAやポスティングシステム以外で円満に移籍が成立したケースが後に続いただけに野茂がいわば強行突破という形でしか大リーグに進めなかったのが悔やまれる。
それにしても、野茂と佐々木、そして秋山幸二とプレーヤー部門で殿堂入りを果たす元選手が一気に若返った印象だ。野茂の45歳4ヶ月での野球殿堂入りは川上哲治さんの45歳8ヶ月を下回る最年少での野球殿堂入りに当たるという。
また秋山は現役監督の野球殿堂入りという時点で珍しいが、2014年のシーズンに臨む十二球団の監督の中で選手兼任の谷繁元信を別にすれば最も若い学年だ。
若返り、早期殿堂入りは良いことなのかもしれないが、エキスパート部門で選ばれるべき、いまだ野球殿堂入りを果たしていない先人を早く殿堂入りさせたいものである。
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