「迷走の巨人」…四番打者キューバの至宝に代打起用
そもそも「キューバの至宝」と言ったらオマール・リナレスだろうが、フレデリク・セペダのことを指すのか、ベイスターズに入団したユリエスキ・グリエルを指すのかという疑問はさておき、突然の獲得発表から一軍デビュー即四番のVIP待遇だったセペダについに原辰徳監督の堪忍袋の緒が切れたのか…。
5月15日の対スワローズ戦での初出場から四番に座り続けるものの、7日の試合前まで52打数9安打で打率.173。17試合連続で四番を務めているが、今季ジャイアンツの四番に座った選手の中で17試合連続で四番に座った選手は他にいない。最も多く四番に座っているのは開幕四番の村田修一で24試合だが、途中で阿部慎之助らに四番の座を奪われている。
ジャイアンツの四番は昨年から阿部から村田にシフトされた。主将にして正捕手という司令塔の阿部の負担軽減と、FA移籍二年目で時期を迎えた村田への期待が高かったのだろう。
今年は開幕から村田を四番に据えたが、村田一人の問題とは思えないがジャイアンツ打線が全体的に低迷。
もっとも開幕オーダーを三試合目には大幅にいじるという原監督の迷いが選手に伝染したのではないかとも思えるが、いずれにせよ村田から阿部、そして新外国人のレスリー・アンダーソンと四番打者も変わっていった。
結果、24試合で四番を打った村田の成績が92打数24安打で.261と四番打者としては物足りない数字だ。村田に代わって四番を打った阿部に至っては4試合で15打数2安打、打率.133に過ぎなかった。
阿部は攻守に精彩を欠いている印象が強く、原監督が「慎之助のチーム」と常々口にしていたことを考えると、今季のジャイアンツそのものが心配になってしまう。ライオンズとの二試合ではついに八番を打つようになった。
新外国人のアンダーソンを第79代四番打者に据えて11試合で39打数17安打、打率.436とようやく打線の中心がしっかりしてきたなと思ったらアンダーソンと同じ外野手のセペダの獲得の話が浮上し、偶然にもセペダのデビュー直前に右太股裏の筋挫傷。セペダの即四番デビューが現実のものとなった。
デーブ・ジョンソン、ロイ・ホワイト、ゲーリー・トマソン、レジー・スミス、ウオーレン・クロマティ、シェーン・マックといった大物大リーガーを獲得した際も、デビュー戦から即四番だった例はない。大リーグで通算314本塁打を放ったスミス獲得の際には「別の選手が四番を打つが、そのことに異議を挟まない」と念押ししたとも言われる。因みに別の選手とは当時入団三年目の原辰徳。前年から四番を打ち始めた原を真の四番打者にするために原の後ろにスミスを打たせるという大方針が球団にあったからだ。四番に定着する前の三番・松井秀喜の後ろの四番に長嶋茂雄監督が落合博満、清原和博らを獲得して据えたのと同じ状況だろう。
大リーグの選手の年俸が一気に上がり、ジャイアンツと言えども大物大リーガーを獲得出来なくなり、安全性も考えて日本国内で実績のある外国人選手を獲得するようになったが、例えば前年にスワローズで204安打を放ったアレックス・ラミレスでも即四番とはならなかった。
十二球団で、四番打者に対して「第○○代…」などと呼ぶのはジャイアンツだけ。まるで大相撲の横綱並みだ。それほど重みがあり、現役15年間で1066試合に四番に座った原監督は「聖域」と称したこともある「巨人の四番」。キューバ代表の四番とは言え、セペダにはデビュー戦から四番の座を与えた。
遡ればセペダの獲得のニュースでは、“キューバ野球連盟と巨人軍の間で、野球技術の向上と人的交流を目的とした友好協定を結びました。 ”という一文があった。本来NPBがやるべきことをNPBの一構成球団に過ぎないジャイアンツが何で?と思ったが、他球団に先駆けてキューバ野球連盟と友好関係を持つことは将来的な選手獲得に強いパイプを築きたいための先行投資というものがあるのだろう。ベイスターズが獲得したグリエルの方が上という見方もあるようだが、片岡治大、井端弘和を補強した年にまた内野手を獲得出来ない事情もあったろう。しかし第一号選手となったセペダに関してVIP待遇をせざるを得ないのは原監督や打撃コーチレベルの判断ではないのだろう。村田や阿部に対して長い目で見ないのに、セペダに関しては18試合辛抱したというのは辛抱せざるを得ない事情があったのだろう。
ジャイアンツでは2005年のダン・ミセリで懲りて以来、起用法に制約が出るような契約を強いられるような外国人選手との契約をしないことを徹底してきた。それ故に実力者の外国人選手がなかなか来ないというデメリットもあったが、現在のホセ・ロペス、スコット・マシソンという成功例が出始めた。アンダーソンも…。その矢先にセペダである。
今季の「巨人の四番」の中では最も好成績のアンダーソンの復帰でセペダを四番から外す大義名分が整ったと考えたのか、キューバとの友好関係に水を差すことにならないという裏付けが取れたからかは定かではないが、四番から外すことが可能になったと言うことだろう。四番から外れると言うことよりも惨めと言える、代打を送られたというのが原監督の腹の虫の収まらなさだったのかもしれない。
好投したライオンズの先発、岸孝之が五回で降板したように、セペダにも何らかのアクシデントがあったのかもしれない。あるいは右打席でのセペダに見切りが付けられただけに過ぎないのかもしれない。
だが、これでDHの使えない試合でのセペダの起用法が難しくなるだろう。亀井善行も安定した成績を挙げている。ベンチウオーマーになりかねない。
先行投資と言えば、かつてチョ・ソンミンと八年契約を結んだときにもドラゴンズの後塵を拝していた韓国球界とのパイプ強化が狙いと思われたが、チョ・ソンミン本人も今一つな成績に終わり、その後に繋がっていない。
セペダが今後、日本の野球に順応して好成績を挙げてくれれば丸く収まるが、そうならない場合、ジャイアンツは打撃低迷が続くだけでなく、さらなる迷走を続けるような気がしてならない…
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