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2014年6月15日 (日)

クローザーからの転向…山口俊は3連勝だが

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ベイスターズで昨年まで
111セーブを挙げながら、今一つ安定感が欠けていた山口俊が先発に転向し、三試合連続勝利投手と結果を残している。クローザーから見事な転身ぶりだ。一方、クローザーからセットアッパー転身を申し渡されていながら、なかなか一軍復帰の声を聞かないのが昨年まで166セーブを挙げているファイターズの武田久


今シーズンはインフルエンザで4月に一度登録を抹消され、体調が戻って一軍に復帰した際にはセットアッパーとしての昇格だったが二度の登板内容に納得がいかない武田久本人からファームでの再調整の申し出があり再び登録抹消。その後イースタンではセットアッパー的に1イニングの登板を何度か繰り返しているが、まだ一軍復帰との声を聞かない。


ファイターズはアンソニー・カーター、宮西尚生、マイケル・クロッタ、増井浩俊と勝ちパターンの継投が一応確立されている。武田久はこの中に割って入ることが出来るのだろうか…。


(写真:最終回で無く、試合途中に登板してイニングを終えた武田久。セットアッパーになると、勝利の歓喜の握手はなくなる…。 2014年4月撮影)



今季の武田久は開幕からは昨年までと同様、クローザーとしての起用が続いた。
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だが開幕戦で九回二死から同点に追いつかれたり、ホークス戦では三日連続登板となった試合で逆転サヨナラ負けを喫するなど残念ながら盤石とは言えなかった。球団は武田久の次のクローザーとして増井浩俊へのシフトチェンジを想定していたと思うが、武田久のインフルエンザによる離脱を機に増井との配置転換を決断したようだ。体調が戻った武田久は5月に再登録されるが、そこで任された役割はセットアッパーだった。



武田久はファイターズの北海道移転後最初の優勝からの二連覇にクローザーとして貢献したMICHEALがジャイアンツに移籍した後、2009年からクローザーを担っている。2010年には不振に見舞われたが、その後もクローザーとして定着している。


そのスタイルは相手打者を圧倒するタイプではなく、走者を出しながら、点差が開いているときは失点しながらも、何とか粘り強く抑えるのが持ち味だ。


投手が1イニング当たり何人の走者を出すかを算出するWHIPという指標がある。昨年の武田久はWHIP1.69。これは勝ち試合の九回に1イニングを投げる武田久が平均で1.69人の走者を許すことを意味する。1.69は1より2に近い。一点差の試合で二人の走者を背負うということは逆転負けのピンチと背中合わせということになる。


昨年の各球団最多セーブの投手のWHIPを列記する。


サファテ 0.92
五十嵐亮太
1.05
西村健太朗
1.09
ラズナー 
1.12
平野佳久 
1.1330
福原忍  
1.1333
ソーサ  
1.19
ミコライオ
1.22
山本哲哉 
1.24
岩瀬仁紀 
1.26
益田直也 
1.31
武田久  
1.69


武田久の数値の異常さがうかがえる。クローザーが走者を出しながら格闘することを一部のファンは「劇場」と揶揄するが、その気持ちもわからなく無い。敗戦処理。は個人的にはクローザーは何人走者を出そうが、あるいはリードを縮められて1点差まで迫られようがとにかくチームを勝たせてくれればいいと割り切って見ている。



一試合で相手から奪わなければならない27個のアウトのうち、最も難しいのが最終回に奪う3個のアウトだと思っているからだ。かつてのジャイアンツのマーク・クルーンの様に最終回のマウンドに上がっていきなり先頭打者を四球で歩かせたらそれはイライラするのもわかるが、一振りで同点にされるピンチで投げているのだ。細心の注意を払えばこその四球はある程度は仕方ない。


だが、何人走者を出してもリードを守ってくれさえすれば文句を言わないのはそれがその試合の最後に投げる投手だからだ。七回や八回に出てくる投手もそれで良いかというと、些かの疑問が残る。


セットアッパーで登板して走者を一人か二人出すのが常套となると、その後の味方の攻撃や、守備陣の疲労に影響が出ると思われるからである。だから、武田久に対し、増井が穴を埋めているから戻ってくるならセットアッパーで、というのはかなり難易度の高い注文だと思うのだ。再登録後二度の登板の後、武田久自ら申し出てファームで再調整になったと報道で知ったが、武田久としてもクローザーとセットアッパーの違いを察知したからこそ、中途半端な状態では務まらないと自覚したのではないだろうか?


昨年までで通算100セーブ以上の投手は25人。クローザーからセットアッパーに転身して奏効した選手は少ない。100セーブ以上の選手を列記しよう。


382S岩瀬仁紀
296 高津臣吾
252 佐々木主浩
228 小林雅英
220 藤川球児
193 江夏豊
180 馬原孝浩
177 クルーン
166 武田久
164 永川勝浩


157 豊田清
139 赤堀元之
138 大野豊
137 大塚晶則
133 斉藤明夫
131 鹿取義隆
130 山本和行
128 イム・チャンヨン
126 牛島和彦
120 ギャラード


117 ペドラザ
116
 郭源治
111
 山口俊
106
 佐々岡真司
104 MICHEAL



セーブの制度が日本でスタートしたのが1974年。1980年代くらいまではチーム事情で先発に回ったりクローザー(当時はストッパーと呼ぶのが一般的)に回ったりする投手も少なくなく、大野豊、斉藤明夫、山本和行、郭源治、佐々岡真司がそうだった。
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100セーブという一定の成績を残してから未知の先発という領域に挑戦するのが今季の山口俊とかつての牛島和彦


だがクローザーからセットアッパーへの転向例となると…


元々今でいうセットアッパー的な起用が多かった鹿取義隆潮崎哲也の頭角で再びセットアッパーに回った例と、ライオンズのクローザーとして名を馳せてFAでジャイアンツに移籍したものの結果を残せずにセットアッパーに転向した豊田清が辛うじて成功例と言えるくらいだろう。


これまでの事例では、一定以上の実績を残したクローザーにとって、クローザーは最終点。クローザーが復活する先はクローザーとしての復活しかないと言っても過言では無い感じもする。


昨今の球界ではクローザー同様、セットアッパーも専門職だ。ほとんどの球団が九回に投げるクローザーだけでなく、その前の八回、七回に投げるセットアッパーを固定する傾向にある。敗戦処理。も個人的には前述した“とにかくチームを勝たせてくれればいい”をセットアッパーにまで拡大解釈しようと思い始めてきた。だが、クローザーとセットアッパーには決定的な違いがある。


名を馳せたクローザーであればあるほど、チーム内での特別待遇が施される。勝ち試合限定登板を始め、同点にされてもイニングまたぎ免除など。ただ、セットアッパーとなるとそれら特典は剥奪される。


まず、少なくとも勝ち試合限定から同点での投入は当たり前になる。場合によってはビハインドの展開でも登板を余儀なくされる。継投がピタリと決まった14日のファイターズ対スワローズ戦。先発の中村勝に二回裏の打席で代打を送ってから早め早めの継投で勝ったから良かったものの、谷元圭介藤岡好明で逆転された場合、ビハインドの展開で起用できる投手が多田野数人しか残っていなかった。この試合はDH制無し。反撃のためには投手の打順には代打起用が必須。つまりヘタをしたらビハインドでもアンソニー・カーター以降の勝利の方程式の投入を余儀なくされたのだ。


そういった環境の変更に対応することは長くクローザーを務めれば務めるほど困難だと予想出来る。これらは敗戦処理。の妄想に過ぎないかもしれないが、武田久は今、そうしたリスクとも戦っているのだろう。


そして武田久の他に、故障に泣かされた永川勝浩馬原孝浩が今、セットアッパーとしての新たな自分の役割を模索している。
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武田久は今季でファイターズとの二年契約が切れる。今季推定年俸
24000万円の投手が居場所を見つける前にシーズンを終えたら…。考えたくはないが、この球団のファンをしていて、どれだけの選手と残念な結末を迎えたか…。


厳しいだろうけど、ハラハラさせながら最後を締めくくる武田久の勇姿を再び見たい。



【参考資料】
「プロ野球本当の実力がわかる本20132014」日刊スポーツ出版社、企画・監修京都純典「OFFICIAL BASEBALL GUIDE 2014」一般社団法人日本野球機構編

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