阿部慎之助の一塁コンバートは本当に本人とジャイアンツのためにプラスになるのか!?
いささか旧聞に属する話だが、ジャイアンツの阿部慎之助が来季は完全に一塁にコンバートされる。阿部は今季も新人の小林誠司にマスクを譲り、一塁手に回るケースが散見されたが、来季は完全に一塁手にコンバートされる。守りの負担を軽くして、打撃の復活を期すのが目的と見られ、コンバートに関しては原辰徳監督と阿部本人が話し合った上での了解事項だとのこと。そしてジャイアンツは阿部のコンバートを踏まえてであろうが、スワローズからFA宣言した相川亮二を獲得した。
阿部は来季で37歳。今季は首痛など故障にも泣かされ、自慢の打棒が振るわず打率.248、19本塁打、57打点。打率はセ・リーグで規定打席に達した選手で最下位だった。打撃を活かす意味で守備の負荷を軽減させるという発想は理解出来るが、本当に阿部とジャイアンツのためにプラスになるコンバートなのだろうか…!?
(写真:阿部慎之助の来季一塁転向を報じる10月28日付け日刊スポーツの1面。報知はもちろん他紙も同時期に大々的に報じた。)
阿部慎之助は新人時代の2001年に開幕スタメン捕手を勝ち取ると、ルーキーイヤーこそ当時ベテランの正捕手だった村田真一との併用という形だったが、村田が引退した翌2002年からは正捕手として君臨。当初は「打撃も期待出来る捕手」という程度だったが、松井秀喜のFA移籍や、その後の主力選手の変遷と共に打線の中心的存在となり、小笠原道大とアレックス・ラミレスの“オガラミ”コンビ崩壊後には「四番・捕手」として名実ともにジャイアンツの中心となっていた。2012年には打率.340でセ・リーグの首位打者に輝き、104打点で打点王に輝き二冠王(27本塁打)になるとともにセ・リーグのMVP、そして正力松太郎賞をも受賞した。だが故障の多いポジションでの金属疲労なのか、特に今季は首痛など満身創痍に近いような状態で望まざるを得ず、上述の如く打率.248、19本塁打、57打点という成績に終わった。MVP、正力松太郎賞の2012年の成績との格差は大きい。今季のジャイアンツは原辰徳監督が打線を固定せず、100通り以上のオーダーを組むなど苦心したが、主砲阿部の不振がきっかけであると言って過言では無かろう。
ジャイアンツも手をこまねいていた訳ではない。二番手捕手の實松一成と2013年から三年契約を結んでバックアップ体制を固めると共に、昨年のドラフト会議ではいわゆる外れ1位ではあるが、社会人野球の即戦力№1捕手の呼び声の高い日本生命の小林誠司を獲得。
一定数の試合で小林にスタメンマスクをかぶせて経験を積ませると共に、阿部に休養を与えたり、一塁手として起用させた。来季はさらに小林の比重を高くしたいのだろうが、入団二年目の捕手と心中する気にはなれないのだろう。阿部より年上で、来季39歳になる相川亮二を獲得した。
確かに、試合の司令塔、グラウンドの監督とも比喩される捕手の重責を外し、他のポジション(阿部の場合は一塁手)に移せば、打撃に専念、あるいは比重を置くことは可能だろうと思うが、阿部とジャイアンツにとってプラスになる方法は他にあるのではないかというのが敗戦処理。の疑問である。
来季で37歳になるという阿部の年齢は確かに中心選手としてはターニングポイントかもしれない。だが、他のポジションならともかく、捕手というポジションは30歳代後半でもそれまでの経験を活かした、味わいのあるリードが出来る年齢なのではないか?ジャイアンツに加わる相川が、中村悠平を中心に若手主体で行くと明言されたらしいスワローズを出て、横一線の勝負を出来る球団を求めたように、まだまだ年齢的に無理なポジションでないと思う。谷繁元信ドラゴンズ兼任監督や、かつての古田敦也、伊東勤、そして遡れば野村克也など40歳前後の年齢で味わいのある名捕手ぶりを発揮した例がある。阿部もこれから味わいが出るのではないか?そしてむしろそのために、打撃の負荷を軽くしてやるというのが阿部とジャイアンツにとってプラスなのではないか。阿部が六番打者か、ぎりぎり七番打者に座る打線で、クリーンアップとの対戦を終えた相手投手に睨みを利かせる存在になる様な打線をジャイアンツなら組めるはずだし、打撃の負荷を軽くすることで阿部に、よりリードに味わいをつけてもらうというわけにはいかないのだろうか。
そしてそんな阿部の背中を見ながら小林にはもう一、二年勉強してもらい、数年後に小林が正捕手になる。そんなイメージだ。
ジャイアンツの打線は、今季は阿部を中心に振るわなかったが、ジャイアンツ打線が「重量打線」として相手チームや相手ファンから恐れられて嫌がられる理由の一つは、捕手とか遊撃手という一般的には守備力重視でレギュラーを決めるポジションにクリーンアップを打てる選手がいることだろう。今季の開幕時には誰が八番を打つのだろうかという心配すらしたほどだ。
単純に考えて、阿部がマスクを被り、ホセ・ロペスが一塁手でスタメンに入る打線と、阿部が一塁を守り、小林がマスクを被る打線のどちらが相手にとって脅威か、言わずもがなだろう。阿部の打撃成績が捕手をやるより一塁手になった方が上がるとしても、ロペスが小林になるマイナス面より上回るだろうか?
特に、今季は村田修一に始まり、身分不相応とも思える大田泰示まで、今季のジャイアンツは9人の選手が四番打者を務めた。かつて“巨人の四番は日本の四番”とまで言われ、十二球団で唯一、歴代の四番打者が“第○○代四番打者”と呼ばれるジャイアンツの四番打者だが、政治的、外向的理由と思えるセペダの四番起用とか、ましてや優勝決定直後で主力選手に休養を与えるためという程度の理由で大田にまで四番を打たせるようなジャイアンツの四番に阿部を固執させるより、捕手阿部を優先させた方が良いのではないか?今季の阿部は首痛等に悩まされながらも、111試合にマスクを被った。これはセ・リーグの捕手では最多で、セ・リーグで今季、100試合以上マスクを被ったのはベイスターズの黒羽根利規が109試合守ったのみ。阿部がコンディションを整えられれば、もう三年間くらいはこの試合数を維持出来ると思う。
他のベテラン捕手の36歳時と比較すると、谷繁は138試合、古田は116試合、伊東は110試合、野村は126試合にマスクを被っている。そして今挙げた捕手の、37歳から39歳までの三年間の捕手としての出場数を見ると、谷繁133、113、114。古田113、139、130。伊東92、88、104。野村129、129、75。明らかに出場試合数を減らしているのは伊東くらいである。但し伊東はその翌年の40歳になる年に104試合、41歳になる年に117試合と盛り返している。阿部と同様に打つ方でも主軸を担った古田や野村も37歳以降も捕手としての出場に減少傾向はない。
小林が捕手としての阿部を脅かすほどの存在になっているというなら話は別だが(あるいは阿部が捕手を続ける限り体調が回復しないというのなら話は別だが)、そうでなければ来年以降まだ阿部を正捕手として起用し、むしろ捕手としての比重を置き、阿部に代わるクリーンアップを充実させる方がジャイアンツにはプラスだと思う。新外国人投手を二人獲得したというニュースがあった。一軍の外国人枠はスコット・マシソンを加えた投手三人と野手一人になるだろう。まだ発表にはなっていないと思うが阿部が守る一塁手が本職のロペスは退団、外野を守るレスリー・アンダーソンとセペダは残留が濃厚と報じられているが、野手の一軍枠はどちらか一人。これでは上述のように打線は今季より下がるかもしれない。
将来的には小林が正捕手になるのだろうが、阿部より年上の相川を獲得するところを見ると、新人時代の阿部や、かつての山倉和博のように高い授業料を払ってでもひとりの捕手を一人前に育てるという覚悟は今のジャイアンツには無さそうだ。今季の打線をころころ変える原監督の野球ではそのような腰を据えた育成を期待するのは無理があろう。
ここまで大々的に発表した以上、阿部の一塁コンバートは断行されるだろう。だが、上述したような名捕手達が味わいのあるリードをしたであろう30歳代後半に捕手業を手放す阿部は一時的に打撃が向上したとしても、失うものの方が大きいのではないか。それは阿部がいずれ現役生活に終止符を打った後、ジャイアンツの指導者となった時に足りないピースとなるのだろう。と言ったら考えすぎだろうか…。
※ 本エントリー中の選手の年齢は学年年齢で表記しています。その年の4月2日から来年の4月1日までに迎える誕生日現在の満年齢です。
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