こぼしたミルクを嘆くな、残ったミルクを大切にしろ。
大引啓次がFA移籍を考えていることについては拙blog11月6日付エントリー糸井嘉男×大引啓次らのトレードは何だったのか!? を参照されたい。大引の会見では何かしらの感情のもつれが露呈して残念だったが、仕方ないと割り切るしかあるまい。
小谷野栄一に関しては、率直に言って、獲得に名乗りを挙げる球団が無いのではと思っていた。来季35歳。確かに故障に泣かされた今季を除けば、五年連続でチームの試合数の九割以上に出場していたが、打点王と自身初の打率三割を記録した2010年を境に打撃面では安定感に欠けている。獲得を検討する球団から見れば獲得しても人的補償の対象にならないメリットがあるものの、三塁手に人材難な球団があるとは思えなかったからだ。また、仮に移籍したとしても、移籍先では嫌がおうにも過大な期待がかかる。それならば、慣れた環境で復活を期す方が本人のためにもプラスかなと思っていた。
今年はオープン戦の時期には主砲、中田翔の三塁復帰で出場機会もろくに与えられず、ヘタをしたら第二の高橋信二になってしまうのではないかと個人的には懸念したし、二ヶ月にわたった右膝内側側副靱帯損傷から回復後も、欠場中に代役を務めた本職が捕手の近藤健介との併用状態だったことに小谷野自身も不安が増していたのだろう。
一方、宮西尚生はFA権を行使しなかった。
今季まで入団以来7年連続で50試合以上登板。これは今季で途絶えた昨年までの岩瀬仁紀の15年連続のまだ半分弱だが、歴代二位である。しかも7年間の半分の4年間で、登板数が60試合に達している。今季は左肘の炎症や左すね痛に苦しみながらも62試合に登板。石井裕也を始めとする他の左のリリーバーとの安定感の差は歴然としており、ひょっとしたら三人の中で最も、移籍されたら代替が効かない存在だったかもしれない。残ってくれて本当に良かったと思う。
タイトルの“こぼしたミルクを嘆くな、残ったミルクを大切にしろ。”はロシアの諺だそうだ。ライオンズと双璧を為すFA流出王国と化したファイターズを応援する身としては、球団の対応に些かの不満、不安を感じながら残ってくれる選手に感謝をし、応援していくしかないだろう。
ファイターズはこのオフ、既に二人の新たな外国人選手の獲得を発表している。左投手でリリーフ向きのビクター・ガラテと三塁手のブランドン・レアード。前者は宮西、後者は小谷野の流出を想定しての人選かもしれない。もっとも左のリリーバーは宮西の残留が決まった今でも不安なので補強は急務だったが。
大引の抜けたショートのポジションは今季二塁手として99試合に出場した中島卓也の転向が噂されている。シーズン中盤から二塁手に固定されてからは攻守に安定感を見せたが、シーズン序盤、時折ショートの守備に付いた中島の細かいミス、というかポカにファンから「中島は守備が雑になった」という声(少なくとも敗戦処理。の周囲では多かった。)が出始めた矢先の転向だった。内野の四つのポジションの中で最も動きが激しく負荷が大きいとされるショートの守備に中島がどう挑むかは見ものだ。
中島が今季守っていた二塁の守備位置には田中賢介の復帰が噂されているが、あまり具体的な話を聞かない。どうなっているのだろうか?ただし仮に復帰したとしても、ファイターズに在籍していた最後の年から三年経っているのである。経時変化を覚悟しなければなるまい。
そもそもファイターズはFAで出て行かれてばかりの一方で、獲得したのは稲葉篤紀ただ一人。その稲葉にしても、メジャーリーグに挑戦するためにFA権を行使したものの、これといったオファーが無く宙ぶらりんになっているところで声を掛けたもので、積極的にFA戦線に打って出たわけではない。(FA補強ではないが)SHINJOと稲葉の獲得があってこその、北海道移転後の快進撃であることを考えると、それこそスワローズやバファローズのように、何年かに一度は育成より補強重視の姿勢を見せても良いのではないかと思う。
「ウチは決してお金がないわけではないのです。育成重視のスタンスなのです」と、球団の偉い人が言っているのを先週直接聞いた。
だが、育成と補強のバランスでこそ安定したチーム造りが可能なのだと敗戦処理。は思う。そして、毎年毎年“こぼしたミルクを嘆く”のは出来れば勘弁して欲しい。
昨年11月15日付拙blogエントリー鶴岡慎也よお前もか!~何故みんなファイターズから出て行きたがるのか!? でも言及したが、FA権行使は資格を取得した選手の権利だから割り切るしか無いのかもしれない。しかしファームでもがき苦しんでいる頃から見続けている選手が出ていくのはやはり寂しいものだ。根拠は無いが、たぶん「お金」だけの問題ではないと思う。
小谷野故障離脱の穴を埋めた近藤は不慣れなポジションにもがきながら、徐々に格好が付いていった。シーズン終盤には三塁守備より難易度が高いであろうショートの守備にも付いた。栗山英樹監督の講演を聴いた @eagleshibakawa さんのツイートによると“近藤の三塁コンバートは降って湧いた出来事でもなく、タイミングを伺っていたとのこと。近藤は1年目からサードの守備練習をしていたという。 ”だそうだが、敗戦処理。には結果オーライにしか思えない<苦笑>。
他球団の事例だが、現役最晩年のジャイアンツの原辰徳が、ある日の試合前、普通にシートノックを受けるために三塁の守備位置に行ったら、横に広沢克己がいたことにへそを曲げて黙って一塁の守備位置に回ったという。広沢は一塁か外野の守備に付く選手。その前年に自らの打席に「代打、長嶋一茂」を送られる屈辱にも冷静を装った原が露骨に意思表示したのだから、その思いは察するに難くない。監督や球団、フロントの思惑と、選手のプライドが必ずしもマッチしないのは理解出来るが、近藤が本職以外で守った二つのポジションのレギュラーが揃ってFA移籍を申し出たのはあながち偶然ではないかもしれない。
小谷野も大引も、残って欲しかったが、決まった以上は新しいチームで頑張って欲しい。大引に関しては人的補償を望めるらしい。一説によるとつば九郎がプロテクト漏れになるという<笑>。そして何より、残ってくれた宮西よ、ありがとう!たぶん来年もいざとなると頼れるサウスポーは宮西だけだろうから、故障に気をつけて頑張ってくれ。
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