君は山口高志を見たか
今年は日本のプロ野球界が80周年ということらしく、NHKBS1で「あなたが選ぶ プロ野球 夢のベストナイン!」という企画でファンからインターネット投票を募り歴代のベストナインを選ぶという番組が26日に放送された(28日に再放送)。
インターネット投票の特徴として、現役選手や比較的新しいOBに票が集まりがちで、ツッコミどころの多い結果になっている面は否定出来ないが、面白い結果に注目した。リリーフ投手部門で故・津田恒実元投手より山口高志の方が投票数が多かったのだ。
故・津田元投手にしろ山口高志にしろ、全盛期は短く、結果的には記録より記憶に残る選手となったタイプだと思うが、特に津田元投手の場合、現役時代に発病し、早くしてユニフォームを脱ぐことを余儀なくされ、32歳の若さで病死した。もちろんその衝撃もさることながら、常にストレートで真っ向勝負という姿勢で抑えのマウンドに上がり、力で相手打線をねじ伏せる姿がファンを魅了していた。その津田元投手より、同じく全盛期は短かったが、入団一年目の阪急ブレーブス初の日本一に貢献する豪腕ぶりで、抑えに、そして先発登板もあるタフな起用法で太く短く輝いた山口高志の方が投票が多かった…。
(写真:山口高志が大車輪の活躍もあって球団初の日本一に輝いた1975年の阪急ブレーブスのペナント 2010年12月阪急西宮ガーデンにて撮影)
リリーフ投手部門の投票結果で、故・津田恒実元投手は566票で第7位、山口高志は677票で第5位。因みに第1位は佐々木主浩で1363票、第2位が江夏豊で1153票、第3位は藤川球児で790票。(番組ではパ・リーグとセ・リーグそれぞれで発表。山口はパ・リーグで第3位に入り、現役時代のVTRも放送された。)
インターネット投票では投票者の印象(記憶)が実績(記録)を上回りがちだが、だとしても津田元投手<山口高志というのは敗戦処理。のみならず意外に感じている人も多いのではないか。因みに現役時代のセーブ数を比較すると、津田元投手が90セーブで、山口高志が44セーブ。
番組での投票結果、上位10投手の投票数をセーブ数で割ってみた。実際のセーブ数以上にファンにインパクトを与えている投手のランキングに置き換えられるのではないか。
投票順位
1位 1363票 佐々木主浩
2位 1153票 江夏豊
3位 790票 藤川球児
4位 687票 潮崎哲也
5位 677票 山口高志
6位 576票 岩瀬仁紀
7位 566票 津田恒実
8位 295票 豊田清
9位 290票 平野佳寿
10位 282票 馬原孝浩
1セーブ当たりの投票数
1位 677票÷44S=15.39 山口高志
2位 687票÷55S=12.49 潮崎哲也
3位 566票÷90S=6.29 津田恒美
4位 1153票÷193S=5.97 江夏豊
5位 1363票÷252S=5.41 佐々木主浩
6位 790票÷220S=3.59 藤川球児
7位 290票÷84S=3.45 平野佳寿
8位 295票÷157S=1.88 豊田清
9位 282票÷180S=1.57 馬原孝浩
10位 576票÷402S=1.43 岩瀬仁紀
山口高志が堂々の1位だ。山口を“全盛期は短く”と書いたが、新人王を獲得して阪急ブレーブスの初の日本一に貢献した1975年(昭和50年)の成績を振り返ると、32試合に登板して12勝13敗1S。32登板の内、先発登板が22で、そのうち18完投。翌年も35試合に登板しているが、先発登板が19試合。二桁のセーブ数を記録したのは三年目の11セーブと四年目の14セーブの二度だけ。それでもファンにリリーフ投手としての印象が強いのは、当時は14セーブでもリーグ最多セーブだった時代だということもあるが、前後期制のプレーオフや日本シリーズでのリリーフ登板での豪腕ぶりの印象が強かったのだろう。当然、CS放送など無かった時代。
「山口はむちゃくちゃ速かった」という印象を持っている人の大半は(プレーオフか)日本シリーズを見た印象なのだろう。敗戦処理。もその一人だ。そしてその山口の凄さを綴った「君は山口高志を見たか 伝説の剛速球投手」(鎮勝也著・講談社)が今年10月に出版されたことも好影響となっているかもしれない。
セーブ数で投票数を割った数値が大きいのが山口、潮崎哲也、故・津田元投手というのは非常に示唆深いと思う。セーブ数が少ない割に投票数が多かった投手が上位に来るわけで、逆に言えば日本プロ野球通算最多セーブの岩瀬仁紀が10人中最下位になるのも頷ける。ただ潮崎はインパクトが大きいというより、当時のライオンズが潮崎に、鹿取義隆や杉山賢人といったリリーフ投手を組み合わせて接戦を拾うスタイルで、必ずしも潮崎が抑え役と固定されていなかったので活躍の割にセーブ数が伸びなかったからであろう。
余談になるが、山口の現役8年間での通算セーブ数、44は印象の割にはあまりに少ない。チームの後輩、平野佳久が今季挙げたセーブ数が40だったことと比較すると歴然だ。上述した通り先発と掛け持ちだった期間が長く、かつそれが現役生活を太く短くさせた一因と思える。平野佳の今季の40セーブを含めた通算84セーブという記録は阪急時代から連なるバファローズ球団の歴代2位のセーブに当たり、球団最多は加藤大輔の87セーブ。歴史の浅いゴールデンイーグルスを別にすれば、球団最多セーブの投手のセーブ数が100を超えていないのはバファローズとジャイアンツだけである。山口をせめて二年目くらいからリリーフ専任にしていれば、他球団の主なリリーフエース同様に通算100セーブを超えていただろうと思うと些か残念である。
本題に戻る。
山口高志に魅了された敗戦処理。としては、山口の名が、ファンの記憶に刻まれる以外の報われ方として、野球殿堂入りを果たして欲しいと思っている。名球会に入るほどの通算記録が無く、文字通り「太く短い」プロ野球人生だった山口高志にもう一度脚光を浴びて欲しいのだ。現実に故・津田元投手は2012年に競技者表彰プレーヤー表彰で野球殿堂入りを果たしている。敗戦処理。は拙blog2012年1月13日付エントリー故・津田恒実元投手が野球殿堂入り。 で、競技者表彰での殿堂入りに疑問を呈したが、あくまでも早過ぎる病死というストーリー性でなく、現役時代のインパクトで殿堂入りを果たしたというのなら山口にも同等の価値はあると思っている。そしていみじくも、NPBとは直接関係のない一テレビ番組のアンケート結果とは言え山口のインパクトが負けず劣らずであると言うデータが出たので取り上げてみた。
ただ、太く短く型の投手といえば、権藤博さんもまだ野球殿堂入りを果たしていないのだ…。
いまだタイガースの投手コーチとして現場で闘っている山口にはまだ先の話かもしれない。
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